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実務対応報告第18号の改正案の解説

2018年7月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2018年8月・9月合併号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 西野 恵子

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『連結財務諸表の会計実務(第2版)』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から平成30年5月28日に以下の実務対応報告の公開草案(以下、合わせて「本公開草案」)が公表されています。

  • 実務対応報告公開草案第55号(実務対応報告第18号の改正案)「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(以下、実務対応報告第18号の改正案)
  • 実務対応報告公開草案第56号(実務対応報告第24号の改正案)「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(以下、実務対応報告第24号の改正案)

本公開草案は、平成18年の実務対応報告第18号の公表から本公開草案の検討時点までの間に、新規に公表又は改正された国際財務報告基準(IFRS)及び米国会計基準のうち、修正項目として追加する項目を示すことを目的として公表されたものです。
本稿では、本公開草案の概要を解説します。なお、本稿における意見に係る部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 修正項目として追加する項目

平成18年の実務対応報告第18号の公表から本公開草案の検討時点までの間に、新規に公表又は改正された主要なIFRS及び米国会計基準を対象に、修正項目として追加する項目の有無について、わが国の会計基準に共通する考え方と乖離(かいり)するか否かの観点や実務上の実行可能性の観点に加えて、子会社における取引の発生可能性や子会社において発生する取引の連結財務諸表全体に与える重要性の観点等から検討が行われました。その結果、Ⅱ1.の項目を修正項目として追加し、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」やIFRS第9号「金融商品」(以下、IFRS第9号)のその他の項目、米国会計基準は修正項目として追加しないことが提案されています。なお、IFRS第16号「リース」、IFRS第17号「保険契約」、ASU第2016-02号「リース」については、IFRSのエンドースメント手続が終了した後に検討を行うこととされています。

1. 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整に関する取扱い

実務対応報告第18号の改正案では、在外子会社等でIFRS第9号を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合に、次の修正を行うことが提案されています。

  • 当該資本性金融商品の売却を行ったときに、連結決算手続上、当該資本性金融商品の売却損益相当額を当期の損益として修正する
  • 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定め又は国際会計基準(IAS)第39号「金融商品:認識及び測定」の定めに従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する

持分法適用関連会社において実務対応報告第18号に準じて処理を行う場合にも、当該修正を行うことが提案されています。

2. 実務的な対応

親会社(投資会社)の連結決算のための情報を収集する内部統制を構築し、子会社(関連会社)で保有する資本性金融商品の銘柄について、売買損益のリサイクリングや、減損の判断等に必要な情報を入手する必要があり、親会社(投資会社)や子会社(関連会社)において以下のような対応が求められます。

(1) 資本性金融商品の帳簿価額の二重管理

在外子会社等において、所在国での財務報告のためにIFRS又は米国会計基準に準拠した帳簿価額を管理している場合に、親会社の連結決算のために日本基準に準拠した帳簿価額の管理が必要になります。IFRSに基づく取得原価は、減損を考慮しないIFRS第9号に基づく取得原価であるため、過年度の減損を反映した日本基準に基づく取得原価のデータを別途管理する必要があります。データの管理のために、在外子会社等におけるシステムの開発を含めた検討が必要になる可能性があります。

(2) 減損処理への対応

在外子会社等に対し、現地の決算で要求されない情報や会計処理を、親会社の決算のために要求することになるので、廃止されるIAS第39号や日本基準に基づく会計処理の内容を理解し、正確な運用を行うために、基準の翻訳や現地への指導、監査対応等が必要になることが考えられます。

Ⅲ 適用時期等

1. 原則適用

実務対応報告第18号の改正案では、平成30年改正の実務対応報告第18号(以下、平成30年改正実務対応報告) を平成31年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用することが提案されています。

2. 早期適用

Ⅲ1.の定めにかかわらず、平成30年改正実務対応報告の公表日以後最初に終了する連結会計年度及び四半期連結会計期間において適用できることが提案されています。

3. 実務上の実行可能性に関する経過措置

Ⅲ1.の定めにかかわらず、修正項目に対応するための整備に一定の時間を要する場合に配慮し、平成32年4月1日以後開始する連結会計年度の期首又は在外子会社等が初めてIFRS第9号を適用する連結会計年度の翌連結会計年度の期首から適用できることが提案されています。この場合、その旨を注記することが提案されています。

4. 適用初年度の取扱い

適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことが提案されています。会計方針の変更による累積的影響額を当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができるものとし、この場合、在外子会社等においてIFRS第9号を早期適用しているときには、遡及(そきゅう)適用した場合の累積的影響額を算定する上で、在外子会社等においてIFRS第9号を早期適用した連結会計年度から平成30年改正実務対応報告の適用初年度の前連結会計年度までの期間において資本性金融商品の減損会計の適用を行わず、平成30年改正実務対応報告の適用初年度の期首時点で減損の判定ができることが提案されています。

5. 公表日以後最初に終了する四半期連結会計期間から早期適用する場合の取扱い

公表日以後最初に終了する四半期連結会計期間に平成30年改正実務対応報告を早期適用し、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の利益剰余金に計上する場合、会計方針の変更による累積的影響額を早期適用した四半期連結会計期間の期首時点ではなく、連結会計年度の期首時点の利益剰余金に計上することが提案されています。また、早期適用した連結会計年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表においては、早期適用した連結会計年度の四半期連結財務諸表(比較情報)について平成30年改正実務対応報告の定めを当該早期適用した連結会計年度の期首に遡(さかのぼっ)て適用することが提案されています。
なお、実務対応報告第24号の改正案においても、適用時期等について実務対応報告第18号の改正案と同様の提案をしています。

※ 資本性金融商品は、原則として、純損益を通じた公正価値で測定されるが、トレーディング目的で保有していない場合には、その他の包括利益を通じた公正価値で測定することが認められている。

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