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単一の取引から生じた資産及び負債に係る繰延税金(IAS第12号の改訂案)

2019年10月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2019年11月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 北出 旭彦

当法人入所後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2019年7月17日に公開草案「単一の取引から生じた資産及び負債に係る繰延税金」(IAS第12号の改訂案 以下、改訂案)を公表しました。本改訂案の目的は、特定の取引の当初認識時及びそれ以後における繰延税金の計上についての取り扱いを明確にすることです。
IAS第12号「法人所得税」(以下、IAS第12号)は、企業が資産又は負債の当初認識から生じる繰延税金を認識することを特定の状況において禁止しています。ただし、リースや資産除去債務のように当初認識時において同額の資産と負債を認識することとなるような取引に対しても禁止されるのかどうかについて、明確にされていませんでした。本改訂案においては、これらについても繰延税金の計上が要求されることを明確にしています。
本稿では、改訂案の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 現行の取り扱い

IAS第12号は一定の条件を充足した特定の一時差異について、例外的にその繰延税金を認識することを禁止しています(当初認識に関する適用除外)。ただし、IFRS第16号「リース」(以下、IFRS第16号)に基づいて計上される使用権資産及びリース負債や、IAS第16号「有形固定資産」などに基づいて計上される資産除去債務のように、当初認識時において同額の資産と負債を認識することとなるような取引に対しても、適用が除外されるかどうかについては明確になっていませんでした。この点、実務上は各企業が<表1>の三つのアプローチからいずれか一つのアプローチを選択して採用している状況が見受けられます。

表1 現行のIAS第12号での実務上のアプローチ

このうち、アプローチ1を採用すると、関連する資産の減価償却費や負債の金融費用が認識されるその後の報告期間において、実効税率が大きく変動することとなります。この状況は、企業の財務諸表を明瞭にするために当初認識における繰延税金を認識しないとした、IAS第12号の目的が達成されているとは言い難い状況であると考えられます。一方で、アプローチ2と3についてはその後の報告期間における実効税率の変動を回避することができます。
いずれのアプローチを採用するかにより結果が異なることから、現行のIAS第12号に従えば、リース資産及び負債や資産除去債務を計上する企業間での比較可能性の観点で弊害が生じる可能性があります。

Ⅲ 改訂案の概要

1. 一時差異に対する繰延税金の認識

当初認識時において繰延税金を認識すべきかどうかを決定する際に、一時差異が生じるかどうかを評価することを求めています。この評価を行うに当たり、税務上で損金算入される場合に、企業はその税務上の損金算入が資産もしくは負債のいずれに関連するかを、適用される税法を考慮して判断することとされています。
リース取引を例にしてみますと、リース料の支払時に税務上の損金算入を得る場合に、その損金算入が次のどちらに関連するものなのかを決定する必要があります。

(a) リース資産:損金算入はリース資産から生じた費用に関連するものである
(b) リース負債:損金算入はリース負債の返済に関連するものである

(a)のリース資産に関連すると判断する場合は、リース資産の税務基準額とリース負債の税務基準額はそれらの帳簿価額と同額となります。これは、企業が(将来において減価償却されることで)リース資産の帳簿価額と同額の損金算入を受け、リース負債に関しては損金算入を受けないことを反映しています。この場合、当初認識時において、資産負債の会計上の帳簿価額と税務基準額が一致することから、一時差異は生じず、その後に一時差異が生じた時点で繰延税金を認識することになります。
一方、(b)のリース負債に関連すると判断する場合は、リース資産の税務基準額とリース負債の税務基準額はいずれもゼロになります。これは、企業が(将来においてリース負債が返済されることで)リース負債に関してその帳簿価額と同額の損金算入を受け、リース資産の帳簿価額に関しては損金算入を受けないことを反映しています。この場合、当初認識時において、リース資産及びリース負債の帳簿価額と同額の一時差異が生じ、繰延税金を認識することになります。
ただし、いずれの立場にたったとしても、IAS第12号の相殺要件が満たされる限りにおいては、当初認識時における純額での一時差異はゼロになると考えられます。
結果として、改訂案においては現行の実務で採用されているアプローチ1~3のうち、アプローチ2に近い考え方を採っていると考えられます。

2. 繰延税金の当初認識に関する適用除外の範囲変更

当初認識時において同額の資産と負債(例えば、同額のリース資産とリース負債)を認識することとなるような取引には、当初認識に関する適用除外は適用しないとされています。この結果、当初認識時において繰延税金が認識されるだけでなく、その後の報告期間においても、将来減算一時差異と将来加算一時差異について繰延税金資産及び繰延税金負債を認識することとなります。

3. 繰延税金資産の回収可能性

企業はこれらの取引について、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内(回収可能性があると判断される範囲内)でのみ繰延税金資産を認識することを要求しており、その金額を超えない範囲内で将来加算一時差異に係る繰延税金負債を認識することとなります。
なお、IASBは本改訂案についてコメントを募集しており、コメント募集期限は19年11月14日です。

Ⅳ おわりに

本改訂案により、これらの取引に関する当初認識の適用除外の適用要否が明確化されたことで、従来の問題点が解消されることと考えられます。一方で、日本のみならず各国におけるリースや資産除去債務に関する租税法上の取り扱いの解釈の問題や、一部もしくは全額について繰延税金資産の回収可能性が認められない場合の繰延税金負債の測定の考え方については、コメント募集を受けて改めて審議がなされるものと考えられるため、今後も注視が必要であると考えます。

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