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情報センサー2018年7月号 会計情報レポート

収益認識基準の解説

会計監理部 公認会計士 加藤圭介
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?収益認識の実務-影響と対応-』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(中央経済社)、『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがある。

Ⅰ はじめに

本稿では、平成30年3月30日に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表された、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「会計基準」又は「本会計基準」)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」又は「本適用指針」)の概要について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 会計基準公表までの経緯及び開発に当たっての基本的な方針

これまでのわが国における収益認識については、企業会計原則における実現主義の考え方に基づき、業界慣行や取引実態を踏まえた合理的な会計処理を選択していましたが、新たな業種の誕生やIT化の進展などに伴う取引形態の多様化・複雑化に対応するために、包括的な会計基準による詳細な定めの必要性が高まりました。さらに、日本基準で作成された財務諸表の国際的な比較可能性を確保するため、国際的な会計基準との整合を図る必要性も生じていました。このような背景の下、ASBJにおいて会計基準の開発が開始され、平成29年7月に公表された公開草案に寄せられた意見も踏まえて検討を重ねた上で、今般、収益認識に関する会計基準として公表されました。
会計基準開発に当たっては、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、これまでわが国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いが追加されています。また、基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理が定められています。

Ⅲ 公開草案からの変更点

公開草案からの主な変更点は<表1>のとおりです。このほか、結論の背景の記述の充実が図られています。

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Ⅳ 適用範囲

本会計基準は、顧客との契約から生じる収益を対象とします。このため、通常の営業活動から生じたアウトプットではない固定資産の売却や、リスクと便益を契約当事者で共有する活動又はプロセス(提携契約に基づく共同研究開発等)は含まれません。また、顧客との契約から生じる収益であっても、以下については、本会計基準の対象外とされています(会計基準第3項、第102項~第108項、第111項)。

  1. 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
  2. 企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の範囲に含まれるリース取引
  3. 保険法(平成20年法律第56号)における定義を満たす保険契約
  4. 同業他社との商品又は製品の交換取引
  5. 金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料
  6. 不動産流動化実務指針の対象となる不動産(不動産信託受益権を含む)の譲渡

なお、本会計基準では、IFRS第15号における契約コストの定めを範囲に含めていません(会計基準第109項)。また、顧客との契約から損失が見込まれる場合の取扱いは企業会計原則注解(注18)に従って引当計上の要否を検討することが考えられますが、工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い(工事損失引当金)については適用指針の定めに従います(適用指針第90項、第91項、第162項、163項)。

Ⅴ 会計処理

1. 基本原則

本会計基準の基本となる原則は、「約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識すること」です。企業はこの基本となる原則に従って収益を認識するために、五つのステップを適用します(会計基準16項、17項)。

2. 設例を用いた五つのステップの解説

収益認識の5ステップの適用について、携帯電話の販売と通信サービスを提供する企業の設例を用いて解説します。

[取引の前提]
  • 電気通信会社であるA社は、当期首に2年間の通信サービス(月額1万円×24カ月=24万円)を解約不能とすることを条件に携帯電話を3万円で販売する契約を顧客Bとの間で締結しました。従って、本契約の取引価格の総額は27万円となります。
  • 携帯電話は12万円、通信サービスは月額1万円にて、単独での販売もしています。
  • 携帯電話は契約開始時点で引き渡し、代金を回収します。通信サービスの代金は毎月請求し、回収されます。

設例の前提条件により、携帯電話の販売と通信サービスの提供がどのように収益認識されるかを、収益認識の5ステップに当てはめて確認していきます(<図1>参照)。

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(1) ステップ1:顧客との契約を識別する(会計基準第19項~31項)

まず、ステップ1では一定の要件を満たす顧客との契約を識別します。会計基準では「契約」は、「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決め」と定義されており、書面のみならず、口頭や取引慣行等による場合もあります(会計基準第5項、第19項)。本設例においては、A社は顧客Bとの契約において、携帯電話を引き渡す義務と通信サービスを2年間提供する義務を負い、これらの対価を受領する権利が生じていますが、以下の要件を全て満たす場合に、本会計基準における契約として識別されます(会計基準第19項)。

  • 当事者が契約を承認し、義務の履行を約束している
  • 各当事者の権利を識別できる
  • 支払条件を識別できる
  • 契約に経済的実質がある
  • 対価を回収する可能性が高い

なお、複数の契約を結合して単一の契約とみなす場合や、契約変更の会計処理については、別途の検討が必要となります(会計基準第27項~第31項、適用指針第92項、第101項)

(2) ステップ2:契約における履行義務を識別する(会計基準第32項~34項)

ステップ2では、ステップ1で識別した顧客との契約に含まれる履行義務を識別します。履行義務とは、顧客との契約において別個の財又はサービスを顧客に移転する約束をいいます(会計基準第7項)。契約に複数の履行義務が含まれる場合、そのうち個別に会計処理すべき履行義務を識別する必要がありますが、この判断により、収益認識の時期と金額に影響が及ぶことになります。
本設例においては、携帯電話を引き渡す義務と通信サービスを提供する義務を履行義務として識別し、それぞれ収益認識の単位とすることになります。

(3) ステップ3:取引価格を算定する(会計基準第47項~第64項)

