情報センサー

2020年3月決算会社での有価証券報告書最終チェック

2020年4月30日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2020年5月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 加藤圭介

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?収益認識の実務-影響と対応-』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(中央経済社)、『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがあるほか、雑誌への寄稿も行っている。

Ⅰ  はじめに

本稿では、2020年3月期の有価証券報告書の作成に当たり、開示規則や会計基準等の主な改正による開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の審査項目を踏まえた留意事項を解説します。文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
なお、20年4月14日付で金融庁が公表した「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」において、有価証券報告書等の提出期限について、一律に9月末まで延長される旨が示されています。詳細については、金融庁のウェブサイトをご確認ください。

Ⅱ 開示府令の改正等

1. 開示府令の改正

19年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)の改正が公布・施行されています。これは、18年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における「財務情報及び記述情報の充実」「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に関する提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正を行うものです。また19年3月19日に金融庁から「記述情報の開示に関する原則」及び「記述情報の開示の好事例集」(以下、好事例集)が公表されています。なお、これらの公表後、好事例集が更新されているとともに(最終更新日19年12月20日)、20年3月6日に「記述情報の開示の充実に向けた研修会」における説明資料が公表されています。開示府令の改正については<表1>のとおり、項目によって適用時期が異なり、19年3月期の有価証券報告書からすでに原則適用されている項目もありますが、本稿では、20年3月期から原則適用となる改正項目について解説します。

図1 開示布令の改正内容と適用時期

(1) 事業の状況

① 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

経営方針等の内容として、経営環境についての経営者の認識の説明を含め、主な事業の内容と関連付けて記載することが求められることになりました。また、優先的に対処すべき事業上・財務上の課題について、その内容・対処方針等を経営方針等と関連付けて記載することも求められています。好事例集では、経営者が認識している課題とその対応について端的に記載された事例などが紹介されています。

② 事業等のリスク

「主要なリスク」について、顕在化する可能性の程度や時期、経営成績等の状況に与える影響の内容、対応策を記載することが求められることになりました。また、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して記載することになります。
また、記述情報の開示に関する原則では、事業等のリスクは、翌期以降の事業運営に影響を及ぼし得るリスクのうち、経営者の視点から重要と考えるものをその重要度に応じて説明するものとされています。一般的なリスクを羅列するのではなく、経営成績等の状況の異常な変動等、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められます。好事例集では、リスク項目とその対応策を分かりやすく具体的に記載した事例などが紹介されていますが、当期においては、新型コロナウイルス感染症の影響について主要なリスクとして識別する企業が多いと考えられます(<事例1>参照)。

事例1((株)フジクラ 20年3月期第3四半期四半期報告書【事業等のリスク】より抜粋)

事業等のリスクの記載は、将来の不確実な全ての事象に関する正確な予想の提供を求めるものではないとされている一方、提出日現在において、経営者が認識している主要なリスクについてあえて記載をしなかった場合、虚偽記載に該当することがあり得ることに留意が必要です(19年1月31日に公表された「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、パブコメ回答)No.16)。

③ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

経営成績等の状況に関して、経営者による認識・分析・検討内容を、経営方針等の内容のほか、他の項目の内容と関連付けて記載することが求められることになりました。好事例集では、財務情報に加えてその理解に有用な指標の前期比較情報を記載した事例などが紹介されています。また、キャッシュ・フローの状況の分析等の記載について、資金調達の方法・資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載することが求められます。さらに、会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、「経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報の記載が求められます。好事例集では、見積りの仮定や実績との乖離(かいり)の程度が具体的に記載された事例などが紹介されています。

(2) 提出会社の状況 コーポレート・ガバナンスの状況等

① 監査の状況

1) 監査役監査の状況(監査役会等の活動状況)

今回の改正により、最近事業年度における監査役会等の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況、常勤の監査役の活動等)の開示が求められています。好事例集では、監査役会の重点監査項目や主な決議内容、監査役の活動内容を具体的に記載した事例などが紹介されています。

2) 会計監査の状況(監査法人の継続監査期間)

監査公認会計士等が監査法人である場合には、継続監査期間の開示が求められることになりました。継続監査期間の算定方法及び開示方法については、開示府令において明示的に定められておらず、パブコメ回答のNo.36に記載された内容に沿った開示を行うことになると考えられます(<表2>参照)。

表2 監査法人の継続監査期間(バブコメ回答No.36要旨)

3) 監査報酬の内容等(ネットワークベースの報酬)

従来、監査法人のネットワークベースの報酬は、連結会社の重要な報酬の例として挙げられていましたが、今回の改正により開示が要求される項目となり、監査証明業務と非監査業務に区分して記載することになります。また、この改正により連結子会社が同一ネットワーク以外の監査法人に支払った重要な報酬について開示が必要となります。これらの項目については、19年3月期は従前規定によることも認められていましたが、20年3月期からは全ての企業において改正後の開示が必要となります。

2. IFRS任意適用会社における改正点

20年3月6日付で公布・施行された改正開示府令では、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、任意適用企業の開示負担の軽減等を図ることを目的とした改正が行われ、20年3月期の有価証券報告書から適用されます。改正の具体的な内容として、これまで「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」において、IFRSと日本基準との主要項目の差異に関する事項(概算額等)の継続的な開示が求められていたものが、IFRS適用初年度のみ開示とされ、翌年度以降は不要となります(開示府令第3号様式記載上の注意(12)、第2号様式記載上の注意(32))。

