刊行物
情報センサー2020年3月号 Trend watcher

海外関係会社のリスクの高まり -地政学的リスク等環境変化とともに

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
オペレーショナル トランザクション サービス 大胡晋一
国内、アジアおよび欧州において経営統合、組織再編、持株会社設立、地域統括設立など、数多くの経営統合業務、M&Aクロスボーダープロジェクトに従事。EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) パートナー。

Ⅰ はじめに

現在のグローバル環境を鑑みると、アジアでは米中の関税報復に伴うサプライチェーン見直しの動きや香港デモによる移動制限等、欧州では英国のEU離脱は先の総選挙で方向性は示されたものの、今後の対応によっては関税・輸出入手続きの煩雑化が想定されるなど、国・地域、政治・経済と多面的なリスクが高まっています。これらの環境の変化は事業環境の悪化につながり、海外関係会社の業績悪化のリスクが高まっていると言えます。

Ⅱ 共通する課題・状況

日系企業は、英国に生産拠点を有していたり、過去に買収した子会社があったり、またアジアに目を向けると中国の工場からアジアへの生産ラインの移管、香港に地域統括会社等を設置している企業もあり、多くの企業が国・地域のリスクと影響度を見極め、自社の海外関係会社に対し、適切な対応を取るという必要が出てきています。
現在、直面しているリスクは、①関税等の通商面②対ドル為替変動等による経済面③香港デモ等の政治面と多面的であり、顕在化すれば海外関係会社の現地マネジメントチームにとって、通常のリスク対応を超える可能性もあります。
一部の企業ではすでに、あまり業績の芳しくなかった海外子会社が急速に業績を悪化させており、グループ内再編やトップマネジメント入れ替えなど対応を余儀なくされています。
業績への影響が顕在化しすでに対応策を打っているところもありますが、まだ影響が表れていない会社はリスクが顕在化したときに、大きなインパクトを受ける可能性があります。特に、ローカルマネジメントに経営を任せている企業は、報告がタイムリーになされず、対応が後手になる懸念があります。

Ⅲ 留意すべき海外関係会社の特徴と対応方法

留意すべき海外関係会社の特徴は、次のような例が挙げられます。

  • 現地トップマネジメントの権威・権限が強く、強いリーダーシップで事業展開をしている会社。日本本社サイドからの問題や改善指摘にはやや遠慮がある。
  • 同一セクターではあるが、新たな事業分野であり、買収・出資後はあえて日本本社の関与を回避し、対象会社の自主性を重んじている会社。
  • 近年、M&Aにて取得した会社で、これまでの業績は順調だが、まだ内部(業務)監査を実施したことがない。基本的に当海外子会社からの報告を是としてモニタリングしている会社。
  • 事業(年度)計画の策定が前年比ベースで、積み上げや結果による検証をあまりせず、事業環境の状況に応じフレキシブルに対応しているとされる会社。

これらの会社例は共通して、次のリスクを内包していると言えます。

  • ローカルトップマネジメントの意思決定・判断に依拠することが多く、リスク判断に必要な専門的な助言や討議の環境がないため、対応が独善的になり影響が大きくなるリスクがある。
  • 内部監査を行っていないため、リスク管理体制、問題発生時の報告プロセスなど当海外関係会社の実態を日本本社・事業部が十分把握していない。問題発生時の日本サイドへの報告が遅れ、対応が遅延するリスクがある。
  • 環境変化へのフレキシブルな対応とは、問題発生後に受動的に対応しているだけとも言える。従前の方針や計画に固執せず変化に柔軟に対応する能力がない場合は、対応が後手に回り影響が大きくなるリスクがある。

事業環境が劇的に変化する状況下では、日本本社サイドの大きな決断や迅速な関与が必要です。年初に計画した事業計画の執行とモニタリングだけでは、対処すべきタイミングで手を打てないことが多くなります。現地マネジメントチームには、リスク判断に求められる専門性やリソースが不足しているのが通常であり、構造的に解決できない状況があります。

<A社の事例>
A社では以前買収した在欧州のX社について、年初に合意したビジネスプランに基づきモニタリングしてきたが、欧州の環境変化に十分対応できず、業績が好転しない状況。一方で、X社マネジメントの改善策は、現実的な施策選択に陥りやすい傾向が強かった。そこで外部専門家にリスクアセスメントという形でレビューを依頼。リスクを把握し、報告・対応する体制のアセスメントに加え、経営課題に対し適切な施策選択か、効果・難易度など優先順位に問題はないかなどもレビュー。その結果、予想される政策変更が実施されたり、想定される経済面のリスクが顕在化した場合、業績が著しく悪化し、X社だけでは容易に再生できない可能性が発見された。日本本社からトップダウンで体制を構築し対応することとなった。

リスクが相対的に高いと想定されるプロファイルを持つ海外関係会社に対しては、日本本社あるいは海外地域統括会社は、事業計画の策定・モニタリング、執行に係る稟議(りんぎ)決裁承認プロセスなどの管理プロセスを通じ、日ごろから一定の関与・対話を行っておく必要があります。
では、一定の関与・対話を継続的に行うにはどうしたらよいのでしょうか。
その一つとして、外部の情報、特にベンチマーク・デジタルツールを活用し、対象会社の属するセクター、競合他社の公表情報を基にベンチマークし、グループ全体・事業単位・個社単位で、パフォーマンスのギャップを定量的・定性的、かつ経年的に明らかにする分析・討議の機会を提案します。競合他社と比較し、業績を複数の指標から見て、パフォーマンスはどうなのか、現時点だけでなく、ここ数年の経過・足跡まで比較するとどうなのか、そのようになっている要因は何かを、海外関係会社へ提示、課題を提起します。また定性面からも、商品開発体制、リスク管理体制、あるいは税務面などの内部管理の能力についてもベンチマークし、業績改善・内部管理能力、成長のポテンシャル、解決までの想定期間・必要なリソースまで、具体的な情報を俎上(そじょう)に載せ、双方対話の土台とします。
事例として、B社の海外地域統括会社では、域内各社が策定する年度計画の内容が固定的、比較参照のベンチマークも限定的であり、その結果、改善策が保守的になっていました。一方、日本本社から数値目標中心のガイダンスでは、一方的かつアグレッシブと捉えられて、最終的に各社プランをそのまま受け入れるという状況になっていました。外部の情報・専門家を起用して、ベンチマークを定量的・定性的かつ経年的に分析、特に事業環境変化と対応能力の分析と認識に注力し、双方共通認識の上、事業計画の見直しを行いました。B社に見られる状況は、戦略的対話、計画見直しというアプローチを通じた海外関係会社のガバナンスの強化という経営課題の解決とも言えます。

Ⅳ おわりに

本稿では、地政学的リスクの高まり等から事業環境変化が起こり、海外関係会社の業績悪化のリスクが高まっている状況とその対応策についてお話ししました。どのような海外関係会社のリスクが相対的に高いか、リスクプロファイルのある会社に対しては、日ごろから一定の関与・対話が必要なことについて、事例を交えて紹介しました。本稿が参考になれば幸いです。