韓国における会計の透明性・信頼性の向上へ向けた取り組み
情報センサー2019年8月・9月合併号 JBS
ソウル駐在員 公認会計士 守屋 貴浩
当法人パートナー。東京事務所にて監査業務、IPO支援業務および各種アドバイザリー業務に従事後、2018年9月より韓国EYソウル事務所に日本事業本部パートナーとして駐在。韓国における日系企業事業展開サポートに従事している。
Ⅰ はじめに
韓国における会計の透明性・信頼性の向上を目的とした「株式会社の外部監査に関する法律」等の全面改正案が2017年10月31日に公表され、18年11月1日に施行されました。改正内容は多岐にわたりますが、このような大きな制度改正が行われた背景として、以下が挙げられます。
- 国際評価機関等※1による韓国の会計の透明性・信頼性の低下
- 13年度以降に発生した会計不正※2(粉飾決算、監査の失敗)
本稿では、今回の法律改正に至る経緯、改正内容について簡潔にまとめます。
Ⅱ 指摘された問題点
Ⅰで述べた背景を受け、「会計の透明性および信頼性の向上のための総合対策」(17年1月20日(最終確定17年4月17日)、金融委員会・金融監督院)が取りまとめられ、企業、監査人および監督当局のそれぞれの問題点が以下のように明示されました。
1. 企業
- 不十分な内部監査機能
- 内部告発の誘因・保護不足
- 内部統制報告制度の形式的運用
- 時間的制約の中での不十分な監査意見
→ 粉飾決算の誘因が常に存在
2. 監査人
- 会計監査人の選任プロセスにおける甲乙問題
- 監査内容・プロセスの説明不足
- 監査以外のサービスによる独立性の制限
- 低価格受注による監査時間不足
→ 監査の失敗を引き起こす監査環境
3. 監督当局
- 上場企業の会計監査人登録制の未整備
- 長時間を要する会計監理
- 会計不正に対する軽い制裁
- 開示不足、職員の会計知識不足
→ 会計不正に対する警戒心が低い
Ⅲ 改正「株式会社の外部監査に関する法律」等の概要
Ⅱで述べた総合対策をもとにした「株式会社の外部監査に関する法律」等の改正が18年11月施行されました。以下に主な改正内容を企業、監査人および監督当局に分けて示します。
1. 企業
① 株式会社に限られている外部監査対象が有限会社まで拡大
② 監査人選任権限が経営陣から内部監査機構(監査役又は監査委員会)に移管
③ 財務諸表作成に対する会社の責任の強化
- 会社が監査人に財務諸表の代理作成を要求することを禁止
- 会社が法定期限(株主総会の6週間前)内に監査人および証券先物委員会に財務諸表を提出することができなかった場合、その事由の開示義務化
④ 会計処理関連の内部統制の実効性の向上
- 内部会計管理に対する監査人の点検水準を「レビュー」から「監査」に強化
- 代表理事が内部会計管理の実態を直接株主総会へ報告するよう義務化
⑤ 会計不正の摘発、措置に対する内部監査機構の役割の強化
- 監査人が会計不正通知時、内部監査機構は外部専門家を選任、調査後、経営陣に是正の要求義務(代表理事は調査費用を負担、資料提供の協力義務)
⑥ 大手非上場会社および金融会社の会計規律の強化(個人会計士ではない監査人は会計法人に制限、連続する3事業年度の同一監査人選任義務等)
⑦ 会社の会計担当役職員を上場会社協議会・コスダック協議会に登録・管理することによる会計関連教育等を通じた責任および能力の向上、中小規模会社の会計処理に関する支援の強化
2. 監査人
① 監査人指定制を監督補完手段として積極的に活用
- 「定期的指定制」の導入:全ての上場法人および所有経営未分離の非上場会社について9年のうち3年は政府が監査人を指定(会計処理の信頼性が認められる場合は除外
- 上場予定、監理後措置等特定事由に該当し、監査人の指定を受けることとなる従前の「当局による指定制」の対象も拡大(会社の財務諸表作成義務の違反、株主要請、標準監査時間未達等を指定事由に追加)
② 監査対象会社に対する非監査サービスの制限強化
- 禁止対象の非監査サービスの範囲を先進国レベルに拡大(投資仲介等)
- 監査対象会社の子会社の非監査サービスも制限
③「上場会社監査人登録制」の導入
- 上場会社の監査は、監査品質管理体制の構築等一定要件を満たす会計法人のみ許可
④ 会計法人の監査品質管理責任の強化
- 品質管理基準の規定の設定、代表理事の管理責任の明示
- 証券先物委員会は品質管理監理結果による改善勧告内容およびその履行状況を公開
⑤ 適正水準の監査品質確保を目的とした「標準監査時間制」の導入※3
⑥ 監査人選任期限の短縮
- (現行)毎事業年度開始後、4カ月以内→(改正後)45日以内(ただし、監査委員会設置義務会社は事業年度開始日前)
⑦「監査上の主要な検討事項」(KAM)の全上場会社への導入
3. 監督当局
① 外部監査法上の課徴金制度の新設(絶対金額の上限なし)
- 会社 粉飾額20%以内
- 会社関係者 会社課徴金10%以内
- 監査人 監査報酬5倍以内
② 会計法人の代表理事および品質管理担当役員に対する制裁規定の設定
- 品質管理不行き届きにより重大な監査の失敗が発生した場合、解任勧告、職務停止等の措置
③ 会計不正、監査の失敗に関与した会社、監査人に対する制裁水準の強化
- 懲役 (現行)5~7年→(改正後)10年以下
- 罰金 (現行)5~7千万ウォン→(改正後)不当利得の1~3倍以下
- 会計法人の損害賠償の時効 (現行)3年→(改正後)8年等
④ 会計法人に対する常時監督の強化
- 上場会社の監査人は、従前の事業報告書以外に経営、財産、品質管理等に重大な事項が発生した場合、これを証券先物委員会に即時報告
⑤ 会計不正の内部告発者の保護強化
- 内部告発者のプロフィール等の公開または不利益措置をした者に対する刑罰、過料賦課の規定を新設
⑥ 金融監督院の監理能力の強化(証券先物委員会および金融監督院の業務プロセスの改善)
- 監理システムの先進化、監理人員の拡充等を通じて全ての上場会社に対する管理周期を大幅短縮(現行)25年→(改正後)10年
※1 「世界競争力年鑑」(スイス国際経営開発研究所):調査対象61カ国中、会計の透明性において最下位
※2 A社(建設会社):主に工事損失引当金の過少計上によるもの(粉飾規模3,896億ウォン)、B社(家電メーカー):売上高の過大計上(融資詐欺、金融機関の損失額6,768億ウォン)、C社(造船会社):工事進行基準における進捗ちょく率の操作等(粉飾規模5兆ウォン以上)
※3 標準監査時間未達会社および会計法人には監査人指定制の適用等のペナルティが賦課される。