刊行物
情報センサー2019年6月号 IFRS実務講座

金融負債の条件変更時の会計処理

IFRSデスク 公認会計士 山岸正典
金融部にて上場保険会社、リース会社等の会計監査に携わるとともに、金融機関のIFRS導入支援業務、J-SOX導入支援業務、損害保険会社の設立支援業務等の各種アドバイザリー業務に従事。2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、IFRS関連の研修講師、執筆活動などに従事している。

「国際会計の実務 International GAAP」シリーズが4年ぶりにリニューアルされ、『国際会計の実務 International GAAP 2019(上巻・中巻・下巻)』と『国際金融・保険会計の実務International GAAP 2019』が刊行されました。そこで、今号から4回にわたって、2015年版からアップデートされている論点の一部を紹介します。
今号では、金融負債の条件変更時の会計処理を取り上げます。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は、2017年10月にIFRS第9号「金融商品」の改訂を公表しました。本改訂は「負の補償を伴う期限前償還要素」に関する改訂であったものの、結論の根拠において、借入金などの金融負債の条件変更時の会計処理が同時に明確化されました。
本改訂により、認識の中止を伴わない金融負債の条件変更から生じる利得又は損失は、即座に純損益に認識することが明確になりました(<表1>参照)。明確化の前は、条件変更後のキャッシュ・フローに基づき実効金利を修正し、金融負債の残存期間にわたって条件変更の影響を反映するアプローチが実務では一般的であったため、本改訂は実務に大きな影響を与えています。そこで、本稿では金融負債の条件変更時の会計処理を紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。


表1 金融負債の条件変更時の会計処理のまとめ

Ⅱ 認識の中止か否かの判定

金融負債の条件変更が生じた場合、まず、その条件変更が大幅な変更に該当するか否かを判定します。大幅な条件変更と判定された場合は、既存の金融負債の認識を中止して新たな金融負債を認識します。具体的には、当初の実効金利で割り引いた新しい条件下でのキャッシュ・フロー(貸手に対する手数料を含む)の現在価値が、当初の金融負債の残存するキャッシュ・フローの割引現在価値から10%以上乖離(かいり)する場合には、大幅な条件変更とみなされます。この比較は、一般的に「10%テスト」と呼ばれています。また、この乖離が10%未満であっても、金融負債の条件変更が根本的なものであり、即時に認識を中止することが適切な場合もあります。例えば、通貨が条件変更前後で変わる場合や、プレーンな負債性金融商品から資本の要素が組み込まれたハイブリッドな金融商品に変わる場合など、性質的に大きな変化が生じる場合には、10%テストの結果にかかわらず、認識の中止の会計処理を行うことが適切だと思われます。

Ⅲ 認識の中止を伴わない条件変更の会計処理

「Ⅱ 認識の中止か否かの判定」で認識の中止と判定されなかった場合、金融負債の帳簿価額を調整します。具体的には、金融負債の帳簿価額を、条件変更後のキャッシュ・フローを当初の実効金利で割り引いた現在価値に修正し、従来の帳簿価額との差額を一時の損益として認識します。前述の通り、この点がIFRS第9号の改訂により明確化されました(<設例>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅳ おわりに

本稿では、比較的単純化した金融負債の条件変更の会計処理を取り上げましたが、実務ではより複雑な条件変更も見られるため、慎重な検討が求められます。例えば、認識の中止に該当するか否かの判定(例:無担保から有担保に変わる条件変更が大幅な条件変更に該当するか否かの定性的な判定)や、手数料の性質(例:金利調整の実質を含む手数料又はその逆)に応じた取り扱いなどに関しては、認識する損益の金額に影響するため、特に慎重な対応が求められる点に留意が必要です。また、例えば、成長段階にある企業が信用力の上昇に伴い金利条件の見直し(金利の引き下げ)などを行うケースでは、一時に多額の利益が計上され、企業の純損益に大きなインパクトを与えることがあるため、実務的にはこの点にも留意が必要です。


情報センサー 2019年6月号