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インドネシアの投資リスクと財務会計PMI

2019年1月7日 PDF
カテゴリー FAAS

情報センサー2019年新年号 FAAS

FAAS事業部 公認会計士 内藤 玄太郎

2006年、当法人に入所。自動車製造業をはじめとする国内企業の会計監査を中心に、IFRS導入支援業務にも従事。14年よりEYジャカルタ事務所に現地日系企業担当として駐在。会計・税務を中心に、日系企業への幅広いサービスを提供。18年7月に帰任し、財務会計アドバイザリー部においてPMI支援、IFRS導入支援業務に従事している。JBS(ジャパン・ビジネス・サービス)海外デスク インドネシア担当。

Ⅰ はじめに

世界一を争う渋滞に代表される脆弱(ぜいじゃく)なインフラにもかかわらず、インドネシアは2億6千万人の人口を有し、巨大な国内市場が依然として海外からの投資を惹き付けています(<表1>参照)。自動車を筆頭とする製造業における投資は2014年をピークに一段落していますが、近年は不動産開発、eコマース、食品事業といった業種で、堅調な国内消費を背景に投資が加速しています。

表1 日本の東南アジア国別直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)

Ⅱ インドネシアにおける新規設立と買収

政策面ではジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領による外国投資優遇政策の一環として、許認可の新しいオンライン申請システムが18年6月から稼働しています。これにより、新規設立をこれまでよりもスピーディーに行うことができるようになっています。新規設立では自社の望む形態、コントロールを構築することができます。一方で、新規設立はオペレーションまで2~3年程度の時間が必要ですが、活動中の会社を取得する既存会社の取得は、新規設立に比べ時間的な優位性があります。
しかし、そのスピードを重視するあまり、対象会社の選定と評価をおろそかにしてしまい、取得後に苦労するケースもあります。対象会社の調査・評価に専門家を使うことで対象会社に存在しているさまざまなリスクを見逃さないようにする必要があります。例えばインドネシアの会社では、信頼のおける監査を受けていないケースが多いことも事実です。会計処理が常識的な範囲で行われているかどうかさえも疑念が生じる場合もあり、これを見逃すと取得後に決算が締められないという事態が発生することもあります。日本であれば、当然に一致していることが前提である本支店勘定を一致させることができておらず、差異をその他資産、負債で調整していたことが取得後に判明し、その改善に多くの時間と費用を要したケースもあります。

Ⅲ PMI(Post Merger Integration:買収後の統合)

買収や合併を行った場合、通常は買収対象会社を自社のオペレーションに統合することが必要になります。しかし、前記のような状況はPMIの成否にも大きく影響します。特に、他の国の子会社との比較可能性を担保するために、経営者の意思決定に資する情報を収集する財務報告の統合は、被買収企業にとっては新しいやり方を強いられるため、抵抗が大きくなります。また、一般的に、インドネシアでは多能的(マルチタスク)な仕事分担になっていないことが多く、新しい仕事に対する抵抗が大きくなります。街中のスーパーでも客1人に対してレジ係、袋詰め、アシスタントとカウンターの中に2~3人がいることも少なくありません。買収前の調査により担当部署の人数を把握していたとしても、日本企業の効率性で判断していないでしょうか。日本からみれば多いと思われる人員数でも、現在の業務を必要な品質で遂行しているとは限りません。そうした観点から、被買収会社に要求する業務が彼らにとってリソースの面で可能かどうかを考慮する必要があります。
またインドネシアに関わる日本企業が悩まされる問題に、インドネシア人との時間感覚の違いがあります。期限や約束に対する考え方が日本人とは異なっているため、本社や他の子会社と同じように期限を課して、それを約束してくれたからといって安心できません。インドネシアには「ゴム時間(Jam Karet)」という言葉があり、時間(期限)は伸びるものと捉えられているようです。
さらに、被買収会社はこれまで外部への報告義務のなかったオーナー企業であることが多いため、開示資料とその期限の重要性を被買収会社の責任者に理解してもらうことが第一歩です。特に旧経営者が買収後も関与する場合には、彼らにとっては連結の報告は追加的な仕事と捉えられる可能性があるため、そうした関係者の理解や合意をあらかじめ得ておくことが重要です。その上で、期限を短縮化させるために細分化されたステップで実施すべき業務を期限とリンクさせて管理するなど、新しい体制の構築が必要です。
また、インドネシア企業では原価計算と予算作成が適切に行われていないケースがあります。最悪のケースでは原価管理、損益管理が適切に行えず、日本の経営者に有益な情報が提供できず、期待されたシナジーが発揮できない場合があります。加えて、将来計画の立案が難しいことから、せっかく買収した会社を早々に減損しなければならないという困難な状況を招きかねません。
買収を行う際には対象会社の取得が第一目標となるため、残念ながら買収後の統合が買収時に考慮されていないことが多いのが現状です。現地パートナーや経営者は追加的な出費を嫌います。PMIの成功のためには、後で費用や労力が発生する事項については買収時の条件交渉で明確に織り込み、正式な条件として設定することが重要です。事後的な交渉や要請では分が悪く、日本側で必要な処理がうやむやにされてしまいかねません。買収後の統合まで視野に入れた、全体的な検討が必要です。また、そのためには各段階で必要となる手続に精通した専門家への相談をお勧めします。

Ⅳ おわりに

言語や習慣が異なるクロスボーダーの買収におけるPMIは、簡単なプロセスではありません。そのため、専門家による助言・サポートを得ることで、適時の調査で現状把握を行い、適切な統合計画の策定・実施が可能となります。備えがあれば、まだまだ成長する市場を有するインドネシアへの投資は、依然として魅力的であるといえるでしょう。

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