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デジタル・ビジネスと課税問題

2019年4月30日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2019年5月号 Tax update

EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。

Ⅰ はじめに

圧倒的なITの進化に伴う経済のデジタル化はとどまることがありません。経済のグローバル化と相まって、デジタルプラットフォーム・ビジネスを担うGAFA※1などのメガ多国籍企業が高収益を上げて世界経済を席巻しています。驚異的な勢いで拡大するデジタル・ビジネス※2に対する課税についての議論が、現在世界中で行われています。本稿では、デジタル・ビジネスにかかる課税問題の論点について概説します。

Ⅱ デジタル・ビジネスと税を巡る議論

デジタル・ビジネスの特徴としては、①高度なICT(情報通信技術)を利用することによって顧客所在国に物理的拠点を持つことなく世界的な事業を遂行することが可能となる②電子商取引などを通じた大規模データの収集・分析・利用により新たな付加価値が生み出され、事業における無形資産の重要性が非常に高い、などの点が挙げられます。
10年ほど前から、GAFAなどのデジタルプラットフォーム企業は世界中の利用者に対して広範な事業活動を行い、莫大(ばくだい)な利益を上げているにもかかわらず、利用者が存在する市場国にはほとんど税金を納めていないということが問題視されてきました。各国政府・市民や税務当局は、このような企業は各国(市場国あるいはユーザー所在国)の税源を不当に浸食しているとして激しく非難することもありました。しかし、前述したような特徴をもつデジタル・ビジネスに対しては、旧来の国際課税原則の適用によって市場国に課税権を与えることは一般的に困難であると考えられています。
デジタル・ビジネスにおいては、現行の国際事業所得課税のメルクマールとなる物理的拠点(恒久的施設:PE)を顧客所在国において保有する必要がないケースが一般的です。PEがなければ課税権は生じません。仮にPE(あるいはそれに代わるもの)を新たに定立するとしても、その国に帰属する課税所得の計算方法を検討しなければなりません。また、市場国のユーザーから収集された大規模データの集積・分析に由来する無形資産がデジタル・ビジネスにおいて価値創造の根幹を支えるドライバーになっているにもかかわらず、これらのデータ(あるいは無形資産)の存在や場所を課税の根拠とする議論や評価(測定)方法の検討も始まったばかりです。現行の国際課税原則のルールは台頭してきたデジタル・ビジネスに対応しきれていないので、企業が海外(市場国)における課税を回避することが可能になり、二重非課税の発生や合理的な課税権の配分が困難といった問題が生じています。このような新しいビジネスモデルに対応した新しい課税ルールを検討して、国際課税原則を再構築する必要があるのです。
これらの問題も含めて、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し課税逃れを行っている問題(BEPS※3)に十分に対処するために、経済協力開発機構(OECD)のBEPSプロジェクトが2012年にスタートしました。BEPSプロジェクト行動1「電子経済の課税上の課題への対処」における最終報告書(15年9月)においては、外国企業が他国で行う電子経済にかかる活動において、当該他国において「重要な経済主体(significant economic presence)」が存在すると判断される場合、課税主体となり得る「ネクサス※4」が認識されるという議論がなされました。18年3月に公表された「電子化に伴う課税上の課題に関する中間報告書」においては、国際課税原則の見直しの実施に合意したものの、現時点において、BEPS包摂的枠組み※5各参加国の間でデジタル経済にかかる課税措置等に対するコンセンサスは未だない※6、ということが確認されています※7。今後、議論を進めたのちに、さらなる検討結果を踏まえた最終報告書がOECDから2020年中に公表される予定です。

Ⅲ 最近の検討状況

19年2月13日に、OECDから「経済の電子化に伴う課税上の課題に関するコンサルテーションペーパー」(以下、論点整理)が公表されました。この論点整理については、広く実業界や各国政府からの意見聴取が行われ、3月には公聴会がパリで開催されました。
この論点整理において、市場国またはユーザー所在国に対し課税権を配分する観点から、ネクサス原則及び利益配分原則を以下のいずれか(または複数)の概念を踏まえて改訂することが明らかにされています。

① ユーザーの参加(user participation)
② マーケティング上の無形資産(marketing intangibles)
③ 重要な経済的存在(significant economic presence)

また、BEPS防止に関して、法人税率の最低水準を設けることも提案されています。これは、最低水準を下回る低税率の国に利益が移転された場合に、その親会社所在地国で課税を行うというものです。これはデジタル企業の課税に限られるものではありません。

Ⅳ おわりに

上記の論点整理及び公聴会後のさらなる議論を踏まえて、福岡で6月に開催される主要20カ国・地域(G20)財務省・中央銀行総裁会議において、議論の方向性が報告される見通しです。日本には、20年のOECDの最終報告書作成を見据えて、G20の議長国として各国の合意の調整役となることが求められています。
しかし、行き過ぎた税制の設計がデジタル・ビジネスのダイナミズムと健全な発展を過度に妨げるものになることは避けなければなりません。税制をはじめとしたさまざまな法的規制の実施とデジタル経済発展のバランスを検討することにも、十分に注意を払う必要があります。また、各国は自国の利益に固執することなく協調して議論を進め、公平な競争に資するような解決策を模索すべきです。

※1 グーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾンドットコム(A)の頭文字を採ったこれらのデジタルプラットフォーム企業の総称。

※2 いわゆるインターネットを介した電子商取引(B2B、B2C、C2C)や、クラウド事業、アプリケーションストア、オンライン広告、オンライン決済、参加型ネットワーク、プラットフォーム運営など。

※3 Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)

※4 ネクサス(Nexus)は、連鎖・結びつき・関連などを表す英語である。各国がクロスボーダーの電子経済商取引に対して自国課税を行う時の根拠事実・要件などがネクサスと呼称されている。

※5 BEPS合意事項を実施に移すための議論を行うために世界中の国々が参加するフォーラム。

※6 GAFAを擁する米国(及び新興IT企業を多く有する中国)と、市場国である欧州諸国・新興国等の間には、当然のごとくこの問題に対する認識の違いと温度差が存在している。

※7 欧州委員会(EC)は、同時期(18年3月)に、デジタル経済の課税に関する「デジタル税パッケージ」(EU指令案)を公表した。この中で、重要なデジタルプレゼンス(significant digital presence)の法人課税に関する提案とデジタルサービス税(the digital services tax)の提案がなされている。また、英国、フランスなどは独自にデジタルサービス税の導入を検討している。これらはグローバルな解決策が実現するまでの暫定的な措置という位置付けである。

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