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情報センサー2019年11月号 会計情報レポート

税効果会計の実務ポイント解説シリーズ
第5回 組織再編に係る論点

会計監理部 公認会計士 村田貴広
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『ここが変わった!税効果会計―繰延税金資産の回収可能性へのインパクト』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

税効果会計の実務ポイントについて解説する本シリーズの第5回となる本稿では、組織再編に係る論点について解説します。組織再編についてはさまざまな形式がありますが、本稿では、子会社同士の合併に係る繰延税金資産の回収可能性の考え方について取り上げます。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 子会社同士の合併に係る繰延税金資産の回収可能性の考え方

例えば、決算日後に業績好調な100%子会社A社と業績不良の100%子会社B社の合併が予定されている場合、合併直前の期の連結財務諸表及び各子会社の個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性をどのように考えるのかが論点となります。以下、考え方について解説します。

1. 子会社同士が合併した場合の会計処理

前述のような100%子会社同士の合併の場合、吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定するとされています(企業結合及び事業分離等に関する会計基準の適用指針(以下、結合分離指針)第242項)。そして、吸収合併存続会社である子会社は、吸収合併消滅会社である子会社から受け入れる資産及び負債を、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上することになります(結合分離指針第243項(1))。繰延税金資産も「適正な帳簿価額」により算定することになりますので、回収可能性をどのように考えるのかが論点となります。

2. 企業結合が行われた場合の個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

結合分離指針では、税効果会計について、企業結合による影響は企業結合年度から反映させることを原則としています(結合分離指針第75項)。同項は取得とされた企業結合に関する定めですが、共通支配下の取引においても同様の考え方であると解されます。
共通支配下の取引に該当する合併の場合、前述のとおり、繰延税金資産及び繰延税金負債も含めて、消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額で合併受入処理が行われます。消滅会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の適正な帳簿価額は、合併を前提としない場合に計上される金額であり、存続会社は、当該金額をそのまま引き継ぎ、合併によるスケジューリングや課税所得の見積額の影響は合併期日を含む決算で処理されることになります。
このような考え方は、消滅会社から引き継ぐ繰延税金資産及び繰延税金負債は、消滅会社から引き継ぐ事業に係るものであるため、合併を前提とせず、消滅会社において計上される範囲の繰延税金資産及び繰延税金負債に限られ、合併による影響は、合併の効果として合併後に計上するのが妥当であると判断されたものと解されます。
従って、例えば業績好調な100%子会社A社を存続会社、業績不良の100%子会社B社を消滅会社としての合併が予定されている場合、合併直前の子会社B社の決算においては、合併を前提とせずに繰延税金資産の回収可能性を判断し、当該判断により計上された繰延税金資産を合併により子会社A社は受け入れることになります。合併後の(B社吸収合併後の)A社は合併後の決算から合併による影響を繰延税金資産の回収可能性に反映することになります。

3. 連結財務諸表における考え方

連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成することとされています(連結財務諸表に関する会計基準第10項)。また、連結決算手続の結果として生じる将来減算一時差異(未実現利益の消去に係る将来減算一時差異を除く)に係る税効果額は、納税主体ごとに個別財務諸表における繰延税金資産の計上額(繰越外国税額控除に係る繰延税金資産を除く)と合算し、回収可能性の判断を行うこととされていることを踏まえると(税効果会計に係る会計基準の適用指針第8項(3))、納税主体ごとの個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断が連結財務諸表において見直されることは通常想定されていないと考えられます。これは、企業集団に属する親会社及び子会社は法的に別法人であり、当該法人自体が単独の納税主体であることを踏まえたものと考えられます。
上記の趣旨を踏まえると、連結財務諸表においても合併を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことはできないと考えられます。
以上の子会社同士の合併に係る繰延税金資産の回収可能性の判断をまとめると<表1>のようになります。

(下の図をクリックすると拡大します)