Ⅲ 会計基準等の主な改正による開示への影響

20年3月期から原則適用される、又は早期適用が可能となる主な会計基準の改正等が開示に与える影響について解説します。なお、これらの会計処理等の詳細については、本誌20年4月号の「2020年3月期決算上の留意事項」をご参照ください。

1. 実務対応報告18号の改正による開示への影響

(1) 18年改正実務対応報告18号(金融商品関係)

在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合、売却損益及び減損損失の累計額がその他の包括利益累計額に表示されますが、18年9月に行われた実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告18号)等の改正により、これらの組替調整が連結財務諸表作成に当たり修正すべき項目として追加されました。当該改正は20年3月期から原則適用されています。
当該改正の影響が重要な場合には会計方針の変更の注記が必要です。また、連結上の修正により発生した資本性金融商品の組替調整額についても、連結包括利益計算書関係の注記において、その他の包括利益に係る組替調整額に含めて開示することに留意が必要です。

(2) 19年改正実務対応報告18号(リース関係)

IFRS第16号「リース」が19年1月1日以後開始する事業年度から、米国会計基準のASC842「リース」が18年12月15日より後に開始する事業年度(非公開企業は20年12月15日より後に開始する事業年度)から適用されますが、IFRS第16号等における会計処理を修正項目としないことを内容とする実務対応報告18号の改正が19年6月28日に公表され、同日以後適用されています。
連結子会社がIFRS第16号等を適用したときの連結財務諸表の開示については、日本基準上の明文規定がないため、各企業において従来の開示方法との整合性や重要性などを踏まえ、適切に検討する必要があると考えられます。
また、連結子会社におけるIFRS第16号等の適用による影響が連結財務諸表上も重要性がある場合には、会計基準等の改正等による会計方針の変更に準じた注記が必要となることにも留意が必要です。

2. 時価算定会計基準の早期適用による開示への影響

19年7月4日に公表された企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下、時価算定会計基準)は、21年4月1日以後開始する事業年度から原則適用されますが、20年3月期からの早期適用も認められます。
時価算定会計基準の適用により、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記が次のように求められます。

【時価算定会計基準注記 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項】

<全体的な項目>

  • 時価のレベルごとの合計額

<レベル2及びレベル3の時価に関する項目>

  • 時価の算定に用いた評価技法とインプットの説明
  • 時価の算定に用いた評価技法又はその適用を変更した場合、その旨及び変更の理由

<レベル3の時価に関する項目>

  • 重要な観察できないインプットに関する定量的情報
  • 期首残高から期末残高への調整表(以下に区分)
  • 当期の損益に計上した額及び科目
  • 当期のその他の包括利益に計上した額及び科目
  • 購入、売却、発行及び決済のそれぞれの額(純額表示可)
  • レベル3の時価への振替額及び振替の理由
  • レベル3の時価からの振替額及び振替の理由
  • 企業の評価プロセスの説明
  • 重要な観察できないインプットを変化させた場合に時価が著しく変動するときの時価に対する影響に関する説明

ただし、重要性が乏しいものは注記を省略することができ、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表においては記載することは要しないとされています。また、時価算定会計基準の適用初年度においては比較年度に係る当該注記は要しないとされています(連結財務諸表規則15条の5の2、財務諸表等規則8条の6の2、19年改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」5-2項、7-4項)。

3. 未適用の会計基準等

公表済みかつ未適用の会計基準がある場合には、重要性が乏しいものを除き会計基準の名称及びその概要、適用予定日、財務諸表に与える影響に関する事項を注記することとされています(財務諸表等規則第8条3の3、連結財務諸表規則第14条の4)。当期末においては、時価算定会計基準等について、早期適用した場合や重要性が乏しい場合を除き注記が必要となります。また、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」及び改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」について、適用までの間は、会計基準の名称及び概要及び適用予定日に関する記述を注記することが適切と考えられます。

Ⅳ 金融庁による有報レビューを踏まえた留意事項

有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています。20年度の有報レビューの概要は<表3>のとおりです。

表3 20年度有報レビューの概要

また、過去の有報レビューの重点テーマ項目は次のとおりです。

重点テーマ項目

19年度の有報レビュー結果を踏まえた留意事項のうち主なものは以下のとおりです。

  • 「役員の報酬等」や「株式等の保有状況」について、具体性のある開示を行っているか。また、法令が求める最低限度を満たすのみでなく、投資家等が必要とする十分な開示を行っているか
  • 税効果会計の注記において、一定の重要性があると考えられる項目についても注記を省略していないか
  • 関連当事者に関する開示について、重要性の判断基準を超える取引や一般の取引と同様であることが明白でない取引、ストック・オプションの権利行使による株式発行の記載や役員等が代表者を務めている会社との取引等が漏れていないか
  • ストック・オプション等関係注記における単価情報に異なる単位(個、株)が混在し、不明瞭な記載となっていないか
  • 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引を行っている場合、1株当たり情報や株主資本等変動計算書注記において信託に残存する自社の株式に関連する注記等を記載しているか

関連資料を表示

  • 「情報センサー2020年5月号 会計情報レポート」をダウンロード

情報センサー2020年5月号

情報センサー

2020年5月号

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。

 

詳しく見る