刊行物
情報センサー2018年12月号 会計情報レポート

「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」の概要 第2回

会計監理部 公認会計士 江本卓也
平成28年7月から平成30年6月まで、金融庁総務企画局(現企画市場局)企業開示課において勤務。現在は、国内事業会社の監査業務に従事するとともに、品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。

Ⅰ はじめに

企業会計基準委員会(ASBJ)から、平成30年8月30日に「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」(以下、本意見募集文書)が公表されました。本意見募集文書のコメント募集期間は、平成30年11月30日までとされています。
本意見募集文書では、「金融商品の分類及び測定」、「金融資産の減損」及び「ヘッジ会計」の主要な論点が分析されていますが、第2回となる本稿では、本意見募集文書の位置付けと「金融商品の分類及び測定」の概要について解説した第1回(本誌 2018年11月号掲載)に引き続き、「金融資産の減損」及び「ヘッジ会計」の概要について解説します。なお、本稿における意見に係る部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 「金融資産の減損」の概要

1. 国際的な会計基準との比較

金融資産の減損(予想信用損失の認識)について、日本基準、国際財務報告基準(IFRS)及び米国会計基準の取扱いは<表1>のとおりです。

(下の図をクリックすると拡大します)

「金融資産の減損」は、債券(純損益を通じて公正価値で測定する方法(FVPL)を選択する場合を除く)の減損及び債権に対する貸倒引当金の計上が対象となります。株式については、米国会計基準では原則としてFVPLのみとなり、IFRSではトレーディング目的で保有する場合を除き、FVPL又はその他の包括利益(OCI)を通じて公正価値で測定する方法(FVOCI)のいずれかを選択しますが、IFRSにおいてFVOCIを選択する場合でも累積されたOCIは事後的に損益に計上されない(リサイクリングなし)ため、減損処理は不要となります。

2. 主な適用上の課題

IFRSでは、日本基準のように債務者の状況に応じた債権区分(一般債権、貸倒懸念債権及び破産更生債権等)に対応する貸倒引当金を計上するのではなく、個々の債権単位で債権の信用リスクが当初認識以降に著しく増大しているかどうかを評価した上で予想信用損失を測定します。従って、同一債務者に対する債権でも、当初認識時の信用リスクの違いにより12カ月の予想信用損失を測定する場合と、全期間の予想信用損失を測定する場合が混在する可能性があります。このため、個々の金融資産の単位で当初認識時の信用リスクとの比較を行う必要があり、個々の債権に対する信用リスクのデータを整備し、当該データを保存するプロセスの整備やシステムの改修等が必要となると考えられます。
さらにIFRSでは、将来予測的な情報に基づき、企業の信用リスクを適切に反映する予想信用損失を測定するため、将来予測的な情報を反映するためのデータの整備やその反映方法の妥当性を検証するプロセスの構築が必要となると考えられます。
また、IFRSでは債券(FVPLを選択する場合を除く)についても前記と同様の評価を実施する必要があります。特に市場価格のある債券については、保有者が入手できる情報が限定的となる可能性があるため、債券の個別性も踏まえて、信用リスクに関するデータを収集するプロセスを確立する必要があると考えられます。

Ⅲ 「ヘッジ会計」の概要

1. 国際的な会計基準との比較

日本基準では、ヘッジ期間を通じてヘッジ有効性を定量的に評価し、ヘッジが有効であると認められる場合には、ヘッジが非有効となる部分についても、ヘッジ会計の対象として繰延処理することが認められています。
一方IFRSでは、ヘッジ有効性の定量的な評価は求められないものの、ヘッジ非有効部分については、原則として純損益に計上する必要があります。
また、日本基準では一定の要件を満たす場合に金利スワップの特例処理や為替予約等の振当処理といった例外的なヘッジ会計が認められていますが、IFRSではそのようなヘッジ手段としてのデリバティブを時価評価しないヘッジ会計は認められていません。さらに、IFRSには日本基準のような銀行業及び保険業における包括ヘッジの定めはありません。

2. 主な適用上の課題

IFRSでは、原則として、純損益に計上するヘッジ非有効部分を計算する必要があるため、その金額を計算するプロセス(システムの改修を含む)を追加する必要があると考えられます。また、現在金利スワップの特例処理や為替予約等の振当処理を適用している取引について、他のデリバティブと同様、デリバティブを時価評価する必要が生じることから、デリバティブの時価の算定や検証プロセスの追加等、決算プロセスの変更が必要となると考えられます。さらに、日本基準で認められている銀行業及び保険業における包括ヘッジの対象となるヘッジ取引について、IFRSにおけるヘッジ会計を適用する場合には、ヘッジ会計の要件に対応するためのプロセスの変更等が必要になると考えられます。