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情報センサー2019年11月号 Innovative Business & Law

IT関連の外資規制強化 -ベンチャー投資にどのような影響があるか

EY弁護士法人 弁護士 小木 惇
国内法律事務所を経て、2018年4月にEY弁護士法人入所。会社法・M&Aのほか、データ保護規制についての助言も多く手掛ける。コンプライアンス・リスクマネジメントやコーポレートガバナンス、労働法にも造詣が深い。

Ⅰ はじめに

2019年5月27日、外国為替及び外国貿易法(以下、法)の告示が改正され、外資系企業による日本への参入規制が強化されました。本改正は、19年8月31日以降に行われる株式取得に適用されます。
従前も外国投資家が「対内直接投資等」または「特定取得」に当たる方法で一定の業種の日本企業の株式を取得する場合は、事前の届出が必要とされてきました。本改正により、事前届出対象に新たに15のIT・通信関連業種が追加され、従前から事前届出対象であった5の通信関連業種の範囲が拡充されました。
届出義務を負う外国投資家には、日本企業の株式を直接取得する外国法人やその日本子会社のみならず、組合形式のVCファンドの組合員である外国法人も含まれます。その結果、かかるVCファンドからの資金調達を予定するIT関連のスタートアップ企業なども、改正の影響を受けることとなります。

Ⅱ 対内直接投資等・特定取得と事前届出の原則

「対内直接投資等」とは、外国投資家による非上場株式の取得(法26条2項1号)や上場会社の10%以上の株式取得(同項3号)等を意味します。また「特定取得」とは、他の外国投資家から非上場株式を譲り受ける行為等を意味します(同条3項)。
そして、外国投資家が政府の指定する特定業種の国内企業について対内直接投資等や特定取得を行う場合、事前に財務大臣と事業所管大臣に届け出て、審査を受ける必要があります(法27条1項、28条1項)。投資を契機に、軍事転用につながる技術や製品の流出や安全保障に影響を及ぼす事態の発生を防ぐ趣旨です。
対象となる「外国投資家」とは、以下のいずれかを意味します(法26条1項)。

  1. 日本に住所または居所を有しない個人
  2. 外国法令に基づいて設立された、または外国に主たる事務所を有する法人その他の団体
  3. 上記①または②の者が直接・間接に50%以上の議決権を保有する日本法人
  4. 上記①の者が役員または代表者の過半数を占める日本法人

組合形式のファンドが株式を取得した場合、組合員が、ファンドを介して、ファンドへの出資割合に応じて株式を取得したものとみなされます。そのため、日本企業を中心に組成された国内VCファンドが出資する場合であっても、組合員に外国法人がいる場合、当該外国法人は日本企業の株式を取得したものとして、事前届出の対象となり得ます。
事前届出後、大臣による審査期間中は、原則として、対内直接投資等が禁止されます。審査期間は原則30日ですが、大臣が必要と認める場合は4カ月まで延長できます(法27条2項3項、28条2項3項)。
また、大臣は、審査の結果、安全保障上問題があると認めた場合、計画の見直しや中止を勧告することができます。勧告に応じない場合、計画の変更や中止を命じることもできます(法27条5項6項、28条5項6項)。過去には、08年に英国のファンドが日本の電力会社の株式買い増しを試みた際、大臣が、電力の安定供給への影響を懸念して中止を命じた例があります。
加えて、財務大臣と事業所管大臣は、無届で株式取得を行った外国投資家に、取得株式の処分その他必要な措置を命じることもできます(法29条)。無届や中止命令を無視した株式取得は、取得額の3倍または100万円の多い方を上限額とする罰金の対象になります(法70条22号、26号)。

Ⅲ 対象業種の追加・拡充

新たに対象となった15業種は、以下のとおりです。

1. 情報処理関連の機器・部品製造業種 10種

  1. 集積回路製造業
  2. 半導体メモリメディア製造業
  3. 光ディスク・磁気ディスク・磁気テープ製造業
  4. 電子回路実装基板製造業
  5. 有線通信機械器具製造業
  6. 携帯電話機・PHS電話機製造業
  7. 無線通信機械器具製造業
  8. 電子計算機製造業
  9. パーソナルコンピュータ製造業
  10. 外部記憶装置製造業

2. 情報処理関連のソフトウェア製造業種 3種

  1. 受託開発ソフトウェア業
  2. 組込みソフトウェア業
  3. パッケージソフトウェア業

3. 情報通信サービス関連業種 2種

  1. 有線放送電話業
  2. 情報処理サービス業

規制範囲が拡充された5業種は以下の情報通信サービス関連業種です。従前は、電気通信事業法で電気通信事業として登録すべき事業に該当する範囲に限られていましたが、今回、そのような制限はなくなりました。

  1. 地域電気通信業
  2. 長距離電気通信業
  3. その他の固定電気通信業
  4. 移動電気通信業
  5. インターネット利用サポート業

従来の規制は武器や航空機等の関連業種が中心でした。本改正により、ソフトウェアやロボット開発、データ処理サービスを行う企業や、携帯電話、パソコン、半導体メモリー等のメーカーなども、明確に規制対象となりました。
これらの業種は、米国が18年11月に新たな輸出規制の対象として例示した14の先端技術(Emerging Technologies)分野を参考にしたといわれています。

Ⅳ ベンチャー投資への影響

本改正により、外国投資家が、ソフトウェア開発やデータ処理サービスに係る日本企業に直接または間接に投資を行う場合、広範囲で事前届出が必要となります。
その結果、投資の検討段階から、事前届出の要否及び審査期間(原則30日)の確保が必要となります。
この点に関しては、VCファンドの組合員であれば、支配権等を有しない外国法人も届出義務を負うことになり、多くのITベンチャー企業が必要とする円滑な資金調達を阻害する、との懸念が示されています(日本経済新聞19年8月29日、日本ベンチャーキャピタル協会19年9月9日リリース等)。

Ⅴ 改正の背景と今後の動向

本改正は、サイバーセキュリティの重要性の高まりを受け、重要な技術の流出などにより日本の安全保障に重大な影響を及ぼす事態の発生防止を目的とすると説明されています。その背景には、欧米諸国が中国やその他の経済制裁対象国に対し、IT分野の技術流出の防止やサイバー対策で対内投資の規制を強化している中で、日本が規制の抜け穴になりかねない状況を是正する狙いがあると考えられています。
米国は18年8月に米国国防権限法2019を施行し、その中の米国輸出管理改革法(ECRA)による輸出規制の対象として14分野を例示しました。米国は、19年5月には中国の大手通信機器メーカーへの禁輸政策に踏み切っています。
欧州でも投資審査が強化されています。例えば仏国は、19年1月、半導体やロボティクス、サイバーセキュリティ、データセンター等を審査対象に加えました。
このような欧米との足並みを揃える目的で、日本政府は、今後も事前届出の対象となる対内直接投資等の範囲拡充を予定しているようです。今後の改正の動向について、継続してフォローしていくことが重要です。