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税効果会計の実務ポイント解説シリーズ 第4回 連結税効果(子会社が損失を計上している場合の税効果)

2019年7月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2019年8月・9月合併号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 武澤 玲子

監査業務を行うとともに、品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『こんなときどうする?減損会計の実務詳解Q&A』『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

第3回では子会社の留保利益の税効果について解説しましたが、第4回となる本稿では、子会社が損失を計上している場合の実務論点を取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 子会社に係る投資に係る一時差異の取扱い

子会社が損失を計上している場合、当該子会社に係る投資に係る連結財務諸表上の簿価と個別財務諸表上の取得価額(税務上の簿価)の差額は将来減算一時差異に該当します。子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については、次のいずれも満たす場合を除き、繰延税金資産を計上しないこととされています(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)22項)。

  1. 当該将来減算一時差異が、次のいずれかの場合により解消される可能性が高い
    (1)予測可能な将来の期間に子会社に対する投資の売却等を行う意思決定又は実施計画が存在する場合
    (2)個別財務諸表上で計上した子会社株式の評価損について、予測可能な将来の期間に税務上の損金に算入される場合
  2. 当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産に回収可能性がある

なお、上記1.(1)における子会社に対する投資の売却等には、他の子会社への売却の場合(後述Ⅳ参照)を含むこととされています。

Ⅲ 子会社株式を売却する意思決定を行った場合の税効果

以下では、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異を有する場合において、子会社株式を売却する意思決定を行った場合の税効果について、個別上の取扱い、連結上の取扱いに分けて解説します。

1. 親会社の個別財務諸表上の税効果

個別財務諸表上、子会社株式について有税で減損処理をしている場合、当該子会社の会計上の簿価は税務上の簿価を下回り、将来減算一時差異が生じています。この将来減算一時差異については、回収可能性を検討し、回収可能な場合は繰延税金資産が計上されます。子会社株式の減損損失に係る将来減算一時差異について、スケジューリングが不能であるという理由で繰延税金資産を計上していなかった場合、子会社株式を売却する意思決定に伴い、将来減算一時差異の解消が確実になったため、回収可能性に問題がなければ繰延税金資産が計上されることになります。なお、子会社への投資の一部のみ売却する場合には、売却される部分の一時差異のみが解消することになります。このため、繰延税金資産の計上は売却の対象となる部分の一時差異のみとなる点にも留意が必要です。

2. 連結財務諸表上の税効果

連結財務諸表上、個別財務諸表で計上された子会社株式評価損は取り消されます。この評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異については、個別財務諸表において計上した子会社株式の評価損に係る将来減算一時差異に対する繰延税金資産と相殺した上で(税効果適用指針20項)、連結上、あらためて、子会社に対する投資に係る一時差異について繰延税金資産の計上を検討することになります。なお、子会社への投資の一部のみ売却する場合には、売却される部分の一時差異のみが解消することになります。このため、繰延税金資産の計上は売却の対象となる部分の一時差異のみとなる点にも留意が必要です。

(1) 繰越損失に係る税効果

子会社の取得時においては、子会社株式は子会社の資本金、剰余金及びのれんと一致し、個別財務諸表と連結財務諸表の簿価は一致していることから、取得関連費用に係るものを除き、一時差異は生じません。しかし、その後、子会社で損失を計上した場合、連結上の簿価が個別財務諸表上の簿価を下回るため、連結上将来減算一時差異が生じます。この一時差異については、子会社の売却の意思決定をした場合、Ⅱ 1.(1)の要件を満たすことになります。このため、子会社に係る繰越損失について、売却する期の税金負担額を軽減する効果があると判断できる金額(Ⅱ2.の要件を満たす額)まで繰延税金資産を計上することになります。

(2) 在外連結子会社等に対する為替換算調整勘定(借方)

在外連結子会社等に対する為替換算調整勘定は、主に子会社株式を売却する場合に、子会社株式の処分損益に含めて計上し、実現することとなります。為替換算調整勘定(借方)についても、売却期の税金負担額を軽減する効果があると判断できる金額まで繰延税金資産を計上することになります。なお、子会社への投資の一部のみ売却する場合には、売却される部分の一時差異のみが解消することになります。このため、繰延税金資産の計上は売却の対象となる部分の一時差異のみとなる点にも留意が必要です。

Ⅳ 連結会社間における子会社株式等の売却に伴う連結税効果

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損をグループ法人税制(法人税法61条の13)により繰り延べる場合、個別財務諸表上、繰り延べられた売却損に係る一時差異について繰延税金資産が計上されるケースがあります。この繰延税金資産について、連結財務諸表上の取扱いは、通常の資産の取引等から生じる未実現損益に係る一時差異と同様に処理するわけではありません(<表1>参照)。

表1 未実現損益の消去に係る連結上の会計処理

損失を計上し、個別上の簿価を連結上の簿価が下回る子会社株式等を連結上の簿価で関係会社へ売却した場合、売却損が生じます。当該子会社株式等に係る将来減算一時差異については、子会社株式売却の意思決定に伴い、回収可能性を検討した上で繰延税金資産が計上されますが(Ⅲ 2.(1)参照)、当該子会社株式の関係会社への売却に伴い連結上の簿価と個別上の簿価は等しくなり、従来存在していた将来減算一時差異が解消されたと考えられるため、対応する繰延税金資産は取り崩すことになると考えられます。なお、子会社の個別財務諸表において、グループ法人税制の適用に伴い子会社株式売却損に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産が計上されている場合、当該繰延税金資産は、連結財務諸表上修正されず、そのまま計上されることになります(税効果適用指針39項、143項)。

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