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平時における「違和感」への対応

2019年1月31日 PDF
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情報センサー2019年2月号 Topics

Forensics事業部 公認会計士 田谷 直樹

EYの不正調査、不正対策、コンプライアンスの専門部門であるForensic & Integrity Servicesのパートナー。製造業・不動産・金融業等の会計監査業務、化学メーカー、建設会社の株式公開支援業務、ロイヤルティ監査、内部監査・内部統制構築支援、不正調査、不正・不祥事対策(発見・予防)等各種アドバイザリーサービス業務に25年以上にわたり従事。数多くの企業の不正防止プログラムの開発や企業の不祥事リスクの棚卸、評価および改善業務を数多くサポートしている。

Ⅰ 平時の違和感を見逃さないためのヒント

不正が露見した後で振り返ると、不正の実行者の周囲の人たちやその実行者の業務周りをモニタリングしていた人たちは「あの状況は変だった」とか「担当者(=実行者)の説明は合理性がなかった」とか、その時は多少引っかかったものの、あまり追求しなかったということがよくあります。ただ残念ながらこの多少引っかかったこと、すなわち平時で感じる違和感に対してきちんと対応することは、平時であるが故にとても難しいのです。
この違和感を無視してしまうと、不正が露見しない期間が長期化し不正による損失が拡大してしまう、またその間に不正の証拠を隠滅されてしまい、後に露見したとしても実態解明が困難になる、さらにはモニタリングの機能不全など、不正の実行者からすると不正を行いやすい環境が放置されている、という状況を許すことになります。
では、この平時の違和感に適切に対応できるようになるためにはどうしたらよいでしょうか。まずは、違和感とはどういうところで感じるのかを理解することだと思います。そこで参考になるのが、公認会計士や監査法人が実施する財務諸表監査の一部に適用される「監査における不正リスク対応基準」※1(2013年3月)の「付録2 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の例示」や、監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」※2(11年12月策定、18年10月最終改正)の付録3「不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例示」、付録4「不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の例示」です(<表1>参照)。

表1 監査における不正リスク対応基準、監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」

これらの項目についての詳細は、前述の付録に記載されている例示に譲りますが、次に実際に起きた不正事例から「違和感」がどのように感じられたのか、そしてどのように対処したのか、また対処すべきだったのかを見てみましょう。

Ⅱ 不正の実態解明につながった事例

1. 違和感

棚卸に立ち会った者が、過去にも見たことのある商品が入った同じ段ボールが倉庫内に積まれたままであることから、なぜ廃棄をしないのかと疑問を抱きました。

2. 違和感に対する検証

このような場合、通常「モノの動きが多少でもあるため廃棄できない」といった説明を受けるのですが、そこで感度を高くすることで、もしかしたら評価減や廃棄を免れるために帳簿上意図的にモノを多少でも動かしているのではないか、という発想が生まれます。実務ではこの違和感に対する説明の合理性を検証するため、実際にどれだけモノが動いているのか、サンプル出荷や倉庫間移動のような動きではないことを検討することになります。

3. 顛(てん)末

この事例では結果として、意図的に在庫の受払を生じさせることにより、長期滞留在庫が正常な在庫であるかのように偽装し、帳簿価額の切り下げを不当に免れ、計上されるべき評価損を過少にしていたという不正行為が行われていました。

Ⅲ 不正の実態解明につながらなかった事例

1. 違和感

システム開発の会社における内部監査担当者が、代表者が一人で業務を行っているある外注先に委託した取引の金額が多額である一方、当該業務期間が非常に短期間であることに気付きました。

2. 違和感に対する検証

これを受けて発注者(=代表者)にヒアリングを実施したところ、外注先からの成果物としてDVDを提示されたため、それ以上の調査は行いませんでした。
この事例ではDVDの中身の検証まで行わないと発注者の説明の合理性を立証できないため、例えばDVDの中の成果物を見て判断できる者(システム会社であれば他の部署にはそのような者はいるはず)に見てもらう必要がありました。

3. 顛末

後日、税務調査により当該取引について架空発注の指摘があり、会社は調査委員会を設置して調査を実施した結果、数億円が横領されていたことが判明しました。
前記の事例で見たようにモニタリングに携わる者として、「違和感」にいかに敏感になれるかが不正の実態解明に至るかどうかの点で極めて重要になります。
会計監査人に求められる職業的懐疑心と同様にモニタリングに携わる者も懐疑心を持ち、「違和感」とはどういうところで感じられるのかを日頃からイメージするとともに、モニタリングの実践の場でその感覚を磨いていき、必要な手続を実施していくことが求められます。

(注) 本記事は、Business LawyersのWebサイト(実務Q&A)に「不正・不祥事リスク対応の強化における重要なポイントとは(2) -平時における「違和感」への対応」(business.bengo4.com/practices/956)というテーマで掲載されたものです。

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