情報センサー

デンマークGAAPとIFRSの比較

2020年3月31日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2020年4月号 JBS

コペンハーゲン駐在員 公認会計士 深町 桂

約5年間監査業務に従事した後、FAAS事業部に異動し、国内会社向けのIFRS導入業務や翻訳業務、外資系日本子会社向けのGAAPコンバージョン業務などに従事。2019年1月よりEYコペンハーゲン事務所に出向し、ローカルGAAPからIFRSへのコンバージョン業務やIFRSに関するオン・コールサービスを提供している。

Ⅰ  はじめに

デンマークの外務省はインベスト・イン・デンマーク(デンマーク外務省投資部)という投資支援機関を設置し、海外企業の誘致を積極的に行っています。デンマークの上場会社はIFRSを適用することが求められますが、非上場会社はデンマークGAAPかIFRSを選択適用することができます。
本稿では、IFRS適用会社がデンマークGAAP適用会社を取得したケースを想定し、グループ内で会計方針を統一する際に論点となり得るデンマークGAAPとIFRSの主要な差異について紹介します。

Ⅱ  主要な差異

1. 一般的な事項

基本的に、デンマークGAAPはIFRSと連携しています。さらに、金融商品や関連当事者の開示、セグメント情報、公正価値測定といった特定の領域については、IFRSをそのまま適用することができます。
アニュアル・レポートは、株主総会での承認後、会計年度末から5カ月以内に、遅滞なくDanish Business Authority(デンマーク商務庁)に提出しなければなりません。ただし、上場会社および国有企業は、会計年度末から4カ月以内にアニュアル・レポートを提出する必要があります。
監査については、2期連続で次のうち二つを満たすと、監査が必要になります。

  • 総資産額が400万デンマーク・クローネを超える
  • 売上高が800万デンマーク・クローネを超える
  • 平均従業員数が12人を超える

非上場会社でも、virkというウェブサイトでアニュアル・レポートを閲覧できます。

2. 財務諸表

デンマークGAAPでは貸借対照表(BS)および損益計算書(PL)は必要ですが、包括利益計算書は不要です。class Cおよびclass D(<表1>参照)の会社については資本の変動計算書およびキャッシュ・フロー(CF)計算書も必要ですが、class Bの会社に該当する場合は資本の変動計算書およびCF計算書の開示義務はありません。

表1 デンマーク財務諸表法(筆者訳)における会社分類

その他包括利益を勘定科目として使うことができないため、IFRSではその他包括利益に認識される次の項目は、デンマークGAAPでは資本(利益剰余金や他の剰余金を含む)に直接認識されます。

  • キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ手段の公正価値変動
  • 在外営業活動体の換算差額
  • 確定給付制度における数理計算上の差異

 

デンマークGAAP特有の科目であるReserve for development costs (開発費剰余金(筆者訳))は資本の変動計算書において個別の項目として期中の増減を表示する必要があります。開発費剰余金とは、利益処分の際に振り替えられた積立金であり、class Cおよびclass Dの会社はBSに計上されている開発費を上限に資本に認識する必要があります。

3. 連結

デンマークGAAPでは、旧基準のIAS27「連結及び個別財務諸表」によって支配の有無を判断しているため、IFRSとは連結の範囲が異なる場合があります。
また、必要な情報を合理的な期間内に入手できない場合や支配が一時的な場合等、一定の条件を満たす場合は、連結から除外することができます。
さらに、IFRSとは異なり、のれんを償却する必要があります。また、関連会社に対し持分法を適用している場合は、のれん相当額を償却する必要があります。

4. 企業結合

デンマークGAAPでは、小規模でかつ複雑ではない企業結合の場合はIFRS3「企業結合」を適用する必要はありません。例えば、財務諸表に重要な影響を与えない場合は、全ての識別可能な無形資産を個別に認識する必要はありません。
子会社の支配喪失時の会計処理として、IFRSでは子会社に対する残余持分を再度取得したと考えて再評価することにより損益が発生しますが、デンマークGAAPでは残余持分は簿価で引き継がれるため、残余持分からは損益は発生しません。

5. 無形資産および有形固定資産

デンマークGAAPでは、のれんおよび開発費の耐用年数を見積もることができない場合は10年で償却します。また、資産除去債務の認識に関して明示的な要件はありません。
借入コストの資産化は、IFRSでは全ての適格資産について必要となりますが、デンマークGAAPでは強制ではありません。
有形固定資産の取得原価の範囲について、IFRSでは通常、一般管理費は取得原価に含めず資産の取得に直接起因する費用を含めますが、デンマークGAAPでは間接費を取得原価に含めることができます。

6. 金融商品

デンマークGAAPは基本的に旧基準のIAS39「金融商品:認識及び測定」に沿っていますが、以下について留意が必要です。

  • IAS39の売却可能金融資産の代わりに、満期保有目的またはトレーディング目的の区分がある。
  • 関連会社および子会社以外の株式は公正価値で認識され、公正価値の変動はPLに認識されるが、非上場の株式は原価で測定できる。
  • IAS32「金融商品:表示」、IFRS9「金融商品」、IFRS7「金融商品:開示」およびIFRS13「公正価値測定」を適用できる。

7. その他投資資産

IFRSでは、コモディティー・ブローカー/トレーダーの保有する棚卸資産は販売費用控除後の公正価値で測定され、販売費用控除後公正価値の変動は損益に認識されます。一方、デンマークGAAPでは金属や石油等のその他投資資産は取得原価または公正価値で測定されますが、公正価値の変動はPLではなく資本に直接認識されます。

8. 収益

デンマークGAAPは、旧基準のIAS18「収益」およびIAS11「工事契約」に沿っていますが、IFRS15「顧客との契約から生じる収益」を適用することができます。また、class Bの会社は、真実かつ公正な表示を妨げない限り、工事契約に関して進行基準を適用しないことができます。

9. 売却目的で保有する非流動資産

デンマークGAAPでは、売却目的で保有する非流動資産の減価償却は継続して行われます。

10. リース

デンマークGAAPは、旧基準のIAS17「リース」に沿っていますが、IFRS16「リース」を適用することができます。class Bの会社は、真実かつ公正な表示を妨げない限り、ファイナンス・リースをBSに認識しないことができますが、class Bの会社がIFRS16を適用した場合はこの例外は認められません。

Ⅲ おわりに

デンマークGAAPはIFRSの旧基準を参照していることがあるため、注意が必要です。また、非上場会社はIFRSを適用できますが、IFRSを適用すると開示のボリュームが増えるため、IFRSに比べてシンプルなデンマークGAAPを採用する場合があります。

※デンマーク商務庁と共同で開発された公共のデータベース
datacvr.virk.dk/data/

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