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情報センサー2019年4月号 会計情報レポート

平成31年3月期 決算上の留意事項

会計管理部 公認会計士 鈴木真策
      公認会計士 村田貴広
      公認会計士 横井貴徳
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる? 収益認識の実務-影響と対応-』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』『ここが変わった!税効果会計―繰延税金資産の回収可能性へのインパクト』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

平成31年3月期より、原則適用となる会計基準等及び早期適用可能となる会計基準等、開示府令は<表1>のとおりです。

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本稿では、これらを中心に平成31年3月期決算に当たっての留意事項を解説します。また、本文中で使用する会計基準等の略称及び適用開始時期は<表1>のとおりです。なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 改正税効果会計基準等

改正税効果会計基準等は平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用されています。本稿では、会計処理に関する改正と表示及び開示に関する改正に分けてそれぞれ解説します。

1. 会計処理に関する改正

(1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い

税効果適用指針においては、個別財務諸表における子会社株式及び関連会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社及び関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する取扱いに見直すこととされました。

(2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

改正回収可能性適用指針第18項では、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」と「原則として、」が追加されました。これは、例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される蓋然(がいぜん)性が低いときに当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することも考えられることを明確にするものであるとされています。

(3) 子会社の利益のうち投資時に留保しているものに関する繰延税金負債の取扱い

従来、子会社の利益のうち投資時に留保しているものについても、将来配当の可能性がある場合で、配当受領時に親会社において受取配当金に係る追加の税金負担が生ずると見込まれるときには、親会社は投資時に税効果を認識し、繰延税金負債を計上することができるとされていましたが、税効果適用指針は当該取扱いを踏襲していません。これは、従来の定めのうち、個別財務諸表における子会社株式の取得原価についての記載は、他の会計基準の定めと必ずしも整合していないこと、また、実務において当該会計処理を適用している事例は稀であると考えられることが理由とされています。

(4) 適用初年度の取扱い

上記(1)から(3)を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更とされます。その場合、経過的な取扱いは定められておらず、新たな会計方針を過去の全ての期間に遡及(そきゅう)適用することになります。

2. 表示及び開示に関する改正

(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の表示

税効果会計基準一部改正は、従来、関連した資産・負債の分類に基づき繰延税金資産は流動資産又は投資その他の資産に、繰延税金負債は流動負債又は固定負債に分類されていたものを、全ての繰延税金資産を投資その他の資産に、繰延税金負債を固定負債に分類することに変更するものです。この変更は表示方法の変更とされ、表示する過去の財務諸表(有価証券報告書における比較情報)について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うことが求められます。

(2) 繰延税金資産に関する注記事項

① 税効果会計基準一部改正で追加される注記事項

税効果会計基準一部改正により追加される注記事項は、<表2>のとおりです。新たな注記事項を作成するためには、子会社からの情報収集体制も含めた事前準備が必要と考えられます。

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なお、注記事項の追加は表示方法の変更となりますが、経過措置の定めにより、評価性引当額の合計額を除き、有価証券報告書における税効果関係の注記においては適用初年度の比較情報を記載しないことができます。

② 会社法における取扱い

平成30年3月26日及び平成30年10月15日に公布された税効果会計基準一部改正を反映した会社計算規則の改正は、貸借対照表上の表示のみを対象としており、注記事項の追加は含まれていません。従って、①に記載した注記事項について会社法の計算書類及び連結計算書類においては必ずしも求められないと考えられます。

Ⅲ 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引

平成30年1月12日に有償新株予約権取扱いが公表され、平成30年4月1日以後原則適用されています。有償新株予約権取扱いでは、従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引は、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下、ストック・オプション等会計基準)に定めるストック・オプションに該当するものと整理し、以下のとおりの取扱いが定められています。

1. 会計処理及び開示

  • 有償新株予約権の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき算定した額を各会計期間において費用計上し、対応する金額を、純資産の部に新株予約権として計上する。
  • 有償新株予約権に業績条件が付されている場合、業績条件の達成可能性は有償新株予約権数に反映させる。
  • 従業員等に有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション等会計基準に従って行う。

