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情報センサー2018年12月号 IFRS実務講座

事業の定義(IFRS第3号の改訂)

IFRSデスク 公認会計士 岩田英里子
2005年、当法人に入所。以降、主として個別受注産業、広告業等の会計監査、株式公開準備監査、およびJ-SOX導入支援業務に携わる。17年よりIFRSデスクにて、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆業務などに携わっている。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2018年10月22日に「事業の定義に関する改訂」(IFRS第3号の改訂。以下、本改訂)を公表しました。本改訂の目的は、IFRS第3号の適用に当たり、事業と資産グループをどのように区別すべきかを明確にすることです。事業とみなすための最低限の要求事項、アウトプットの定義の改訂、設例の追加等を実施し、何が事業に該当するのかを明確にしています。本改訂は、取得日が20年1月1日以後開始する最初の事業年度の期首以後である企業結合に適用されますが、早期適用も認められます。

Ⅱ改訂の背景

14年から15年にかけて、IASBはIFRS第3号の適用後レビューを実施しました。このプロセスの中で、基準に対する全体的な合意は得られたものの、現行のIFRS第3号で規定されている事業の定義の範囲が広く曖昧であり、また、取得した活動及び資産の組み合わせが事業であるか否かを評価するためのガイダンスがほとんどない等、幾つかの問題点が識別されました。そこで、事業の範囲をより明確にすべく、改訂がなされました。

Ⅲ 改訂の内容

IFRS第3号は、企業結合を「取得企業が1つ又は複数の事業に対する支配を獲得する取引又はその他の事象」と定義しています。
IFRS第3号において、事業を取得する取引に関する会計処理は、事業を構成しない資産グループを取得する取引に関する会計処理と異なるため、事業の定義は非常に重要となります。本改訂では、事業と資産グループを区別するために、より明確な適用ガイダンスを提供することを意図しており、主に以下の改訂を行っています。

1. 取得した資産の公正価値が単一の資産に集約されるか

本改訂では、統合された一連の活動及び資産を取得する取引が、事業の取得か、資産の取得かを判定するための評価を単純化するために、コンセントレーション・テストの実施を規定しています。本改訂によれば、取得した資産全体の公正価値のほぼ全てが、識別可能な単一の資産又は同様の資産グループに集約される場合、統合された一連の活動及び資産は事業には該当しません。当該コンセントレーション・テストは、支払対価の合計や純資産ではなく、取得した資産全体の公正価値に基づいて実施されます。コンセントレーション・テストの結果、統合された一連の活動及び資産が事業に該当しないと判断された場合には、企業は事業の定義に関する他のガイダンスを評価する必要はなく、手続が簡略化されることになります。ただし、当該検討を行わなくても結論が明らかな取引もあると想定され、IASBは当該検討を強制する必要はないと判断し、取引ごとに企業が選択することを認めています。

2. 取得したプロセスが実質的か否かのガイダンス

前記1.に該当する取引は、その事実をもって、資産の取得と判定されます。取得した活動及び資産の組み合わせが事業に該当しないと判断されない場合は、取得した活動及び資産の組み合わせに、アウトプットの創出に寄与する能力を有するインプット及び実質的なプロセスが含まれているか否かの検討を行い、該当する場合には事業の取得として会計処理を行うことになります。この評価に当たっては、<表1>にある重要な定義が適用されます。

(下の図をクリックすると拡大します)

本改訂では、資産及び活動の組み合わせにアウトプットがある場合、資産及び活動の組み合わせにアウトプットがない場合の二つのケースにつき、実質的なプロセスを含んでいるか否かについて考慮する評価基準を提供しています。
組み合わせにアウトプットがある場合、次のいずれかに該当すれば、その組み合わせは事業であるとしています。

  • 組み合わせが、取得したインプットに適用した場合に、(たとえ、組織化された労働力の取得がなくても)アウトプットの生産を継続する能力に寄与するプロセスを含んでおり、かつ、当該プロセスが独特又は希少と考えられるか、あるいは多大なコスト、労力又は遅延を生じずに入れ替えることができない場合
  • 組み合わせが、取得したプロセスを遂行するために必要な技能、知識又は経験を有する組織化された労働力を含んでおり、それを取得したインプットに適用した場合に、アウトプットの生産を継続する能力にとって決定的なものである場合

一方で、組み合わせにアウトプットがない場合、組み合わせが事業であると見なされるためには、次の二つの要件を満たすことを要求しています。

  • 組み合わせに、取得した実質的なプロセスを遂行するのに必要な技能、知識又は経験のある組織化された労働力が含まれること
  • 取得した実質的なプロセスは、他の取得したインプットを開発又は変換してアウトプットにする能力にとって決定的なものであること

3. 事業の最低限の要求事項

事業と資産グループを区別するものはプロセスであり、事業の取得と考えられるためには、最低限、アウトプットの創出に貢献するインプット及び実質的なプロセスを含んでいる必要があります。

4. 足りない要素を置き換えることができる市場参加者

IFRS第3号では、市場参加者が、足りない要素を置き換えて引き続きアウトプットを創出することができる場合には、取得した活動及び資産の組み合わせは事業であるとしています。しかし、市場参加者の能力を評価することは困難な場合があることから、事業を取得したか否かの判断は、市場参加者が取り換え可能であることではなく、取得したものに基づいて評価すべきであると考え、足りない要素を置き換えることができる市場参加者に関する要求事項を削除しています。

5. アウトプットの定義

アウトプットの定義について、投資家、その他の所有者、構成員又は参加者に対して、コストの削減やその他の経済的便益という形でのリターンを提供するという記述を削除した上で、顧客への財又はサービスの提供に焦点を当てることにより、定義を狭めています。


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