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情報センサー2019年8月・9月合併号 押さえておきたい会計・税務・法律

完全支配関係がある法人間の資産の譲渡・現物分配の会計と税務

公認会計士 太田達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

子会社から親会社に金銭以外の資産の移転を行う方法としては、譲渡、贈与、配当、分割などが挙げられます。
本稿では、100%の持株関係(完全支配関係)にある子会社から親会社に対する資産の移転を題材に、時価譲渡および配当(現物分配)について、事例を用いて会計(個別)・税務の取扱いを説明します。

<事例>

  • 資産を移転する法人:内国法人B株式会社資本金3,000万円、株主資本の帳簿価額8,000万円
  • 資産の移転を受ける法人:内国法人A株式会社B社の発行済株式の全部を帳簿価額3,000万円で保有
  • 移転する資産:B社において遊休資産となっている土地
    B社における簿価2,000万円、移転時の時価3,500万円

Ⅱ 譲渡

1. 会計上の取扱い

譲渡法人B社においては、土地譲渡益1,500万円が生じますが、税務上は後述のとおり、譲受法人A社で一定の事由(後で解説)が生ずるまで繰り延べられるため、個別決算においては税効果会計の対象となります。
法定実効税率30%とすると、B社の経理処理は次のようになります。


現金預金 3,500万円 / 土地 2,000万円 /土地譲渡益 1,500万円 法人税等調整額 450万円 / 繰延税金負債 450万円

一方、譲受法人A社においては、土地を3,500万円で取得することとなります。

2. 税務上の取扱い

(1) 譲渡法人B社の取扱い

① 譲渡損益の繰延べ(法法61の13①)

完全支配関係がある法人間で譲渡損益調整資産を譲渡した場合には、その譲渡利益額または譲渡損失額につき、譲り受けた法人で譲渡等の事由が生ずるまで、譲渡した法人の所得計算において申告調整により繰り延べます。
なお、この規定は、資産を移転する法人、移転を受ける法人ともに内国法人である普通法人または協同組合等である場合に限り、適用されます。本事例ではA社、B社ともに内国法人である普通法人(株式会社)であるため、適用があります。
この場合、繰延べの対象となる譲渡利益額および譲渡損失額は、収益の額と原価の額の差額とされていますから、売買に係る手数料など譲渡に付随して発生する費用は対象とならず、損金算入されます(法基通12の4-1-2)。
(注)譲渡損益調整資産の意義(法法61の13①、法令122の14①、法規27の13の3)

この規定の対象となる譲渡損益調整資産は①固定資産②土地等③有価証券④金銭債権⑤繰延資産の5種類です。ただし、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満のものや、有価証券については譲渡法人で売買目的有価証券であったものや譲受法人で売買目的有価証券とされるものは除かれます。
なお、譲渡直前の帳簿価額の判定は、土地等については1筆(一体として事業の用に供される一団の土地等は、その一団の土地等)ごとに区分して行います。

<具体的な別表調整>


別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の記載 譲渡益1,500万円を繰り延べるために損金算入し、法人税等調整額は損金不算入とします。


別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」の記載 譲渡損益調整勘定は留保項目ですから別表五(一)に転記します。

② 譲渡損益の認識(法法61の13②③)

①の適用を受けた場合において次の事由が生じたときは、譲渡法人においては、それぞれの事由に応じた金額を戻し入れ、繰り延べていた譲渡利益額については益金算入、譲渡損失額については損金算入します。


表

事由アの譲渡については、譲受法人が譲渡する相手が、譲受法人との間に完全支配関係がある法人であっても、戻入れを行います。


<図解>

<具体的な別表調整>

本事例において、B社が譲渡損益を繰り延べた翌期に、譲受法人A社が譲渡損益調整資産である土地を他の者に譲渡した場合、B社の税務調整は次のようになります。


別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の記載 繰り延べていた譲渡益1,500万円を認識するために益金算入し、繰延税金負債も消滅するため、法人税等調整額をその計上前の所得金額になるよう損金算入します。


別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」の記載

(2) 譲受法人A社の取扱い

A社側では、土地を時価3,500万円で取得したものとして取り扱い、税務調整はありません。

Ⅲ 配当(現物分配)

株式会社は、剰余金の配当につき、金銭以外の財産により行うこともできます(ただし、中間配当は金銭に限ります。会社法454①一、⑤)。
剰余金の配当を金銭以外の財産により行う場合における株主総会の決議は、株主に対し金銭分配請求権(金銭以外の財産に代えて金銭を交付することを請求する権利をいいます)を与えないときは、特別決議によらなければなりません(会社法309②十、454④)。もっとも、本事例のように100%親子会社であれば、これらは問題になりませんし、書面決議により株主総会を省略することも可能です(会社法319)。
なお、金銭以外の資産の配当に当たっては、その配当しようとする資産の帳簿価額が分配可能額を超えることはできません。また、会社の純資産が300万円を下回る場合には配当できず、配当の結果、純資産額が300万円を下回ることも認められません(会社法458、461、会社計算規則158六)。
剰余金の配当の原資は、通常は利益剰余金を用いますが、資本剰余金を用いることもできます。ここでは、前記<事例>の土地につき、利益剰余金を原資として配当する場合について説明します。

