情報センサー

総勘定元帳および補助元帳を利用したデータアナリティクス

2020年4月30日 PDF

情報センサー2020年5月号 Digital Audit

品質管理本部 アシュアランステクノロジー部
公認会計士 Frank Baz

2015年にEYオランダに入所し、18年からEY Japanに参画。自動車および運輸、専門企業、サービスおよびテクノロジー業界の上場企業において、従来の監査からデータに基づく監査への変換に従事。仕訳の異常検知システムであるEY Helix GLADのグローバルな運用に従事し、Digital Auditの推進に取り組んでいる。


品質管理本部 アシュアランステクノロジー部
公認会計士 小島久人

2010年、当法人入所。製造業、農業などの上場会社および金融機関の監査に従事。19年より仕訳の異常検知システムEY Helix GLADの開発・運用に従事し、Digital Auditの推進に取り組んでいる。

Ⅰ  はじめに

本誌2020年2月号から3号にわたり仕訳データによる高解像度財務分析手法や小売業・請負業での不正に対して高解像度財務分析手法がどう活用できるのかを紹介してきました。今号では少し目線を変えて、当法人の監査において、仕訳データ(総勘定元帳)だけではなく補助元帳や会計情報以外の情報を有する補助簿に対してデータアナリティクスを行うツールを幾つか紹介します。
当法人ではプロフェッショナルがこれまでの会計監査で培った知見・経験に、さまざまなデータを用いたデータアナリティクスを融合させることで、監査業務のリスク対応力を向上させています。

Ⅱ EY Helix Library

仕訳データの基礎となる総勘定元帳は、一般的に、会計数値に直接影響を及ぼす仕訳日付、勘定科目および金額といった情報だけはなく、取引先や部門等の会計数値に付随する情報を持っています。しかし、上場会社のような規模の大きい会社の場合、ビジネスを遂行するための必要な情報を総勘定元帳のみで管理することは効率性等の観点から現実的ではないため、会社は総勘定元帳を補助する補助元帳(補助簿も含む)を利用しています。ほとんどの会社で総勘定元帳と補助元帳は、情報システムによりデータが連携されているのが通常です。補助元帳は、取引件数の多い勘定科目ごとに作成されており、ビジネスの遂行に合わせて総勘定元帳より広範囲の情報を持っています。この情報を用いることで、詳細なデータアナリティクスが可能となります。
当法人の監査では、会計数値に最も近い総勘定元帳を分析対象とするEY Helix General Ledger Analyzer(以下、GLA)を使用してデータアナリティクスを行うことを出発点としています。その上で、総勘定元帳より詳細な情報を有している補助元帳を分析対象とするEY Helix Sub-ledger Analyzer(以下、SLA)を使用することになります。補助元帳の種類により、SLAは幾つかの種類が開発されています。EYグローバルから提供されているEY Helix Libraryには主要なものとして以下のものがあり、この他金融や製造業など特定の業種に特化した分析ツールがあります。

  • General Ledger Analyzer:総勘定元帳分析ツール
  • Trade Receivables and Trade Payables Analyzer:売掛金・買掛金分析ツール
  • Inventory Analyzer:棚卸資産分析ツール
  • Payroll Analyzer:人件費分析ツール
  • Cash Analyzer:現金預金分析ツール
  • Property,Plant&Equipment Analyzer:有形固定資産分析ツール

次の章からGLAおよび三つのSLAについて具体的に紹介します。

Ⅲ EY Helix General Ledger Analyzer(GLA)

総勘定元帳のデータを利用するGLAは、前述のとおり、会計情報およびそれに付随する情報を利用してデータアナリティクスを実施することになります。GLAのデータアナリティクスの機能を大きく分けると、データの全体的な分析を行う全般分析(Process analysis)と勘定科目や損益等の分析を行う個別分析(Account and journal entry analysis)に分けることができます。
まずGLAの全般分析の機能の一つとして、勘定科目をプロセスごとに細分化し分析することができます。例えば、プロセスとして部門を設定することにより、勘定科目がどの部門で発生しているか、また計上されるべきでない部門から発生していないかどうかについても、確認することができます。部門以外に仕訳入力者、仕訳計上日および仕訳入力日等のパラメーターを使用した分析も可能になっています。GLAの全般分析の結果は、主に会社のビジネスと会計数値の関連性を詳細に把握することができ、監査計画を立案する際に利用できます。
次に個別分析の機能の一つとして、勘定科目の相関分析があります。<図1>は、売上高、売掛金、現金預金の三つの勘定科目の相関分析を実施した結果になります。通常、①売上高は売掛金と同じタイミングで計上され、②売掛金は現金預金として回収されます。

図1 売上高、売掛金、現金預金の相関分析

① 売掛金  ×× / 売上高  ××
② 現金預金 ×× / 売掛金  ××

しかし、実際の会社では③売上高の対象が前受金からの振替など売掛金でない場合や、④売掛金が買掛金と相殺される場合等、さまざまなパターンが存在します。

③ 前受金  ×× / 売上高  ××
④ 買掛金  ×× / 売掛金  ××

前述のような販売活動に関する勘定分析を一つ一つ仕訳より把握することは、多大な時間を要します。GLAの勘定科目の相関分析を使用することで、勘定分析の主要な流れや異常な仕訳パターンの発見につながる例外処理を容易に把握することができます。また、仕入高、買掛金および現金預金を選択することで、購買活動に関する勘定科目の相関分析を実施できます。
GLAは全般分析や個別分析を勘定科目ごとに展開することができ、汎用(はんよう)性の高い分析ツールであることが特徴です。

