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為替リスクの可視化 -財務部門が持つべき視点-

2018年5月31日 PDF
カテゴリー FAAS

情報センサー2018年6月号 FAAS

FAAS事業部 公認会計士 河東 陽志

グローバル企業の会計監査を経て、消費財・機械・金融業などへのGAAPコンバージョンや経営管理の高度化に関するアドバイザリー業務に従事。現在はトレジャリー関連サービスの開発を担当。主な著書(共訳)に『IFRS国際会計の実務 International GAAP2015 (金融商品・保険契約)』(レクシスネクシス・ジャパン)がある。

FAAS事業部 公認会計士 天野 翔太

金融機関、大手ERPベンダーを経て、当法人に入所。会計システム導入および業績管理体制の高度化支援のほか、国内外の財務調査および事業計画策定支援業務に従事。IT&オペレーション構築の領域に強みを有し、IFRSや決算早期化など多くの経理財務業務の改革プロジェクトに関与。主な著書(共著)に『M&AにおけるPPAの実務』(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

市場ボラティリティが増加する経営環境の中で、企業の財務部門への期待はますます高まっています。特に経営管理の高度化という観点から、企業グループ内の為替エクスポージャーを適切に把握することは重要です。為替リスク低減による経営安定化は、海外進出を進める多くの日本企業にとって共通の課題と考えられます。

Ⅱ 為替リスク可視化のための計測手法

為替リスクを管理するためには、為替ポジションを定量的に測定した上で、対象とする通貨に応じたリスク管理手法を適用します。

1. 為替リスクの構成要素分解

為替リスクは、<図1>に記載のとおり、管理可能な「エクスポージャー」と管理不能な「ボラティリティ」に分解されます。

図1 為替リスクの構造

エクスポージャーとは、為替変動にさらされている残高のことです。例えば、同一通貨で資産・負債をバランスよく保有するケースのエクスポージャーは小さく、反対に外貨建て資産に対して邦貨建て負債が大きく計上されているケースではエクスポージャーが大きくなります。
ボラティリティは通貨の変動性を示し、短期では各国の金利水準や政策など、中長期では経済指標などが影響します。統計学的に定量化されますが、対象とする期間の選択により結果が大きく乖離(かいり)する点に留意が必要です。
為替リスクを低減させるためには、通貨別にエクスポージャーの総量とボラティリティを識別した上で、管理すべきと判断したエクスポージャーを一定量に収めるといったアプローチを採用することが考えられます。

2. 為替リスクのモニタリング

効率的な為替リスク管理を実現するためには、グループ全体の為替リスクを識別するとともに、重点的に管理すべき子会社または事業を明確にすることが重要となります。その上で「通貨別×期間別」の観点から、会社単位や事業単位ごとに情報収集を行います。情報収集の方法としてはレポーティング・パッケージを活用する方法のほか、情報システムを活用する方法が考えられ、モニタリング体制の構築に当たっては分析の頻度も考慮します。収集した為替リスクの情報をもとに、会社別や通貨別の観点から可視化することにより(<図2>参照)、対応の優先度を明確にします。

図2 為替リスクの可視化と対応方針

Ⅲ 為替リスクへの対応策

識別した為替リスクについては、エクスポージャーをコントロールすることで、為替レートの変動による損益および純資産の変動を抑制することが可能です。エクスポージャーを調整する方法は、<表1>に記載のとおりさまざまなものが存在しますが、求められる手法は事業の内容や管理方針によって異なります。例えば、エクスポージャーを有する子会社ごとの部分最適を目指すか、あるいは全社または事業単位の全体最適を目指すかの方針の違いが影響します。

表1 エクスポージャー管理の一般的な手法

Ⅳ おわりに

為替リスクへの対応は、事業構造や財務戦略を踏まえたものである必要があり、また採用するアプローチについては環境の変化に応じ見直すことも必要です。事業面では成長のステージや重視される機能(販売・生産)、財務面では各国の投融資に係る規制や、海外における留保資金の活用など、企業を取り巻く外部環境および内部環境を考慮する必要があるからです。
全社的なガバナンス機能の一部を担う財務部門には、財務的な視点からのアプローチのみにとどまるのではなく、事業面も含めた複眼的な視点を持って対応することが求められています。

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