1. 会計上の取扱い

企業集団内で、金銭以外の財産を配当する場合には、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針10)。
従って、B社の会計処理は次のようになります。


繰越利益剰余金 2,000万円 / 土地 2,000万円

一方、土地の配当を受けた株主法人A社は、土地を移転前の適正な帳簿価額により計上するとともに、これまで保有していた株式が実質的に引き換えられたものとみなされます。
この場合、実質的に引き換えられたものとみなされる額は、分配を受ける直前のその株式の適正な帳簿価額を合理的な方法により按(あん)分して計算します。(事業分離等に関する会計基準52、35、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針準297、268、244)。
なお、合理的な按分の方法としては、関連する時価の比率、時価総額の比率、関連する帳簿価額の比率などによることが考えられます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針準295)。
合理的な按分方法として関連する帳簿価額の比率によるものとしますと、A社の会計処理は次のようになります。


土地 2,000万円*1 / B社株式 750万円*2 / 交換差益1,250万円*3 *1 移転前の適正な帳簿価額2,000万円 *2 B社株式の帳簿価額3,000万円×2,000万円/8,000万円=750万円 *3 上記の差額は交換差益として認識する。

2. 税務上の取扱い

税務上、金銭以外の資産による剰余金の配当を「現物分配」といい、配当する法人を「現物分配法人」、配当を受け取る法人を「被現物分配法人」といいます。このうち、現物分配法人が内国法人で、被現物分配法人がその現物分配の直前に現物分配法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人又は協同組合等に限る)のみであるものを「適格現物分配」といいます(法法2十二の五の二、十二の五の三、十二の十五)。
本事例は、現物分配法人B社、被現物分配法人A社ともに内国法人である普通法人であるため、B社のA社に対する土地の配当は、適格現物分配に該当します。

(1) 現物分配法人B社の取扱い

現物分配による資産の移転は、原則として、無償による資産の譲渡として引渡時の時価により収益の額を認識する必要があります(法法22の2④、⑥)。
ただし、適格現物分配の場合には、適格現物分配の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして取り扱われ、譲渡損益に対する課税が繰り延べられます(法法62の5③)。また、利益剰余金の配当については、利益積立金額が同額減少します(法令9①八)。
従って、B社の税務上の仕訳は次のようになります。


利益積立金額 2,000万円 / 土地 2,000万円

なお、所得税法上、適格現物分配は配当等の範囲から除かれており、B社に源泉徴収義務はありません(所法24①、181①)。また、剰余金の配当は資産の譲渡等に該当しませんから、消費税は課税対象外となります。

(2) 被現物分配法人A社の取扱い

① 現物分配により資産の移転を受けた事業年度の取扱い

現物分配により資産の移転を受けた法人は、原則として、時価により資産を取得し、金銭による配当と同様、受取配当等の益金不算入額の規定の適用を受けることができます(法法23)。
ただし、適格現物分配の場合には、適格現物分配の直前の帳簿価額により資産を取得したものとされ、益金不算入となります(法令123の6①、法法62の5④)。また、利益剰余金の配当については、利益積立金額が同額増加します(法令9①四)。
従って、A社の税務上の仕訳は次のようになります。


土地 2,000万円 / 受取配当金(利益積立金額) 2,000万円

<具体的な別表調整>


別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の記載 会計処理ではB社株式の帳簿価額を減額していますが、税務上は減額しません。この点、別表調整が必要です。次に、適格現物分配については全額益金不算入となりますから、別表四で減算(社外流出のマイナス)とします。当期中の取引がこの現物分配だけであったと仮定すると、別表四は次のようになります。


別表五(一)「利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書」の記載 会計と税務のずれの修正は留保項目ですから別表五(一)に転記します。適格現物分配の益金不算入額は社外流出項目ですから転記しません。

② 派生的に生ずる留意点

適格現物分配は組織再編税制の一類型として位置付けられていますから、他の組織再編税制と同様、欠損金の使用制限の適用を受ける場合があります。
例えば、現物分配法人と被現物分配法人との間の50%超の支配関係が、原則として適格現物分配のあった事業年度開始の日から遡(さかのぼ)って5年以内に生じていた場合には、被現物分配法人では、以後の事業年度において一定の欠損金の繰越控除ができなくなる、とか、支配関係が生ずる事業年度前から有していた含み損資産を一定期間内に譲渡した場合にはその譲渡損が損金算入できなくなる、といった制限の対象となる場合があります(法法57④、法法62の7①)。
合併など典型的な組織再編成の場合には、このような制限規定の存在にはあらかじめ注意を払うと思われますが、現物分配は配当を金銭に代えて行うだけであり、組織再編成という感覚を持ちにくく、制限規定の存在を忘れがちです。また、他の組織再編成であれば、みなし共同事業要件を満たすことによって制限規定の適用を除外することができますが、適格現物分配にはみなし共同事業要件による適用除外はありません。
完全支配関係があるグループ内での現物分配については、支配関係が生じてから一定の期間が経過しているかどうか、特に注意を払う必要があります。

(注)文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
   法法:法人税法
   法令:法人税法施行令
   法規:法人税法施行規則
   法基通:法人税法基本通達


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