ステップ3では、収益として認識される金額の基礎となる取引価格を決定します。ここで「取引価格」とは、「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く)」(会計基準第8項)と定義されています。従って、例えば消費税などの第三者のために回収する金額については取引価格には含まれません。本設例では契約金額が取引価格とされるシンプルなケースを扱っていますが、取引価格を算定する際には、変動対価や重要な金融要素などの影響を考慮することとされており、金額の見積りや金利相当分の調整などの複雑な過程を経て算定されるケースもあります。
本設例においては、携帯電話の販売及び通信サービスの提供に対する対価の額は、契約金額の27万円と算定されます。

(4) ステップ4:取引価格を配分する(会計基準第65項~第76項)

ステップ4では、ステップ3で算定した取引価格をステップ2で識別した履行義務に、独立販売価格の比率に基づき配分します。従って、複数の財又はサービスをセットで販売した場合においても、それぞれの独立販売価格の比率で財又はサービスに取引価格を配分します。「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格(会計基準第9項)をいいます。なお、独立販売価格を直接観察できない場合には、観察可能な入力数値を最大限利用して、独立販売価格を見積もることとされており、類似の状況においては、見積り方法を首尾一貫して適用するとされています。
本設例においては、取引価格の27万円を携帯電話と通信サービスの独立販売価格の比率を用いて、携帯電話に9万円、通信サービスに18万円を配分します(<表2>参照)。

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(5) ステップ5:履行義務の充足による収益の認識(会計基準第35項~46項)

ステップ5ではステップ4で配分された取引価格に基づき収益を認識します。
企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時、又は、充足するにつれて、取引価格のうち当該履行義務に配分した額によって収益を認識します。履行義務の充足により、財又はサービスに対する支配は、企業から顧客に移転することになります。企業は契約における取引開始日に、ステップ2において識別されたそれぞれの履行義務が一定の期間にわたって充足されるものか、一時点で充足されるものかを検討します。一定の期間にわたり充足される履行義務の要件に該当するものは履行義務を充足するにつれて、この要件に該当しない場合には一時点で収益を認識します。
本設例においては、履行義務の性質に基づき、携帯電話の販売は一時点で履行義務を充足すると判断し、携帯電話の引渡時に収益を認識します。また、通信サービスの提供は、一定の期間にわたり履行義務を充足すると判断し、当期及び翌期の2年間にわたり収益を認識します。この結果、企業が当期に認識する収益の額は、携帯電話の販売9万円と通信サービスの提供9万円の合計18万円となり、翌期に通信サービスの提供に対する収益の額9万円を認識することになります。

このように、基本的な収益認識の考え方はこれまでの実務と大きく変わるものではありませんが、本会計基準の適用により、5ステップのそれぞれの要件が具体的に定められていることから、収益認識の時期や金額がこれまでの実務と変わる可能性があります。

3. 特定の状況又は取引における取扱い

適用指針においては、前記1. 2.で解説した基本原則に加えて、以下のような特定の状況又は取引における取扱いが定められています(適用指針第34項~第89項)

  1. 財又はサービスに対する保証(ステップ2)
  2. 本人と代理人の区分(ステップ2)
  3. 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ステップ2)
  4. 顧客により行使されない権利(非行使部分)(ステップ5)
  5. 返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払(ステップ5)
  6. ライセンスの供与(ステップ2及び5)
  7. 買戻契約(ステップ5)
  8. 委託販売取引(ステップ5)
  9. 請求済未出荷契約(ステップ5)
  10. 顧客による検収(ステップ5)
  11. 返品権付きの販売(ステップ3)

4. 重要性に関する代替的な取扱い

適用指針では、<表3>のとおり、個別項目に対する重要性の記載等の代替的な取扱いを定めています。なお、個々の項目の要件に照らして代替的な取扱いの適用の可否を判定することになりますが、過度の負担を回避するために、金額的な影響を集計して財務諸表全体に対する金額的重要性の有無を判定することは要求されていません(適用指針第164項)。

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Ⅵ 開示

以下に記載の早期適用時における必要最低限の注記事項のみを定め、それ以外の注記については原則適用時までに検討することとしています(会計基準第80項)。

  • 主要な事業における主な履行義務の内容
  • 当該履行義務を充足する通常の時点

Ⅶ 適用時期等

1. 適用時期(会計基準第81項~第83項)

(1) 原則適用の時期

平成33年4月1日以後開始する年度の期首から適用します。

(2) 早期適用の時期及び早期適用時の取扱い

平成30年4月1日以後開始する年度の期首からの適用が認められるほか、平成30年12月31日に終了する年度から平成31年3月30日に終了する年度までにおける年度末に係る財務諸表からの適用も認められます。この場合の適用翌年度の比較情報については、期首に遡(さかのぼ)って適用します。なお、早期適用する場合には、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に対して同時に適用する必要があります(「収益認識に関する会計基準(案)等に対するコメント」5. 第1部135))

2. 会計基準適用初年度の取扱い(会計基準第84項~第89項)

適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱いますが、遡及(そきゅう)適用に当たっては原則的な取扱いのほか、経過措置が定められています。

① 原則的な取扱い

新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用します。なお、一定の要件を満たす契約については適用初年度の比較情報等を遡及的に修正しないことをはじめ、幾つかの例外的な定めがあります。

② 経過措置(会計基準第84項ただし書きの方法)

適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができます。なお、連結財務諸表にIFRS又は米国会計基準を適用している会社(その連結子会社を含む)は、個別財務諸表においてもIFRS第15号又は米国会計基準における経過措置に従うことができます。

Ⅷ 設例(適用指針 設例)

会計基準及び適用指針の理解を深めるための参考として、IFRS第15号の設例を基礎としたものに加え、五つのステップについての設例及びわが国に特有な取引等についての設例が示されています。


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