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情報センサー2019年8月・9月合併号 Digital Audit

会計監査確認センターの利用による電子確認への移行

Digital Audit推進部 公認会計士 佐野秀明
1996年、当法人に入所。電気機器や製紙業など上場企業の会計監査に従事。2003年より品質管理部門にて監査用ツールの導入業務等に従事、13年情報システム部 部長、15年東北大学大学院経済学研究科教授。18年より現職。会計監査確認センターの法人内における利用普及業務に従事している。

Ⅰ はじめに

EY新日本有限責任監査法人は、有限責任 あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwCあらた有限責任監査法人と4法人共同で、2018年11月30日に「会計監査確認センター合同会社」(以下、確認センター)を設立しました。この会社の目的は、会計監査における確認手続の共同プラットフォームの開発・提供を通じて、確認状の発送・回収業務から生じる事務負担を社会全体で軽減することにあります。4監査法人が共同で会社を設立し、特定の業務について協業することは諸外国においても類を見ず、日本の監査業界で初めての試みとなります。

Ⅱ 確認手続とは

監査基準委員会報告書505「確認」では、確認を次のように定義しています。

「紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者(確認回答者)から文書による回答を直接入手する監査手続をいう。」(第5項(1))

監査人は、監査の対象となる企業の取引先に依頼し、被監査会社を経由せずに直接回答を入手します。回答は紙や電子など媒体を問いませんが、文書によって入手することとされています。
このように、確認は監査の対象となる企業から独立した情報源より情報を入手するため、それによって得られる監査証拠の証明力は高く、監査上重要な手続と位置付けられています※1
なお、確認手続は紙媒体で実施されており、電子媒体による確認(以下、電子確認)が監査上認められるかどうか、という論点があります。この点については、先ほど抜粋した第5項(1)の定義自体で言及されているほか、同A4、A11、A12項などでも言及されており、電子確認自体は手続上の手法として認められていることに異論はないといえます。
また、日本公認会計士協会は、前述のように監査の実務指針において電子確認に関する記述がなされたこと、および電子確認が実務上始められつつあったことに対応して、2010年にIT委員会研究報告第38号「電子的媒体又は経路による確認に関する監査上の留意点」を公表し、留意点を検討するほか、将来に向けた提言を行っています。

Ⅲ 会計監査確認センター

1. 会計監査確認センター設立の背景

現行の確認手続は、電子媒体によって行うこともあるものの、ほとんどが紙媒体によって行われており、監査人側から見ると、発送時における確認状の封緘(ふうかん)、郵送、および回収時における分類、開封、保管といった紙媒体特有の事務処理業務が発生しています。これらの業務は監査チーム単位で行うこともあり、手続の集中化や自動化による効率化が進みづらい状況にあります。
また、確認状の取扱い件数は膨大であり、わが国全体でみると、1年間に約100万通の確認状がやり取りされていると推定されています。紙面による確認は、監査人のみならず、被監査会社やその取引先である確認回答者の業務負荷にもなっています。
このような監査業界共通の課題を改善するための新たなソリューションを提供することを目的として、確認センターが設立されました。監査人や被監査会社、確認回答者など関係者が共同で利用する基盤という意味で、「共同プラットフォーム」と呼んでいます。
確認センターの共同プラットフォームの機能の中心は、確認手続のための情報システム(以下、確認システム)の開発・提供にあります。確認システムは電子確認と紙面確認の両者に対応しており、電子確認のプロセスや、紙面確認の発送から回収までの一連の流れを集約して取り扱います(<図1>参照)。


図1 確認システムの機能

2. 電子確認のプロセス

債権債務の確認手続を例に取ると、紙面確認のプロセスは概(おおむ)ね<表1>の左側のとおりです。共同プラットフォームを利用した電子確認では、①~⑨までのプロセスを全て確認システム上で行うことになります。

(下の図をクリックすると拡大します)

3. 電子確認のメリット

被監査会社、確認回答者、監査人にとっての電子確認のメリットを列挙すると<表2>の通りです。

(下の図をクリックすると拡大します)

