情報センサー

オーストラリア国税局における給与データ等のシステム一元管理の導入

2019年4月30日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2019年5月号 JBS

メルボルン駐在員 公認会計士 三井 洋介

IFRS、USGAAPおよび日本基準に基づく監査を専門とし、豪州をはじめ世界各国へ展開するグローバル企業に対する監査業務経験が豊富。日豪通算で約15年にわたる実務経験を有する。

Ⅰ はじめに

オーストラリアでは、オーストラリア国税局(以下、ATO)が給与データ等のシステム一元管理をするために、シングルタッチペイロール (Single Touch Payroll:STP)を導入しました。このSTP制度の導入により、ATOは、雇用主が源泉徴収額、そしてスーパーアニュエーション(豪州における退職年金)を法律に基づき支払っているか否かについてモニタリングがしやすくなります。また、従業員の所得税の申告においても、既に提出されたデータに基づいて適切に申告されているかについてモニタリングをしやすくなります。
制度開始と同時に、対象企業はSTPに対応した給与ソフトウェアを通じて、従業員に給与等を支払うたびに従業員の給与情報、源泉徴収額そしてスーパーアニュエーションの情報をATOに報告する必要があります。STP報告義務は、20人以上の従業員が働く企業に対しては2018年7月1日から既に課せられており、それ以外の企業に対しては19年7月1日より課せられます。
また18年3月28日には、STPを補完するスーパーアニュエーション法案がオーストラリア政府により議会に提出されています。
スーパーアニュエーション法が今後施行された場合、企業の取締役や執行役員は従業員に対するスーパーアニュエーション支払義務の履行に一層の責任を負うことになる一方、STPに関わるATOへのスーパーアニュエーション申告が円滑化されることが想定されます。
法案の主な変更事項には以下が含まれます。

  • スーパーアニュエーション保障制度に関する特定の不履行事項については刑事犯罪とし、企業の取締役や経営責任者に対する懲役期間は最長12カ月とする
  • 雇用主がスーパーアニュエーション保障に関する義務を怠った場合には、スーパーアニュエーション保障額を支払うよう、また研修カリキュラムを受講するようATOが命令することができる
  • 雇用主がスーパーアニュエーション保障制度に違反した場合は、影響を受けた従業員に対してATOがより広範な情報開示を行うことができる

さらに、本法案には、オーストラリア政府省庁間での情報共有を改善する規定も盛り込まれています。

Ⅱ 改正による影響

本法案が施行されることによって、ATOによるスーパーアニュエーションに関するコンプライアンスプログラムは一層強化されることが予想されます。スーパーアニュエーション基金によるスーパーアニュエーション情報の定期申告が増え、ATOはスーパーアニュエーションに関する情報をより多くそしてタイムリーに受領することが可能となります。そして、STPを介して受領する給与データと補完することによってさらなる税務調査活動を推進することが予想されます。
また、本法案はスーパーアニュエーションに対するコンプライアンスの強固な枠組みをさらに強化しています。現在、ATOはスーパーアニュエーションの過少支払に関する従業員からの全ての苦情に対して徹底調査することに取り組んでおり、取締役は取締役罰則制度(Director Penalty Regime)の下、スーパーアニュエーション保障額の未払いに関して、個人的責任を追及される可能性があります。
つまり、取締役が刑事罰を課せられる可能性を織り込むことにより、スーパーアニュエーション保障制度のコンプライアンス違反に対する強力な抑止力をもたらす効果が期待されています。

Ⅲ 次のステップ

雇用主は、STPに基づく規律ある給与実務の整備および給与データの完全性を徹底することが不可欠です。
STPの実施に当たり、給与関連業務代行業者は通常雇用主の給与情報の保全性について(例えば適正な賃金科目に対し適正なスーパーアニュエーションが支払われているかどうかなど)精査は行いません。従って、法令順守を徹底していることは雇用主の責任となります。STPへの移行準備を給与関連業務代行業者だけに依拠することは十分ではありません。
さらに、ATOは初年度におけるSTPの報告関連の不注意によるミス(給与額の報告が期日より数日遅れたなど)に対する罰則を緩和する余地があることを示す一方で、こうした緩和策はスーパーアニュエーションの過少支払など給与関連のミスには適用されません。

Ⅳ 即時に対応すべき点

STPに移行するために雇用主が早急に検討すべき主要項目は以下の通りです。

  • 起用する給与関連業務代行業者(ソフトウェアプロバイダー)がSTPに対応しているか(あるいは延期の認可を受けているか)を確認する
  • 給与の明細設定(Pay Code)が所得税の源泉徴収とスーパーアニュエーション計算との整合性が取れているか再確認する
  • これまでの所得税の源泉徴収税額およびスーパーアニュエーション保障額の算定が正確かどうか確認し、必要に応じて改善措置を講じる
  • 役務を提供する全ての個人を従業員または請負業者として正しく把握しているか確認する

EYは、最先端の解析技術とメソドロジーを駆使し、スーパーアニュエーションに対する過去の過少申告リスクを発見するとともに潜在的な税務費用削減の評価を支援しています。さらに、コンプライアンス違反が識別された場合にATOへの任意情報開示でもサポートできるほか、STPの施行に向けた確実な準備をお手伝いいたします。

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