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情報センサー2019年3月号 業種別シリーズ

小売・外食業における消費税軽減税率導入に関する留意点

EY税理士法人 税理士 奥山奈美
EY税理士法人にて、日系及び外資系の事業会社や金融機関等に対する消費税の税務アドバイザリー業務に従事。消費税の適正化プランニング、税制改正対応や税務当局対応、クロスボーダー取引に関するアドバイス等を中心としたサービス提供を行っている。

Ⅰ はじめに

2019年10月1日、消費税率10%への引上げに伴い、軽減税率制度が導入される予定です。これにより、飲食料品を取り扱う小売業や外食業では税率が複数になり、税額計算や申告書作成だけでなく、システム改修、業務プロセス、店舗オペレーション等、幅広く変更対応が必要になると考えられます。国税庁から、軽減税率に関する手引きやQ&A等、実務対応で参考になるガイドラインが公表されています。本稿では、18年12月までに公表されている当該ガイドライン等を踏まえ、小売・外食業に影響があると思われる主な取扱いの概要及び実務対応上の留意点について説明します。

Ⅱ 小売・外食業における留意点

1. 対象範囲

軽減税率は一定の飲食料品及び新聞の譲渡に適用されます。対象品目となる飲食料品は、食品表示法に規定する食品で「人の飲用又は食用に供されるもの」をいいます。添加物や一定の要件を満たす一体資産(詳細は3.を参照)を含みますが、酒類や医薬品等は対象外です。例えば、調味料が酒類に該当するか、健康食品が医薬品等に該当するか等の確認が必要となります。
なお、軽減税率の適用は、飲食料品を提供する時点で判定されます。販売者が「人の飲用又は食用に供されるもの」として飲食料品を譲渡した場合、購入する顧客の目的や使用状況にかかわらず、軽減税率の対象となります。そのため、例えばペット用か観賞用か等、販売時の用途が税率に影響することになります。

2. 外食

外食とは「飲食設備のある場所において飲食料品を飲食させる役務の提供」をいい、飲食料品の譲渡に該当しないため、軽減税率の適用対象になりません。
従って、飲食料品の持ち帰りは軽減税率が適用されますが、店内飲食は適用外となります。持ち帰りか店内飲食かについて、顧客への意思確認により判定する方法がありますが、どのような販売の場面で、どのような方法で確認するのか、営業の実態や店舗オペレーションの効率性等も併せて検討することが想定されます。
例えば、スーパーマーケットの休憩スペースで飲食禁止の掲示を行い、実態として顧客に飲食させていない場合、持ち帰り販売のみを行っているものとして、意思確認を行わずとも軽減税率が適用される取扱いが公表されています。実態として顧客に飲食させている場合は適用対象外となる点に留意が必要です。

3. 一体資産

(1) 軽減税率の適用

一体資産とは「食品と食品以外の資産が一体として販売されるもの(あらかじめ一の資産を形成し、又は構成しているものであって、その一の資産に係る価格のみが提示されるもの)」をいいます。例えば、おもちゃ付きお菓子、ジュースとお酒で構成されるギフト、食品と食器で構成される福袋が該当します。


一体資産の軽減税率適用の要件

このうち、上の要件を全て満たすものは軽減税率、満たさないものは標準税率が全体の価格に適用されます。要件2における割合計算の「合理的な方法」について見解が分かれる可能性があるため、留意が必要です。

(2) 選択可能な場合と一括譲渡

一体資産は「あらかじめ一の資産を形成し、又は構成しているもの」であるため、顧客が自由に組み合わせできる選択可能なものは該当しません。例えば、顧客がお菓子とおもちゃを自由に選択し組み合わせてセット価格(一つの価格)で持ち帰り販売する場合、「一括譲渡」(課税関係の異なる2以上の資産を同一の者に同時に譲渡すること)が行われたものとして取り扱われます。この一括譲渡に該当し、個々の商品の価格が明らかでないときは(例えば一つの価格である場合)、その価格を売価や仕入原価等で合理的にあん分を行い、軽減税率と標準税率を適用する必要があります。そのため、実務対応が煩雑になることが想定されます。

(3) 包装材料等

飲食料品と同時に譲渡される包装材料等(別途対価を定めない場合)について、飲食料品の「販売に付帯して通常必要なものとして使用されるもの」は、軽減税率が適用されます。この該当性について見解が分かれる可能性があることに留意が必要です。
なお、食器や装飾品として利用できるもの等「販売に付帯して通常必要なものとして使用されるもの」に該当しないものは、一体資産として軽減税率適用の判定が必要になることにも留意が必要です。

4. 仕入税額控除

(1) 請求書等の要件

軽減税率導入により、仕入税額控除の要件が区分記載請求書等保存方式に変わり、現行の請求書記載事項に次の項目が追加されます。


区分記載請求書等保存方式における追加記載事項

(2) 仕入側としての対応

仕入側は、仕入税額控除の要件を満たすために(1)の事項を含む一定の記載事項を備えた区分記載請求書等の保存が必要となります。なお、追加項目は仕入側が追記することでも要件を満たすものとされています。

(3) 販売側としての対応

販売側として、一般的に、事業者である顧客の仕入税額控除を考慮し、必要な記載事項が盛り込まれた区分記載請求書等を整え交付することが想定されます。軽減税率導入の4年後には適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)に変わる予定ですが、この適格請求書等に必要な記載事項が備われば、区分記載請求書等に必要な記載事項が記載されていることになります。従って、交付する請求書等に係るシステム改修に関して、コスト面等の考慮を含め、インボイス制度を見据えた対応を行う選択肢が考えられます。

5. 税率

軽減税率は8%で現行税率と同様ですが、国税(消費税)と地方消費税の内訳が異なることに留意が必要です。19年10月以降は、新税率(標準税率)の10%の他、軽減税率の8%、税率引上げに伴う経過措置適用による旧税率の8%の3種類、さらには8%への引上げ時の経過措置適用による5%、5%への引上げ時の経過措置適用による3%が適用される取引もある場合、5種類の税率の取引を、消費税申告書の作成に当たって区分し集計する可能性が出てきます。


表

現状のシステムでこの区分集計を行えるかの確認、状況に応じてシステム改修対応が必要になることが想定されます。

Ⅲ おわりに

軽減税率については、形式のみでなく「実態」に基づいた判断、「合理的な方法」による割合算定やあん分、「通常必要なもの」としての使用状況等に基づき取扱いが決まる場面があるため、税務当局と見解の相違が生じる可能性があります。また、現場でのオペレーションに適切に落とし込み等がされていない場合、税務の問題だけでなく、顧客とのトラブル等につながる可能性があります。今後も公表されるであろう制度に関する情報に注目しつつ、制度を十分に理解し、税務リスクやビジネスへの影響の測定を行い、それに備えた考え方の整理や対応方法の検討、システム改修やマニュアル作成等による実務対応の適切な実行が必要といえるでしょう。


情報センサー 2019年3月号