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情報センサー2019年12月号 JBS

メキシコの電子税務コンプライアンス制度

メキシコシティ駐在員 公認会計士 林 憲太郎
2007年、当法人に入所。主に製造業、コンサルティング業等の国内企業の監査業務に携わった後、国内大手自動車メーカーに出向し、経理業務、IFRS導入支援に従事。16年よりEYメキシコシティ事務所に現地日系企業担当として駐在。現在、メキシコ日本商工会議所の税制調査委員会委員長を務めている。

レオン駐在員 公認会計士 小金澤淳一
2005年、当法人に入所。主に製造業、総合商社等のグローバル企業の監査業務に携わった後、国内大手企業のIFRS導入支援に複数従事。18年よりEYメキシコ レオン事務所に現地日系企業担当として駐在。メキシコにおいて自動車サプライヤーを中心とする日系企業に会計・税務関連のサービスを提供している。

Ⅰ はじめに

メキシコは、世界有数の市場である北米と経済成長の期待される南米の両方に近接する、地理的優位性を持つ国です。すでに自動車産業を中心に多くの日系企業が進出していますが、最近では北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が各国の首脳により署名されました。従来IMMEXと呼ばれる輸出促進を目的とした原材料・部品等の一時輸入を認める制度等、さまざまな投資インセンティブ制度が設けられており、今後も政府が積極的な支援をしていく見込みであり、輸出拠点としての魅力はますます高まっていくとみられています。一方で、メキシコでは各企業に電子税務コンプライアンスが義務付けられ、日本の制度に馴染(なじ)んだ駐在員には理解が難しい面もあります。本稿では、世界を見渡しても電子化が進んだ国の一つといえるメキシコの電子税務コンプライアンスについて紹介します。

Ⅱ 電子税務コンプライアンス概要

メキシコの税務当局は、全ての企業に対して、原則全ての取引にCFDI(Comprobante Fiscal Digital por Internet)と呼ばれる電子インボイスを発行することを義務付けており、そのデータは税務当局から提供される電子署名を付加すること、企業側はそのデータ(XML形式であり、印刷したCFDIやPDFは有効ではない)を保管しておくこと等、税法上にて詳細にその仕様が義務付けられています。また、発行対象となる取引は、財やサービスの提供により顧客に送付される、いわゆる請求書だけではなく、従業員へ支払う際に発行する給料明細(給料源泉税のサポート資料となる)等多岐にわたるため、留意が必要です。さらに、全てのデータは税務当局が導入しているシステムで管理されているため、発行日の調整、変更等が非常に難しく、記載ミスや期限内の発行および入手等ができていない場合、該当部分の損金不算入、仮払VATの控除不可、罰金の賦課等が生じることになります。また、2017年度から18年度にかけて税務当局が同システムのバージョンアップを行い(今後も随時追加対応が想定されます)、新たな要求事項として①顧客から受け取る代金回収時にその代金を受領したことを証明するCFDI制度②発行したCFDIのキャンセルを行う際には相手先の承認を72時間以内に電子的に受領するキャンセル制度等が導入されました。
一方、電子会計情報提出制度が15年1月より導入され、企業は月次試算表等のデータを所定の期限内に税務当局へ提出する必要があります(法人の会計情報提出時期は毎月の情報を翌々月の第3営業日)(<表1>参照)。なお、税務当局が公表した勘定科目一覧表は適用税率までを区分けする内容で千数百項目に分類されており、企業は自身に関連するものだけを抜き出して勘定科目マッピング表を作成することになります。使用科目等の変更があった場合には企業は勘定科目マッピング表を再提出することになります。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅲ 実務上の留意事項

税務当局は前述のように、各企業の発行したCFDIの情報、電子会計情報および年次の税務申告データを参照することができる状況にあります。昨今、税務当局は各企業が発行したCFDIの情報を累積し、その結果を各企業が提出した電子会計情報および年次の税務申告データと比較し、多額の差異が生じている企業に質問状を送付し、その差異の内容について説明を求める事例が多く見受けられます。以下、質問状が送付された場合の留意事項について記載します。
質問状は納税者メールボックスに送付されるため、納税者メールボックスを適時に確認することが重要です。
CFDIの発行は14年に、また、電子会計情報提出制度も15年より導入されているため、税務当局の質問状には複数年度の差異が含まれるケースがあります。そのため、もし対策を取る場合には、当年度のみならず過年度の税務コンプライアンスの情報も同時に分析すると効率的に分析することが可能です。
CFDIデータは大変膨大であり、メキシコに赴任している駐在員が年次税務申告データ・電子会計情報とCFDIの累積の差異を把握しているケースは多くはありません。最初に税務当局より質問状が送付された場合に、予想以上に多額の差異について問い合わせを受けるため初めは驚くかもしれませんが、差異は為替・前受金・前払金等多くの要因で生じる可能性があるため、十分な時間を取り、落ち着いて差異の内容を精査することが重要です。特に電子会計情報作成時に何らかの手作業を介する場合には、ミスの可能性にも留意する必要があります。なお、その際、会計事務所においてCFDIの情報を累積した結果と、その他の税務申告データとの整合性を確認するツールが提供されていますので、そのツールを利用して差異を分析することも有用です。
万が一、CFDIの情報の累積と、各企業が提出した税務申告データの差異が多額になってしまった場合には、税務当局の権限でCFDIの発行権限を一時的に差し止められるケースも見受けられます。メキシコでは税務上の益金・損金算入の要件としてCFDIが発行されていることが求められるケースがあります。そのため、税務当局によりCFDIの発行権限を差し止められてしまうと、税務上の損金要件を満たす証憑(ひょう)を顧客に発行することができなくなるなど、企業の事業活動に大きく影響を及ぼす事象になり得ます。このような質問状を企業が受信した場合、速やかに行動を取ることが必要です。

Ⅳ おわりに

メキシコでは、税法上、電子税務コンプライアンスを順守する必要があります。さらに、昨今、税務当局は各企業が提出する電子データを基に、各提出データ間の整合性を確認する傾向にあります。各企業は税務コンプライアンスで求められる要件を理解し、各提出データ間の整合性を取る対策、または適時に差異の有無を確認できるようにしておく等の対策が必要になってきていることに留意する必要があります。


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