4. 会計監査確認センターが提供するサービス

確認センターが提供する予定のサービスは<表3>の通りです。



5. 紙面確認のサポート

前述のとおり、共同プラットフォームのもう一つの機能として、確認センターでは、紙面確認の手続もサポートしています。具体的には、発送時の封緘や郵送手続、回収時の開封、一覧表への回答金額の入力代行といったサービスです。現在監査人が実施している事務作業を軽減できると考えられます。また、紙面確認の進捗管理や差異調整を確認システムで行うこともできます。これらは被監査会社も利用可能な機能となっています。

6. 会計監査確認センターを利用するための準備

確認センターの共同プラットフォームを利用するためには、監査人と被監査会社との間で合意が必要になります。

  • 監査人は、監査の過程で確認センターを利用するかどうかを検討します。
  • 監査人は、確認センターを利用する可能性がある場合、被監査会社に相談します。被監査会社は、自社が確認センターを利用するかどうかを検討します。
  • この際、監査人は、被監査会社との間で、確認センターを利用することについて書面(監査契約書や覚書など)での合意が存在しているかどうかを確かめ、もし存在していない場合には書面で合意します。
  • 監査人は、確認センターを利用する領域(例えば、債権債務確認)を決定し、被監査会社に連絡の上、確認システム上に「プロジェクト」を作成します。
  • その後は、当該「プロジェクト」の中で監査人、被監査会社、確認回答者の三者が確認に関する情報をやり取りすることになります。
  • 以降は、「2. 電子確認のプロセス」に記載した手順となります。

7. 情報管理やセキュリティー面の対応

当法人としては、確認センターは確認手続に関する事務的な業務の委託先となりますので、受託会社としての情報管理やセキュリティー対応について十分な体制が整えられ、運用されていることを確かめる必要があります。今後、業務委託契約等で守秘義務に関して規定するほか、確認センターが外部の第三者から取得する受託業務に係る内部統制の保証報告書(SOC2)を入手して評価し、さらに、法人規程に基づくセキュリティーレビューの実施を予定しています。
確認システムへのアクセス認証については、監査人は原則として監査事務所を経由したアクセス、または二要素認証によることとしています。また、被監査会社についても二要素認証の利用が可能となっています。

Ⅳ 確認手続の歴史

ここで、確認手続の歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。財務諸表監査の制度は19世紀の半ばに英国において始まりました。当時の監査は「精細監査」と呼ばれ、会社内部で作成された帳票と帳票の突合せが中心でした。英国では郵便制度が早くから整備されていたこともあり、19世紀の後半には一部の会社の監査において郵便を利用した確認手続が実施されていました。ただし、その時代では全ての監査人が実施していた手続ではなく、たとえ監査人がその実施を望んだとしても会社から拒まれることもあったようです※2
その後、世界経済の中心が英国から米国に移るにつれて、財務諸表監査も米国で発展していきます。20世紀初頭の米国ではいわゆる「貸借対照表監査」が始まっており、確認手続は売掛金残高や銀行残高を検証するために効果的な手続として認識されていましたが、この時点においては、確認手続は被監査会社との協議の後に初めて実施できることになっており、不正発見の手段として最も効果的と認められていますが、必須の手続にはなっていません。
米国において確認が必須の手続とされたのは、1938年に発覚したマッケソン・ロビンス事件※3の後となります。1939年に公表された「監査手続の拡張」において「一般に認められた監査手続」とされました。その後、確認手続は広く実施され、実務上も一般的な手続と見なされるようになっています※4
日本では、第二次世界大戦後のGHQの施策により証券取引法に基づく財務諸表監査制度が開始されました。当初は確認手続の適用に関して「特に必要がある場合には」実施するとされていた※5ことから、実務上はしばしば手続が省略される結果になっていました※6。その後、1964年にサンウェーブ工業、1965年に山陽特殊製鋼と大企業の粉飾・倒産が相次いだことを受け、国会における議論※7などを経て監査基準・実施準則の改訂が諮問され、半年余りにわたる議論※8の末、1965年9月に監査実施準則が改訂されました。ここでは、売掛金の残高について「原則として、債務者に対して確認を行う」とし、原則として必須の手続とされました。また、日本公認会計士協会からは監査委員会報告第7号「『確認』について」(1965年10月11日)が公表されました。この必須化により、日本においても確認手続が実務上も徐々に定着するようになったと考えられます※9
このように、財務諸表監査の歴史から見ても確認手続が監査上効果的な手続と考えられてきたことは明らかです。また、Ⅱにおいても言及したように、現在でも引き続き重要な手続と位置付けられています。確認センターの利用により、確認手続を実施する上での実務面あるいは社会全体でのコストが減少し、確認手続がさらに普及し、監査の品質が高まることを願っています。

