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情報センサー2019年11月号 Trend watcher

米国破産法下での案件処理と日本企業の入り方

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
Director 森田博士
12年半、米国系金融機関のRisk部門にて与信審査/ストラクチャリング/大型債権回収/自社向けM&Aを担当。その後7年間、会計系アドバイザリーファームにて日欧のクロスボーダー案件に従事し、2018年11月にEYに参画。米国およびドイツでの駐在業務経験を有す。

Ⅰ はじめに

近時の日本では好景気のため、破産・倒産という言葉を聞くことがあまりない状況ですが、1990年代初頭のバブル崩壊の頃は多くの日系企業が破産・倒産状況となり、会社更生法下にて外資系企業のような財務余力のある会社が日系企業を買収することが多くありました。他方、日系企業が米国破産法下にて企業を買収した例はあまり報告されていません。
近時、当社クライアントであるA社が米国Chapter11(以下、Chapter11)のプロセスの中でM社を買収するに至りました。非常に稀なケースでもあり、本稿では、何が成功要因だったのかを説明します。

Ⅱ プロセスの概略

Chapter11は米国破産法の中の処理方法の一つで、日本の会社更生法と民事再生法の中間的な存在といわれています。プロセスのサマリーを簡単に記載すると、以下のような流れになります(<図1>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)

日本のプロセスと比べ、手順は大きく変わりませんが、時間軸が圧倒的に早いということは着目すべき点です。日本の典型的な会社更生法の場合、通例1年半から2年かかり、素早い処理を目指すDIP型と言われるものでも1年近くかかるのが実態です。一方、Chapter11の場合はおよそ6カ月の期間が目途とされ、短いものでは1カ月で完了するものもあります。
申し立ては大きくは3種類に分類され、①Pre packaged (法定多数債権者から再建計画の賛成を事前にもらっている)②Pre negotiated(主要債権者と再建計画の合意が事前にある)③Free fall(申立後に再建計画を策定する通常型)があります。事前協議型があることも時間軸を短くする要因の一つではありますが、あくまでも再生であり、時間の経過が企業の価値を劣化させる要因であるため、法的処置ではあるもののより短い時間で対処することが好まれます。
363条セールプロセスは裁判所の管轄の下、会社、資産の売却プロセスが行われるもので、On Going Concernでスポンサー探し、または資産の一部売却を行い、債権者のへ返済原資を確保するための中心となります。
今回の事案は③のFree fall型であり、363条セールにてOn Going Concernでの売却を行ったものでした。

Ⅲ なぜ日系企業は入りにくいのか、そしてなぜ今回は入ることができたのか

<表1>はChapter11およびChapter7(清算型破綻処理)の届出の総数(当社調べ)です。ほぼ毎年同程度の件数があり、かつ日系企業に強みのあるセクターも数多く上がっている状況です。件数が相当数あるにもかかわらず、なぜ日系企業は米国での破産・倒産案件の買収を行わないのでしょうか。

(下の図をクリックすると拡大します)

そもそも、破産処理のプロセス自体が一般的に理解されておらず、不透明さを感じ、破産したのだから解消できない問題があるのではないかとの懸念から検討もしない会社が多いことが挙げられます。また、時間軸が圧倒的に短く、意思決定をその場で行うことが求められることも挙げられます。例えば、363条セールの競売はまさにその典型です。加えて、全てを理解し全容を把握した上で判断するという慎重さもプロセスへの参加を拒む要因です。
今回の場合、当社に日米にて破産案件に経験のあるアドバイザーがおり、サポートが可能であったこともありますが、M&Aの経験が少ない企業であっても、短期間でChapter11のプロセスの概略を把握し、経営層が事案の統括として現場に入り、その場で意思決定を行うことができたということが363条セールでの競合相手に競り勝てた要因といえます。前述のように、プロセスでは日米で大差はない状況で、また、破産会社がほぼ同業であり、A社が全ての情報を収集せずとも実勢の把握と判断が可能であったことも大きな理由です。

Ⅳ おわりに

他国の法制度であり、理解しがたい部分があるのは事実です。また、破産された企業の従業員のことを鑑みれば心苦しい部分もあり、精神的にも難しい局面は多くなります。他方、一部の破産理由を除けば良い技術、製品を持った企業であることも多く、適切な会社に素早く買収されるということが企業価値と従業員を結果的に守る形となり、その企業の持つ力が日系企業の成長の足掛かりとなることも多いと考えます。プロセス、事業、リスクの見極めができる案件であれば、日系企業でも十二分にChapter11のプロセスで企業買収ができると言って過言ではなく、検討すべき買収のケースであると考えます。


情報センサー 2019年11月号