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米国の追加関税措置による「貿易紛争」化と企業が検討すべき対策

2019年3月29日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2019年4月号 Tax update

EY税理士法人 インダイレクト・タックス 大平 洋一

間接税に関する日系企業のグローバルクライアントサービスパートナーとして、関税・国際貿易、消費税、海外付加価値税を中心にアドバイザリー業務を提供。FTAに関するサプライチェーン戦略、関税評価プランニング、VAT・GST・JCT対応策の最適化等、間接税全般に関する数々の間接税プランニング案件の策定・実行経験を持つ。

Ⅰ はじめに

米国の貿易赤字問題を大統領選挙中から訴えてきたトランプ米大統領は、自国経済及び雇用の保護と諸外国の米国に対する「不公平」な貿易慣行の是正を掲げ、昨年より追加関税を発動しました。この結果、各国による対抗措置を招くなど国際通商への影響が広がっています。特に、中国の米企業に対する知的財産権の侵害に対抗するための追加関税は中国の報復を招き、第1弾、第2弾、第3弾と追加関税の発動合戦、米中関係はまさに「貿易紛争」と化しています。

Ⅱ 米国による対中追加関税措置(通商法第301条)

米国が中国に対して発動している追加関税は1974年通商法第301条に基づくもので、外国による貿易協定の違反、又は正当な理由なくかつ米国の通商に負担や制限をかける措置又は政策、行為が認められた場合に適用されます。
今回の中国に対する措置は、2017年8月18日に始まった中国の米企業への知的財産権侵害について行われた調査の結果に基づくものです。米国通商代表部(以下、USTR:United States Trade Representative)は、調査の結果、技術移転及び知的財産権、技術革新に関する中国政府の政策等は非合理かつ不公平であり、米国の通商に負担や制限をかけていると判断し、18年7月6日より818品目、追加措置として、翌月23日より279品目の中国製品を対象に25%の追加関税を発動しました。この第1弾と第2弾の対象品には、機械類、電気機器、プラスチック製品等が含まれており、総額500億ドル相当に上ります。
中国はこれに対する報復措置として米国産品に対して追加関税を発動しました。この結果、米国はさらに第3弾として5,767品目にも及ぶ2,000億ドル相当の中国原産品を対象に10%の追加関税を発動しました。18年11月には、中国はいまだ不公平な政策を根本的に変えてはいないとする報告書を公表しました。また、米国が中国産の自動車に賦課している関税率の2倍以上である40%の関税を米国産の自動車に賦課していることに言及し、自動車関税のバランスを取るためあらゆる手段を検討すると後日声明を発表しています。
その一方、18年12月1日に米中首脳会談が行われ、米中間で協議を行うことが決定されました。第3弾の追加関税は10%から25へ%の引き上げが予定されていましたが、USTRは別途引き上げの通知を行うまで10%に維持すると発表しました。

Ⅲ 追加関税対象の該非における留意点

米国による対中追加関税措置は中国産品のみを対象としたものですが、輸出国ではなく原産性にて判断されるため、米国において原産性を判断する「原産地規則」について留意が必要です。日本の非特恵原産地規則は関税分類番号(HSコード)の4桁変更や加工工程基準、付加価値基準の三つを明記しているのに対し、米国の場合、「原産性とは米国に輸入される外国製品が製造、生産または成長した国である。他国で製品に加えられた作業や材料は、その国を原産国とみなすためには、『実質的な変更』(その製品の固有性(identity)が失われ、新たな名前(name)、性質(character)又は用途(use)ができること)をもたらさなければならない」と規定されており、原産性断定に一定の解釈の余地がある表現となっています。
よって、日本で加工を行っているところから「日本産」として輸出をしている製品であっても、中国原産の部品を使用したり、中国で前行程が行われたりしている場合、米国非特恵原産地規則では「中国産」であると米国税関から指摘を受ける可能性があり、その場合は通商法第301条に基づく追加関税の対象となる可能性があります。また、ケースによっては、追加関税の意図的な「迂回(うかい)」と見なされ、重加算税が課せられるリスクもあり、過去には当時中国に対して課せられていた不当廉売(ダンピング)関税を「迂回」したと認定され、数十億に上る和解金を支払わざるを得なくなった日本企業の事案も発生しているため、十分な留意が必要です。

Ⅳ 中国産以外の製品に対する追加関税措置の可能性

米国は、中国産の輸入品を対象にした追加関税の他に、特定の海外諸国からの鉄鋼及びアルミ製品にもそれぞれ25%、10%の追加関税をすでに発動しています。これは、1962年通商拡大法第232条に基づく措置で、米国の国家安全保障を阻害すると認められた製品の輸入に課せられるものです。日本製の鉄鋼・アルミ製品はすでに当該措置の対象となっておりますが、日本にとってさらに深刻なことは米商務省が日本を含む海外からの自動車・自動車部品について当該追加関税を発動すべく調査を開始していることです。当該調査の結果は2月末にも発表される見込みで、その内容次第では日系自動車産業に大きな影響が生じることが懸念されます。安倍総理大臣は日米TAG(物品貿易協定)の協議中は第232条の発動をしないことを米国と確認したと発表していますが、今後TAG交渉が滞るような事態になった場合には日本の自動車及び自動車部品に対して追加関税が発動されるリスクが残ることに留意が必要です。

Ⅴ 企業が検討すべき対応

トランプ政権が誕生する以前の国際貿易環境では、ITA2(情報技術協定2:Information Technology Agreement 2)などの産業別関税協定やメガFTA(自由貿易協定:Free Trade Agreement)の締結などを通じて世界的に関税が将来的に削減されていくことに関して予見可能性を保ちやすく、これまで企業にとって将来の調達・生産戦略の立案に関税コストを組み込むことは比較的容易だったといえます。しかし、今日の保護貿易主義の台頭は、その予見可能性を大幅に低下させたといえます。いわゆる「貿易戦争」による追加関税発動の応酬により、ある国で特定の製品に対して突然追加関税が発動され、その相手国がさらに即座に報復関税を課すといった事態が米国と米国の相手国間を中心に生じることが想定されます。
このような状況に企業は俊敏に対応することが求められていますが、あまりにも突然に高額な関税が課せられる状況となることから、企業が採用できる対応にはその内容・スピードに限界があるものと推測されます。このような状況下において企業が現実的に採用できる関税対策の一つとして、グローバルサプライチェーンに占める関税コストを正確に把握し、当該コストを現時点から可能な限り下げておくという方法が挙げられます。多くの日系企業は、いまだ各製品にかかる各国の関税支払状況を正確に把握できていないほか、プランニングの複雑性から、関税評価額の圧縮、HSコードの工夫、各種減免制度の活用といったFTA以外の関税プランニングに積極的ではありません。しかし、突然に高額な追加関税が課せられてしまう環境下において関税コストを徹底的にそぎ落とした、引き締まったサプライチェーンを構築することは、今後の追加関税の発動に対しても有効だといえます。また、上記の原産地変更時の留意点にありますように、これらの関税プランニングは法令違反にならないよう強固なコンプライアンスを確保する形で実施することが重要になります。(<図1>参照)

図1 米国による追加関税措置の影響軽減策例

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