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情報センサー2019年7月号 Trend watcher

底打ち感が出たブラジル経済と注目すべき投資機会

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
公認会計士 片岡万枝
大手監査法人にて監査やIPO支援業務に従事後、ディールチームに異動し、財務デューデリジェンスを中心に、ディール業務全般で経験を積む。2011年から13年までブラジルのアドバイザリー部門に駐在。大手商社勤務を経て、19年よりEYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画している。

Ⅰ ブラジルの景況感の回復

ブラジルでは長く続いた左派政権が終了し、2019年1月より、ボルソナロ政権が発足しました。元軍人で過激な発言も目立つため、米国のドナルド・トランプ大統領の南米版のように伝えられていますが、政治家として30年以上の経験があり、ここ数年ブラジル政界を巻き込んだ汚職事件とは縁遠いということで、取捨選択的な支持を集めた結果です。一方で、経済には明るくないイメージがあるものの、著名な経済学者パウロ・ゲジス(Paulo Guedes)を経済大臣におき、年金改革、税制改革、インフラ改善等、先進国に並ぶ経済規模にふさわしいソフトおよびハードを整えようとしています。
昨年はトラックドライバーのストライキが起こり、回復基調の足を引っ張りましたが、実質GDP成長率はプラスを維持しました。米中関税戦争により、中国の穀物の調達先が米国からブラジルを中心とした南米にシフトしたこともあり、農業分野のGDPは伸長しています(17年13%増、18年0.1%増)。全体的にも下げ止まり感が出て、景気に対する国民意識も回復し、産業によって海外投資も徐々に戻りつつあります。ちょうど、日本のバブル経済がはじけた後、各産業で企業淘汰(とうた)が起こり、新しい産業が生まれたように、ブラジルでもリセッションの中で新しく生じるビジネスがあり、注目すべき投資機会として紹介します。

Ⅱ 台頭するスタートアップ(新興企業)

ブラジルの場合、過去のデフォルトの経験から、金融機関は新規参入のハードルを高くすることで、他の諸国に比べても高い利益率を保つ仕組みが保たれてきました。一方で、銀行の口座保有については、高い口座維持費用が必要で、与信審査も厳しいため、同等の経済発展度のアジア諸国と比較しても、個人や個人事業主の銀行口座保有率が低い状況が続いていました。リセッションの中で、5年前の政府の規制緩和とともに台頭したのが、フィンテック等のスタートアップです。ブラジルでは、携帯電話の普及率が100%以上という携帯インフラをベースに、銀行口座を開設できない人々が、携帯電話を通じてより簡易な審査でアカウントを得て運転資金を調達することが可能となりました。ユニコーン企業として成長し、ニューヨーク証券取引所上場や、大手投資ファンド等から資金調達している企業もあります。ちょうど20年前の日本で、リセッションの中、多くのIT企業が勃興し、上場企業の仲間入りをしていった光景と重なります。IT業界は、ブラジルの中でもM&A件数が多い分野です。先日も、日系の大手プライベートエクイティが、ラテンアメリカ向けに5,000億円の投資ファンドを組成し、今後、Eコマース、デジタルファイナンスサービス等のスタートアップ等への投資を発表しています。

Ⅲ ポテンシャルの高い農業分野

基幹産業である農業分野については、今後世界の食糧不足を解消するために食糧生産の拡大を図る上で、平野部で未利用地の多いブラジルが最もそのポテンシャルが高いとされており、早くから注目を集めています。テクノロジーにより農業の生産性改善を図るスタートアップや、成長の伸びしろが大きい肥料や化学メーカー、ディストリビューター等が、投資先として選ばれています。日本企業が持つ技術力との融合を考えた場合、新しいビジネスの誕生が見込まれる分野といえます。

Ⅳ 生活水準向上に伴い伸びる医薬品需要

製薬業界も、生活水準の向上に伴う、生活習慣病等の増加や、医薬品使用の増加により、まだまだ成長が見込まれる分野です。先進国に比べると、ジェネリック比率がまだ低く(Progenericos2017によると、米国80%、ドイツ66%、ブラジル31.4%)、ジェネリックやOTC(一般医薬品)等については、今後も成長が見込まれます。許認可の手間と流通網構築のリードタイムを考えると、M&A等での参入が有効な選択肢といえます。特に、OTCの分野では、日本にあって現地にはなかった便利な商品が、現地のドラッグストアの商品棚を飾っているケースがみられ、このエリアにおける日本企業の参入余地は大いにあるのではないかと考えます。

Ⅴ 日本企業の強みを生かせる化学の中流・下流と自動車産業

化学分野については、ブラジルは伝統的に上流部分に強みを持ちますが、化学加工品等の中流・下流部分は日本企業の参入余地がまだまだ高い分野といえます。自動車産業のティア1、2は、すでにブラジルに参入しており、景気回復とともに参入を再検討する企業も増えるものと考えます。ただ、サプライヤー企業においては、日系自動車メーカートータルのマーケットシェアがさほど高くない点が参入を足踏みさせている要因であり、日系企業にとどまらない販路開拓が当該市場での成功要因になると考えます。

Ⅵ モビリティイノベーション

ロジスティックス分野も、トラック運転手によるストライキ、それに伴う最低賃金設定による経営者サイドとの軋轢(あつれき)など、昨年は問題の多い年でしたが、Eコマースの世界大手がブラジルに参入し、受注から1週間以内でのブラジル全土への配送をコミットするなど、市場のロジスティックスに対するデマンドが徐々に高まっています。ブラジルでは、タクシーに代わる配車事業が過去5年間で飛躍的に成長したように、モビリティイノベーションとともに、規制の少ないブラジルのような国では、さらに進化したモビリティ事業がよりスピーディーに進んでいく可能性もあり、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性が高くなっています。

Ⅶ ブラジルの経済成長のために必要なインフラ投資

インフラ分野は、ブラジルが最も投資を必要としている分野です。世界一安く生産できるブラジルの大豆は、港に到着するまでの間の輸送コスト(鉄道輸送ではなく、トラック輸送の比重が高い)で、競争力を失うというのは有名な話です。日本の23倍の国土の国に、今この時代にどのようにインフラ網を敷いていくのかは、日本以上に綿密な戦略と計画が必要です。19年に進行している連邦政府のコンセッションとして、空港、配電、港湾、高速、鉄道、鉱山権、コミュニケーションネットワーク管理があり、中国勢等の積極的な参入姿勢もみられる中、日本勢がどの分野に積極的に打って出るのかは注目すべき事項です。

Ⅷ 日本企業の成長活路としてのブラジル

オリンピック後の日本経済の反動が予測される中で、日本企業の成長活路をどのエリアに見いだすかは各企業の選択ですが、アジア一辺倒ではなく、そろそろブラジルにも目を向け始めてもよい時期なのかもしれません。


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