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IBOR改革(第2段階)

2020年4月30日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2020年5月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 北出旭彦

当法人入所後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカル・コンサルテーション研修業務、執筆活動などに従事している。

Ⅰ  はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は、2018年12月に銀行間調達金利指標(以下、IBOR)改革が財務報告に与える影響を評価するためのプロジェクトを追加しました。本プロジェクトは2段階に分けて実施されています。

  • 第1段階では、既存の金利指標が実質的に無リスクの代替的金利(以下、RFR)に置き換わる前の期間における財務報告に影響を与える論点を取り扱う(19年9月に基準の改訂を公表済み)。
  • 第2段階では、既存の金利指標がRFRに置き換わるときに財務報告に影響を与える可能性のある論点に焦点を当てる(19年10月から議論を開始)。

IASBは19年9月、「金利指標改革―IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の改訂」を公表し、第1段階のプロジェクトを完了しました。また、第2段階のプロジェクトについても議論を進め、暫定決定に至っています。
本稿では、第2段階の議論における暫定決定の主な内容について解説します。第1段階の改訂の詳細、及び第2段階の暫定決定のうち、本稿未掲載の内容については、当法人ウェブサイトにおいて解説資料を公開していますので、必要に応じてご覧ください。なお、本稿執筆時点(20年3月13日)ではまだ公表されていませんが、IASBは4月に公開草案を公表する予定です。また、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 分類と測定

はじめに、「金融商品の条件変更」に関して、金融商品の契約条件自体が変更される場合だけでなく、契約上のキャッシュ・フロー(金利)の設定に用いられる基礎となる指標が変更される場合も条件変更に該当する点を明確化するために、基準を改訂することを決定しました。
次に、IFRSは、条件変更が当初の条件と実質的に異なる条件に変更される場合は、認識の中止として取り扱うことを求めています。IBOR改革による条件変更についても実質的であるかどうかの判断が必要になります。この、実質的であるかどうかの判断としては定量的な判断方法である、いわゆる「10%テスト」に注目されますが、その判断においては定性的に評価できる場合があることに留意が必要です。
実質的であるかどうかの判断を行った結果、条件変更が実質的と見なされず、金融商品の認識が中止されない場合、IFRSでは条件変更後のキャッシュ・フローを当初の実効金利で割り引いた金額と帳簿価額との差額を純損益として認識することが求められます(キャッチアップ修正)。IBOR改革の影響により多くのケースでキャッチアップ修正が求められることが想定され、実務上問題になっていました。この点については、IBOR改革に直接関係する金融商品の条件変更を識別し、帳簿価額は修正せず実効金利を更新する会計処理を認める実務上の便法が設けられます。これは、IBOR金利指標からRFRへの移行によって、価値の移転は生じず、両者は経済的に同等の基礎であると考えられるためです。この実務上の便法を適用する場合、IBOR改革に直接関係する金融商品の条件変更を識別し、帳簿価額は修正せず実効金利を更新することで会計処理することになります。
一方、実質的であるかどうかの判断を行った結果、条件変更が実質的であり、金融商品の認識が中止される場合、当該金融商品の消滅を認識するとともに、新たな金融商品を認識し、両者の差額を純損益として認識することになります。この会計処理に関しては特段の改訂は予定されていないため、仮にIBOR改革の結果、実質的な条件変更がなされる場合は、前述の会計処理を行うことになります。

Ⅲ ヘッジ会計

ヘッジ対象やヘッジ手段を変更する場合、まずはヘッジ文書の更新を行う必要がありますが、ヘッジ文書を更新した場合は、ヘッジ会計の中止として取り扱う必要があり、実務上は問題となっていました。この点について、IBOR改革の直接の結果として要求される条件変更が生じる場合は、既存のヘッジ関係を継続すべきであるとして、次のようなヘッジ文書の変更がヘッジ会計の中止を生じさせないように、基準が改訂されることになります。

  • ヘッジされるリスクを、RFRを参照するように再定義する
  •  ヘッジ手段及び(又は)ヘッジ対象の記述を、RFRを参照するように再定義する

なお、あくまでIBOR改革に直接関連する条件変更の場合に既存のヘッジ関係の継続を目的とするものであり、次のいずれかの場合にはヘッジ関係の中止が求められる可能性があることに留意が必要です。

  • ヘッジ対象及び(又は)ヘッジ手段の認識の中止を生じさせる大幅な条件変更
  • 認識の中止を生じさせず、IBOR改革の直接の結果として要求されるものではない条件変更

また、銀行等の金融機関が行ういわゆるマクロヘッジについて、項目グループのヘッジ対象に対してヘッジ会計を適用しており、グループの中の一部分のみIBOR改革の影響を受けて条件変更が求められる場合についての緩和措置も設けられることになりました。こうした場合、項目グループの中のヘッジ対象を二つのサブグループ(一方は当初のIBORを参照し、他方はRFRを参照する)によって定義するようにヘッジ文書を修正し、ヘッジの有効性を各サブグループごとに別個に判定することが可能となります。これにより、ヘッジ対象はサブグループに区分されますが、依然として当初の単一のヘッジ関係の一部を成すと考えられ、引き続きヘッジ関係は継続するものとして、RFRに移行してもヘッジ会計を中止する必要がなくなります。
さらに、第1段階の救済措置が終了する時点におけるヘッジの有効性の遡及(そきゅう)判定に関しても基準改訂が予定されています。第1段階の救済措置は、ヘッジ対象とヘッジ手段の両方に関して不確実性がなくなる場合に終了することになります。そのため、救済措置の終了時点で遡及判定の定めを適用する必要がありました。すなわち、終了時点で累計額の変動が80%から125%の範囲を外れる場合には、ヘッジの有効性は認められず、即座に中止しなければならないことになります。そこで、公正価値変動の累計額が、救済措置の終了時点であらためてゼロに設定されるように基準が改訂される予定です。

Ⅳ おわりに

IASBによる救済措置に関する暫定決定により、IBOR改革が企業に与える影響の多くは緩和されるものと考えられます。一方、紙面の都合上、本稿では記載していませんが、IBOR改革の影響をどのように管理し、どの程度の影響があるのかについて等、一定の開示が求められることになりますので、その点についても留意が必要であると考えます。

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