情報センサー

競争当局の国際協力と独禁法

2018年7月2日 PDF
カテゴリー EY Law

情報センサー2018年7月号 Antitrust Law Compliance

EY弁護士法人 弁護士 中島 康平

弁護士・ニューヨーク州弁護士。2018年1月、EY弁護士法人入所。入所前は国内外の法律事務所及び公正取引委員会事務総局において主に独占禁止法・競争法関連の業務に従事していた。

Ⅰ はじめに

経済活動のグローバル化に伴い、国際カルテル事件や国際的に事業を展開する事業者の企業結合が増えています。これらの国際的な事案に対する審査を効率的に進めていくために、各国の競争当局が相互に協力していくことが一般的に行われるようになっています。審査を受ける企業側としても、情報交換等に基づき連携された複数の競争当局による審査に対し、個別の対応ではなく、相互に矛盾がないようにグローバルに連携・統一された対応が求められます。
本稿では、調査を受ける企業にとって実態が必ずしも明らかではない当局間における情報交換等の国際協力の枠組みを概説し、近時の当局間協力の事例を紹介します。

Ⅱ 競争当局間の情報交換

1. 国内法の規定

競争当局は、相互に連携して審査を行うことを効率的な法執行の観点から重視するようになってきていますが、情報交換の範囲には情報の秘密性に起因する制限があります。例えば、日本の公正取引委員会(以下、公取委)の場合、国家公務員法100条及び独占禁止法39条に規定する守秘義務があり、これらの義務に反する情報交換を行うことはできません。
一方で、独占禁止法には、公取委による外国競争当局に対する情報提供の根拠規定(43条の2)が置かれています(2009年改正により追加)。ここでは、公取委が、相互主義、秘密性担保、目的外使用の禁止等の条件の下で、外国競争当局に対して、その職務の遂行に資する情報の提供を行うことができると明示されています。同規定は情報提供に当たっての条件等を明確化したものであり、提供可能な情報の範囲を変更するものではないとされていましたが、近時では、後述の第二世代協定との関係で、秘密情報の共有を可能とする情報ゲートウェイ規定※1であると説明されることが多いように思われます。

2. 国際的な協力枠組み

(1) 第一世代協定等

情報交換等の国際協力の枠組みを定めるものとしては、二国間協力協定、経済連携協定、競争当局間の協力に関する覚書・取決め(MOU)等があります。
日本は、情報交換等の協力に関して、米国(1999年)、欧州連合(EU)(2003年)及びカナダ(2005年)との間で、二国間の独占禁止協力協定を締結しています。これらの協定は、競争当局間の執行活動に係る通報、協力、調整等を内容としています。また、公取委は、現在11の競争当局との間でMOUを締結しています。
これらの協定等の多くは第一世代※2と呼ばれるものであり、自国法の権限の枠内での協力にとどまるものです。これらの協定等の締結により、守秘義務に反する情報を提供できるようなものではありません。具体的な情報交換の範囲に関しては、例えば、強制調査権限で入手した資料それ自体は秘密情報に該当するものの、その存在に関する情報は第一世代協定に基づき開示可能とされています。また、事業者の秘密に当たらない限り、執行活動の対象となる違反行為の概要や法適用の考え方等の情報も提供できるとされています。

(2) 事業者の権利放棄

当局の守秘義務を解除し、秘密情報の交換を可能にする最も典型的なものとして、事業者による権利放棄(waiver)があります。秘密情報を提供した事業者の同意を取得することで、当局は秘密性を有する情報の共有が可能になります。企業結合の場合、競争当局間の情報共有に同意することで、矛盾のない問題解消措置や早期のクリアランス取得の可能性があります。また、カルテル事件の場合、リニエンシー(課徴金減免)申請をした事業者から同意を取得することで、競争当局は秘密情報を共有して審査を進めることができます。従って、複数の当局から同時に立入検査等を受けた場合、リニエンシー申請者から提供された情報が競争当局間で共有されている可能性を念頭に置いて対応を検討する必要があります。

(3) 第二世代協定等

さらに、秘密情報の共有を可能とする枠組みの整備も進められています。EUでは、欧州委員会及び加盟国の競争当局が、秘密情報を含め事件調査に関して収集した情報を交換できることが明文化されています。また、米国・オーストラリア間の執行援助協定(1999年)では、情報提供者の同意を得ずに秘密情報の共有が可能とされています。EU・スイス間の協力協定(2013年)、オーストラリア・ニュージーランド当局間のMOU(2013年)、カナダ・ニュージーランド当局間のMOU(2016年)等も、同様に第二世代になります。
日本でも、第二世代協定等の締結・整備が進められています。2015年4月には公取委がオーストラリア競争・消費者委員会との間で、2017年5月にはカナダ競争局との間で、それぞれ第二世代のMOUを締結しており、審査過程において入手した情報を共有することが可能になっています※3。もっとも、リニエンシー申請者からの情報は当該申請者の同意がなければ提供されず、また、関係人の協力を得ることを重視する公取委としては、関係人の任意の協力に基づき作成された供述調書も提供しないと考えられています。
さらに、EUとの間の協力協定についても第二世代に改正するための交渉の準備が始められており、今後も第二世代協定等の締結・整備による国際協力のいっそうの強化が進められていくものと思われます。

Ⅲ 近時の当局間協力

国際カルテル事件について、公取委は、前述のⅡの協定等に基づき具体的な情報交換を行い、立入検査等を同時に行っています。近時では、マリンホース・カルテル事件、テレビ用ブラウン管カルテル事件、自動車部品に関するカルテル事件等において、米国司法省、欧州委員会等とほぼ同時期に調査を開始し、必要な情報交換を行っています。また、アルミ電解コンデンサの国際カルテルに関するシンガポール競争委員会の公表によれば、同委員会は、米国司法省、欧州委員会、日本の公取委及び台湾の公平交易委員会との間で情報交換を行い、関係人からの証拠収集の状況や調査の進捗(ちょく)状況を共有し、調査に関連するさまざまな手続き上の問題について議論したとされています。
また、国際的企業結合案件に関しても、近時の主要な公表事例において、公取委が、米国司法省、米国連邦取引委員会、欧州委員会等との間で情報交換を行いつつ審査を進めたことが明らかにされています。

※1 情報源からの事前同意なく競争当局間の秘密情報の交換を可能とする規定

※2 本稿では、審査過程において入手した情報の交換に関する規定を有するかによって、第一世代と第二世代を区別している。

※3 ただし、審査過程において入手した情報の提供は、第二世代協定が存在することで可能となるわけではなく、独占禁止法43条の2の規定を根拠として行うことが可能となっていると説明されている。

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