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現金決済型の株式報酬取引における権利確定条件の取り扱い

2019年7月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2019年8月・9月合併号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 柏岡 佳樹

当法人入所後、大阪事務所にて主として製造業、サービス業などの会計監査およびJ-SOX導入支援業務に携わる。2014年よりIFRSデスクに所属し、製造業などのIFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。

「国際会計の実務 International GAAP」シリーズが4年ぶりにリニューアルされ、『国際会計の実務 International GAAP 2019(上巻・中巻・下巻)』と『国際金融・保険会計の実務 International GAAP 2019』が刊行されました。そこで、4回にわたって、2015年版からアップデートされている論点の一部を紹介します。
第3回となる今号では、現金決済型の株式報酬取引における権利確定条件の取り扱いについて取り上げます。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(IASB)が2016年6月に公表したIFRS第2号「株式に基づく報酬」の改訂では、現金決済型の株式報酬取引の会計処理に当たり、権利確定条件である業績条件及び権利確定条件以外の条件をどのように取り扱うべきかが明確化され、18年1月1日以後開始する事業年度から本改訂が適用されています。本稿では、本改訂の内容について設例を用いて解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 現金決済型の株式報酬取引

1. 現金決済型の株式報酬取引とは

現金決済型の株式報酬取引とは、株式報酬取引のうち、その決済を当該企業またはグループ企業の資本性金融商品(株式またはストック・オプションを含む)の価格(または価値)を基礎とする金額の現金または他の資産で行うものを指し、例としては、株式増価受益権(Share appreciation rights:SARs)※1や仮想オプション※2が挙げられます。

2. 現金決済型の株式報酬取引の会計処理

現金決済型の株式報酬取引は、付与日から決済日までの各報告日において公正価値を算定し、当該公正価値のうち権利確定期間の既経過割合を乗じた金額を負債として計上する必要があります。
従前のIFRS第2号においては、ストック・オプションなどの持分決済型の株式報酬取引と異なり、現金決済型の株式報酬取引に付された業績条件や権利確定条件以外の条件を、株式報酬にかかる負債の測定においてどのように取り扱うか、すなわち、株式報酬の単位当たり公正価値と権利確定すると見込まれる株式報酬の数のいずれの計算に含めるかが不明確でした。このため、特に株式市場条件以外の業績条件の取り扱いについて、持分決済型の株式報酬の公正価値算定と同様に単位当たり公正価値の計算には織り込まず、権利確定すると見込まれる株式報酬の数に織り込む方法と、条件が達成するかどうかに関する見積もりを株式報酬の単位当たり公正価値の算定に織り込む方法との二つの実務が存在していました。
本改訂により、現金決済型の株式報酬取引に付された業績条件や権利確定条件以外の条件は、持分決済型の株式報酬に付されたこれらの条件と同じく取り扱う必要があることが明確化されました。従って、本改訂の適用後は、現金決済型の株式報酬にかかる負債の算定において、当該株式報酬に付された条件は<表1>のように取り扱うこととなります。

表1 現金決済型の株式報酬取引に付された条件の取り扱い
設例:株式市場条件以外の業績条件が付された現金決済型の株式報酬取引の測定

Ⅲ おわりに

現金決済型の株式報酬取引に該当する報酬制度は、ストック・オプションや特定譲渡制限付株式制度に比べるとまだ日本ではなじみの薄い制度ではあると思われるものの、経済産業省が公表した『「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~』においても取り上げられており、また、税務上の手当ても進んでいることなども踏まえると、今後普及が進む可能性もあります。付与日以降も継続的に公正価値を測定する必要があるなど、持分決済型の株式報酬と異なる会計処理を行う必要があることから、制度の導入の際には会計処理への影響についても十分な検討が必要と考えられます。

※1 従業員が一定数の株式を付与日から行使日まで保有していたとしたら得たであろう利得に相当する現金を受領する権利

※2 従業員が、名目的な株式に対するオプションを名目価格で行使することにより取得し、当該株式を行使日に売却することで得られるであろう利得に相当する現金を受領する権利

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