Ⅴ おわりに

監査人(公認会計士)の業務に限らず、従来専門職が行ってきた業務の一部は「ルーティン化」や「デジタル化」が大幅に進んでいくと考えられます※10。「ルーティン化」は特に「集中化(Centralization)」や「標準化(Standardization)」、「自動化(Automation)」によって大きく促進されます。これらは、EYグローバルおよび当法人においても、監査業務をデジタル化する施策の一部として位置付けられています。
確認センターが提供している業務内容はまさにこのような大きな流れに沿ったものであり、自動化や集中化を単体の監査事務所内だけでなく、業界全体、さらには監査に関連するステークホルダー全体のレベルで進めていくことをも目的としています。本誌 2019年4月号※11でも言及されているように、確認センターは、2019年1月に発表された4法人による共同声明における「個別の監査人を超えた」取り組みの具体的な一例となります。
現状で監査事務所ごとに異なっている確認のための事務的なプロセスやフォーマットについて、各事務所の知見やノウハウを持ち寄ることにより、より効果的で効率的な手続が実施できるように工夫がなされ、方式などが一元化されます。これにより、監査人のみならず、被監査会社や確認回答者の負担となっている事務作業が大きく軽減されることが期待されます。また、裾野(すその)が広がることでその効果もより大きくなっていくと考えられます。ぜひ、ご利用ください。

本稿は、2019年6月末時点の情報に基づいて記載しています。

  • ※1例えば、監査基準委員会報告330「評価したリスクに対応する監査人の手続」第18項では、多くの種類がある監査手続の中から確認手続を取り上げ、「監査人は、確認手続を実証手続として実施すべきかどうかを考慮しなければならない」と規定している。
  • ※2"To the Editor of Accountant", The Accountant, Oct. 20, 1883, p.10
  • ※3マッケソン・ロビンス事件は経営者主導による10年以上にわたる不正(大規模な架空仕入・架空売上の計上)であり、当時の会計士業界を揺るがす大問題に発展した。
  • ※41991年に公表されたSAS No. 67においても、"there is a presumption that the auditor will request the confirmation of accounts receivable"と記載され、原則として必須の手続とされている。この考え方は、2010年に公表されたPCAOB AS 2310にも引き継がれている。
  • ※51950年(昭和25年)制定の監査基準・監査実施準則
  • ※6日本公認会計士協会(1975)『公認会計士制度二十五年史』356ページ
  • ※7例えば、1965年(昭和40年)2月18日 の大蔵委員会 kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/048/0284/04802180284009a.html
  • ※8審議の過程は企業会計審議会第三部会長の佐藤孝一教授による諸論文で詳細に報告されている。例えば、佐藤孝一(1965)「<監査実施準則>総論の全面的改正」『企業会計』17(7), pp.13-23 等。
  • ※9その後、国際監査基準ISA505「外部確認(External Confirmation)」が2000年に公表されたことを受け、2001年(平成13年)に監査基準委員会報告書第19号(中間報告)「確認」が公表された。また、ISAのクラリティ・プロジェクトを受けて2010年(平成22年)に監査基準委員会報告書第54号「確認」が公表されている。
  • ※10リチャード・サスカインド、ダニエル・サスカインド(2017)『プロフェッショナルの未来』朝日新聞出版
  • ※11加藤信彦「デジタル技術は会計監査をどのように変革させるのか-未来の監査に向けた課題への対応」(本誌 2019年4月号)

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