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情報センサー2018年12月号 Trend watcher

インフラビジネスのグローバル戦略における留意点

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 木村耕平
総合商社、外資系投資銀行、経営コンサルティングファームなどで一貫して国内外インフラ分野のM&A、FA、事業投資、経営管理などに広く従事した後、2018年に当社入社。インフラストラクチャー・アドバイザリーにおいて国内外のクライアントに対しM&Aや戦略立案、ポートフォリオ再編、組織強化など多様なテーマのアドバイザリー業務に従事。

Ⅰ はじめに

2012年から始まった第2次安倍政権の経済政策、いわゆる「アベノミクス」において、第三の矢である「成長戦略」として13年に発表されたのが「日本再興戦略」です(14年改訂)。その中で「インフラ輸出」は、成長を続ける世界のインフラ需要を取り込む重要なアクションとして位置付けられ、現在でも「未来投資戦略2018」において重点施策として推進されています。
本稿では、「インフラ輸出」がわが国の政策として推進されるようになり5年が経過した今、改めてインフラビジネスに関わる本邦企業のグローバル戦略(海外戦略)において留意すべき点を整理します。

Ⅱ インフラ関連企業のグローバル展開の類型

政府の「インフラ輸出」の後押しを受ける以前から、本邦インフラ関連企業は積極的に海外展開を模索していました。その類型を以下に整理します。

① 機器・製品輸出

重機械・重電系メーカーによるタービンや鉄道車両、大型ポンプなどは、従来海外市場でも高く評価されてきており、シェアの変化等はあるにせよ、現在でも一定の輸出競争力を維持しています。

② EPC※1

石油化学分野を中心とした一部エンジニアリング会社を除き、ゼネコンを中心としたEPC請負企業の海外進出はこれまで日本政府の政府開発援助(ODA)や日系企業の工場建設などに依存するものが中心でした。

③ BOT※2・IPP※3型プロジェクト投資

商社や電力会社を中心に2000年代以降増加した取り組みです。政府系金融機関などのサポートを得てIPPのみならず海水淡水化、廃棄物処理、エネルギー関連プラントなどに投資が行われています。

④ コンセッション・民営化

水道会社・ガス供給会社や垂直統合型電力会社、港湾・空港運営、鉄道事業経営など、単体のプラント投資でなく複合的かつ長期に事業経営全般を行うビジネスです。商社や大手ガス会社などが一部取り組んでいますが、本邦企業による実績はまだ多くありません。

Ⅲ 今後の方向性

前項の類型のうち、①機器・製品輸出②EPC③BOT・IPP型プロジェクト投資に関しては、プロジェクト・オーナー(発注者)の視点は「コスト」にあることに留意が必要です。これら発注者は、一定の品質・性能が担保されることを前提に「最も安価に製品・サービスを提供する事業者」を選定します。これまで、ODAや政府系金融機関などのサポートを得てトータルの価格で勝負できていた日本企業ですが、近年、中国をはじめとする新興国が技術的にも資金面(政府サポートを含む)でも急速に力を付けてきており、競争力を確保できない場面が出ています。
一方で、④コンセッション・民営化は、社会基盤であるインフラサービスを丸ごと経営するビジネスであり、「収入を含めたトータル・コントロール」である点において、前述の①~③と大きく異なります。コンセッションや民営化においてコスト・コントロールはあくまで経営の一側面にすぎず、インフラサービスの最終受益者である市民の負担(すなわちインフラ運営企業の収入)を含めたトータルの視点での経営が求められます。
コンセッションや民営化のビジネスモデルは英国をはじめとして欧州が先行していますが、この20年ほどで事例が増え、各企業や政府・諸機関の知見・経験値が蓄積されてきています。急速な経済成長に対しインフラ整備が質・量ともに追いついていない新興国において、従来型のコスト面のアウトソースではなく経営そのものを広く任せるコンセッションや民営化に対する期待が、特に大きくなっています。
本邦インフラ関連企業の今後の海外展開の方向性としては、コンセッションや民営化を担う事業者を目指すか、あるいはコンセッションや民営化を見据え、そういった事業者のパートナーとして評価されるような展開を目指すべきだと考えます。機器メーカーやEPC事業者であっても、長期的経営の視点から「ライフサイクル」でバリュー(性能・機能・サービス)とコストのバランスを最適化するような提案型ビジネスを指向することが重要であると考えます。

Ⅳ コンセッション・民営化のビジネス展開を目指す際の留意点

日本あるいは一部海外市場で①機器・製品輸出②EPC③BOT・IPP型プロジェクト投資などを行ってきた企業は、それら既存のビジネスにおいて十分に知見・経験のある市場で新たなコンセッション・民営化ビジネスの展開を模索することが重要です(<図1>AまたはB)。従来の海外戦略では、一般的に「日本で習熟・成功したビジネスを海外へ持っていく(<図1>C)」というステップが定石と考えられてきましたが、単純な価格競争では勝負が難しくなっている現在の環境下ではこのステップが成功しない可能性が大きくなっています。むしろ、国内(あるいは知見・経験のある国・地域)で④コンセッション・民営化ビジネスに踏み出し、その知見・経験・ノウハウをもってさらなる海外展開を行う(<図1>D)というステップが、昨今のインフラビジネスの環境においては有効と考えられます。なお、各ステップでは、自社の経営資源のみで進出を模索するだけでなく、積極的にM&Aを活用し、新たな領域へ進出することも検討すべきです。


図1 ビジネス展開のステップ

Ⅴ おわりに

インフラ関連企業による海外展開の加速は、企業および日本の国全体の成長政略にとって引き続き重要です。昨今のビジネス環境やトレンドを踏まえて本稿で掲げたステップに留意し、戦略的かつ効率的に海外展開を進めることが重要だと考えます。


  • ※1Engineering, Procurement and Construction
  • ※2Build, Operate, Transfer
  • ※3Independent Power Producer

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