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IFRS第16号 リース期間及び附属設備の耐用年数

2020年3月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2020年4月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 竹下泰俊

当法人入所後、主として医薬品、化学品等の製造業、サービス業などの会計監査に携わる。2017年よりIFRSデスクに所属し、製造業などのIFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。主な著書(共著)に『国際会計の実務 International GAAP 2019』(第一法規)がある。

Ⅰ  はじめに

IFRS第16号「リース」(以下、IFRS16号)は、2019年1月1日以降開始する事業年度から強制適用されています。本基準を適用して決定するリース期間及びリース物件に関連して取得した附属設備とリース期間の関係について19年12月にIFRS解釈指針委員会(以下、解釈委員会)からアジェンダ決定が公表されましたので本稿で解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ  強制力がある期間

IFRS第16号18項では、リース期間を以下のように定義しています。

<借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の両方を加えた期間>

(a)リースを延長するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使することが合理的に確実である場合)

(b)リースを解約するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使しないことが合理的に確実である場合)

解約不能期間とは、借手と貸手の双方が多額のペナルティなく契約を解約することができない期間をいいます。リース期間の決定に当たって、契約に強制力がある期間を決定します。そして、解約不能期間を最も短い期間、強制力のある期間を最も長い期間とし、その範囲内で延長オプションや解約オプションの行使可能性を評価してリース期間を決定します。
<図1>は、借手に解約オプションはなく延長オプションがあるケースの、契約の強制力とリース期間の関係を示したものです。

図1 リース期間と契約における強制力の関係

リースの強制力がある期間を決定するに当たり、以下を考慮する必要があります。

①契約上の解約時の支払いのみでなく、より幅広い経済実態
例えば、借手か貸手のいずれかにリースを解約しない経済的インセンティブがあり、解約時には僅少ではないペナルティが発生する場合には、契約上解約できる日の後も強制力があります。

②借手、貸手のそれぞれが、相手方の承諾なしに多額ではないペナルティでリースを解約することができるか
リースに強制力がなくなるのは、相手方の承諾なしに多額ではないペナルティでリースを解約することができる場合のみです。借手貸手のいずれかのみが相手方の承諾なしに多額ではないペナルティでリースを解約する権利を有している場合には、当該契約は借手(または貸手)が契約を解約できる日の後も強制力があることになります。


以下で具体的な数値例を考えます。

  • ケース1

リースの契約期間が2年で、借手に延長オプションがなく、解約通知期間が3カ月というケースを考えます。このケースでは解約通知期間より短い期間で借手が解約する場合には多額のペナルティが借手に発生するため、3カ月が解約不能期間となります。リース資産を改良して建設した設備の投資回収を考慮した結果解約通知期間の後も契約に強制力があると結論付ける場合、経済的インセンティブを生じさせる全ての関連性のある事実や状況を考慮して、借手がリースの解約オプション(このケースでは3カ月後から2年までに解約オプションがあると考えます)を行使しないことが合理的に確実であるか否かを評価します。

  • ケース2

リースの契約期間が2年で、解約不能期間が6カ月、2年経過後に1年ごとの延長オプションを行使する権利が2回分付与されているケースを考えます。経済的事由により、仮に2年の契約期間経過後に解約すると僅少ではない損失が発生する場合、2年経過後も契約に強制力があると結論付け、<ケース1>と同様、経済的インセンティブを生じさせる全ての関連性のある事実や状況を考慮して、延長オプションを行使することが合理的に確実であるか否かを評価します。

<ケース1>、<ケース2>から分かるように、リース期間を決定する場合はまず強制力のある期間を理解することが重要なポイントとなります。

Ⅲ 移設不能な間仕切り等の附属設備の耐用年数

リースで不動産を借りる際、移設不能な間仕切り等の附属設備を建設することがあります。このような資産の耐用年数を決定する際には、IAS第16号を適用します。IAS第16号57項では資産の耐用年数は企業にとっての資産の期待効用の観点から定義され、資産の耐用年数が経済的耐用年数よりも短い場合があるとされています。関連するリースのリース期間が当該附属設備の経済的耐用年数よりも短い場合には、当該附属設備をリース期間よりも長い期間にわたって使用することを見込んでいるかどうかを考慮します。そのような見込みがない場合には、IAS第16号を適用して、移設不能な間仕切り等の附属設備の耐用年数はリース期間と通常同じになります。

Ⅳ 移設不能な間仕切り等の附属設備の耐用年数がリース期間に及ぼす影響

借手がリースを延長することが合理的に確実であるかどうかを評価する際には、IFRS第16号B37項を適用して、借手にとっての経済的インセンティブを生じさせる全ての関連する事実及び状況を考慮します。さらに、リースの強制力がある期間を決定する際には、契約の経済実態を考慮します。その際には、移設不能な間仕切り等の附属設備の廃棄又は解体費用も含まれます。つまり、契約が解約できる日の後もこのような移設不能な間仕切り等の附属設備を使用する見込みがある場合には、当該資産があることで、企業にとってリース解約時に僅少とはいえないペナルティを発生させる可能性があります。従って、IFRS第16号B34項を適用する際には、少なくともこの移設不能な資産の期待効用期間について契約の強制力があるかどうかを考慮する必要があります。
以下で具体的な例を考えます。

  • ケース1

移設不能な間仕切り等の附属設備の経済的耐用年数が8年で、リース開始時においてリース期間は5年とします。当該設備を5年以上は使用しないと見込んでいる場合、移設不能な間仕切り等の附属設備の耐用年数は通常5年となります。
なお、例えば、同じリース物件内で使用されているリースに関連していない附属設備以外の資産は、リース期間に関係なく耐用年数が決定されることになります。

  • ケース2

<ケース1>と同じような前提ですが、<ケース2>では間仕切りが移設可能である点が異なります。本ケースでは資産が移設可能なため、その耐用年数はリース期間の影響を受けることはありません。

Ⅴ おわりに

解釈委員会が公表したアジェンダ決定には発効日が定められていませんが、本決定の結果によって、会社が会計方針を変更する必要があると判断する場合があります。会計方針を変更するための十分な時間は会社ごとに異なり、事実と状況に左右されますが、アジェンダ決定が発効された場合、できる限り迅速にアジェンダ決定を適用することが望まれます。

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