Ⅳ EY Helix Trade Receivables and Trade Payables Analyzer

EY Helix Trade Receivables/Trade Payables Analyzersは、売掛金補助元帳および買掛金補助元帳のデータを使用するデータアナリティクスツールになります。得意先および仕入先のマスタデータと関連付けることにより、ビジネスおよび業務プロセスを理解し、監査におけるリスクの高い領域を識別することができます。ここでは、監査上、重要な勘定科目の一つである売上高の相手勘定となる売掛金を対象としているため、EY Helix Trade Receivablesの幾つかの機能を紹介します。
まず、販売条件に関して、売掛金補助元帳および得意先マスタデータを分析することにより、得意先の標準的な支払条件、支払条件からの乖離(かいり)等を確認できます。例えば、得意先マスタデータには、得意先の締日、得意先の支払日の情報があります。これらの情報と売掛金補助元帳の売上計上日および売掛金回収予定日から算定される売掛金回収予定日数とを比較することで、マスタデータの支払条件と乖離している売掛金を自動的に抽出することができます。EY Helix Trade Receivablesは、得意先マスタデータと売掛金補助元帳の情報を組み合わせた分析を実施する機能が多く組み込まれており、分析結果を利用することで、販売条件の理解を詳細にすることができます。
次に、EY Helix Trade Receivablesは、<図2>の売掛金および得意先のダッシュボードにより、顧客基盤、主要な顧客残高および主要な顧客に対する依存度、期末時点の未回収残高の年齢調べ、貸方残高となっている顧客等を分析することができ、売掛金および得意先に関する有用な情報を得ることができます。例えば、主要な顧客に対する依存度や顧客の推移を分析した結果は、上位何社が売上の大部分を占めるかどうかを確認することが容易であり、新規の顧客の発生や前期より売掛金の変動がないといった顧客ごとの変化をより理解しやすくなります。

図2 売掛金および得意先のダッシュボード

最後に、売掛金補助元帳の取引(計上)区分ごとに分析を行うことで、高リスクな取引を抽出することができます。売掛金補助元帳の取引を請求、修正、現金、その他等に区分することにより、売掛金をグルーピングします。グルーピングされた売掛金の分析結果は、さまざまな気づきを与えてくれる可能性があります。例えば、売掛金の消し込みができない多額の入金がある場合や、多額の修正が行われている場合は、リスクの高い取引と判断できます。

Ⅴ EY Helix Inventory Analyzer

EY Helix Inventory Analyzerは、棚卸資産補助元帳のデータに加え、在庫の引当一覧、在庫の受払(販売および購買)、および移動履歴等の情報を使用するデータアナリティクスツールです。
前述のⅢで紹介したGLAは、総勘定元帳のデータを利用し、棚卸資産、買掛金、および売上原価の分析ができます。GLAの分析結果により異常な変動が発見された場合、GLAの基礎となる総勘定元帳のデータは棚卸資産の数量や単価等の詳細な情報を持っていないことが多いため、GLAのみでは詳細な分析ができないことがあります。そういった場合、棚卸資産の情報をさらに細かい精度で分析することができるEY Helix Inventory Analyzerを利用します(<図3>参照)。例えば、商品・製品・仕掛品・原材料の品目ごとの単価の推移や、品目ごとの受払等に関する分析結果を容易に確認することができ、棚卸資産の金額の増減の理由を細かく把握できます。

図3 棚卸資産分析のダッシュボード

棚卸資産の論点の一つとして、棚卸資産の評価、つまり棚卸資産の貸借対照表価額における単価を正しく処理する必要があります。例えば、棚卸資産の評価に関して、通常の販売目的で保有する棚卸資産は取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする必要があります。また、滞留している在庫の有無についても把握する必要があります。こういった場合にEY Helix Inventory Analyzerでは販売と購買情報から正味実現可能価額の推定値を計算し、この推定値と棚卸資産の単価を比較することができます。また、棚卸資産の回転率の分析結果を用いることで棚卸資産の回転率が悪い品目を特定し、販売の数量と比較にならないほど多くの数量を製造または仕入れている場合など、滞留している在庫を把握することも可能です。

Ⅵ Cash Analyzer

Cash Analyzerは、銀行から提供される入出金明細を利用するデータアナリティクスツールです。Cash Analyzerにより総勘定元帳に記録されている預金に関する仕訳を入出金明細と紐付け、総勘定元帳の預金に関する仕訳の網羅性および正確性を確認することができます(<図4>参照)。

図4 銀行取引明細書分析

Ⅶ おわりに

今号では、当法人で使用している総勘定元帳や補助元帳を使用したデータアナリティクスツールの概要を紹介しました。こういったツールを使用することで、今まで以上に高品質な監査を提供できると考えています。

  • データアナリティクスにより財務データを理解することで、ビジネスをより深く理解し、重要な虚偽表示リスクを識別できるようになります。
  • 監査を実施している中で気付いた点を生かし、クライアントの業務プロセスと統制に関してインサイトを提供できます。

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