2. 経過的な取扱い等

有償新株予約権取扱いの適用に当たっては、遡及適用を原則としていますが、経過的な取扱いとして、有償新株予約権取扱いの適用日より前に従業員等に対して有償新株予約権を付与した取引については、従来採用していた会計処理を継続することができることとされています。
この場合、情報の有用性を補うために当該取引について一定の事項を注記する必要があることに留意が必要です。なお、適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合又は従来採用していた会計処理を継続する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります。

Ⅳ 仮想通貨取扱い

平成28年6月の「資金決済に関する法律」の改正により、仮想通貨が定義されたとともに、仮想通貨交換業者に対して登録制が導入され、財務諸表監査が義務付けられました。これを受けて、平成30年3月14日に仮想通貨取扱いが公表され、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用されています。仮想通貨取扱いは仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者が保有する仮想通貨及び仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理及び開示を定めています。仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理は<表3>のとおりです。

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Ⅴ 収益認識会計基準等の早期適用時の留意点

平成30年3月30日に収益認識会計基準等が公表されました。原則適用は平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされていますが、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます。
本稿では収益認識会計基準の論点のうち、適用初年度の取扱いと表示及び注記について解説します。

1. 適用初年度の取扱い

収益認識会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用することとされています。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(収益認識会計基準84項)。この適用初年度の取扱いをまとめものが<図1>です。

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なお、経過措置による場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんど全ての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しないことも認められています(収益認識会計基準86項)。
また、原則的な取扱いによる場合においても、適用初年度の前期以前に行われた契約変更や変動対価の取扱い等に関する例外的な定めが設けられています(収益認識会計基準85項)

2. 国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業の適用初年度の取扱い

IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、適用初年度において、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」又はTopic 606「顧客との契約から生じる収益」のいずれかの経過措置の定めを適用することができることとされています。また、IFRSを連結財務諸表に初めて適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に収益認識会計基準を適用する場合には、その適用初年度において、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」における経過措置に関する定めを適用することができるとされています(収益認識会計基準87項)。

3. 表示及び注記事項

(1) 表示

収益認識会計基準においては、新たに契約資産及び契約負債の表示に関する定めが設けられています。契約資産と契約負債の定義は次ページ<表4>のとおりです。契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示し、これらを区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとされています。

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ただし、収益認識会計基準を早期適用する場合においては、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができるとされています(収益認識会計基準88項)。
また、収益認識会計基準を早期適用する場合には、わが国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができるものとされています(収益認識会計基準155項)。

(2) 注記事項

顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記することとされています(収益認識会計基準80項)。なお、上記以外の注記事項については、収益認識会計基準の原則適用時までに検討することとされています(収益認識会計基準156項)。

Ⅵ 実務対応報告18号等の改正

平成30年9月14日に実務対応報告18号等の改正が公表され、平成31年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から原則適用となりますが、公表日以後最初に終了する連結会計年度及び四半期連結会計期間から早期適用することができます。

1. 改正の内容

在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」(以下、IFRS第9号)を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合、売却損益及び減損損失の累計額は、その他の包括利益に表示され、純損益への組替調整は行われません。このため、今回の改正において、これらの組替調整を修正項目として追加することとされています(<表5>参照)。

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2. 適用初年度の取扱い

改正実務対応報告18号等の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることになります。ただし、以下の経過措置が認められています。

  • 会計方針の変更による累積的影響額を当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができる
  • 上記の場合、在外子会社等においてIFRS第9号を早期適用しているときには、遡及適用した場合の累積的影響額を算定する上で、平成30年改正実務対応報告の適用初年度の期首時点で減損の判定ができる

Ⅶ 開示府令の改正

平成31年1月31日に、開示府令の改正が公布、施行されています。平成30年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における「財務情報及び記述情報の充実」「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に関する提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正が行われています。

1. 改正の概要

(1) 財務情報及び記述情報の充実

  • 経営方針、経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を求めること
  • 事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を求めること
  • 会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を求めること

(2) 建設的な対話の促進に向けた情報の提供

  • 役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載を求めること
  • 政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等について開示を求めるとともに、個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大すること

(3) 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組

  • 監査役会等の活動状況、監査法人による継続監査期間、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示を求めること

2. 適用時期

適用時期については、<表6>をご参照ください。

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  • 有償新株予約権の公正な評価額は、付与日における公正な評価単価に有償新株予約権数を乗じて算定する。公正な評価単価には業績条件の達成確率は反映されない。

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