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OECDの新国際課税ルール案 前編

2020年4月30日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2020年5月号 Tax update

EY税理士法人 大堀秀樹

2015年から、EY税理士法人にて、日系企業100社以上にBEPS対応を踏まえたグローバル税務ポジションに関する数量分析を提供し、BEPS2.0時代に向けたグローバル税務戦略とガバナンスについてアドバイスをしている。EY入所前は、日系ICT企業において国際税務関係の業務に従事していた。

Ⅰ はじめに

2015年10月、経済開発協力機構(OECD)は、税源浸食と利益移転(BEPS)行動の一環として、行動1「デジタル経済の課税上の課題への対処」に関する最終報告書を公表しましたが、デジタル課税の導入については各国に委ねられました。
18年3月、OECDはBEPS行動1のフォローアップとして、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題‐2018年中間報告書」を発表しました。その後、デジタル課税についての検討作業が開始され、作業計画、コンサルテーションペーパーの発表を経て、20年1月31日、OECDによる「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する2本柱アプローチに関する声明」がなされ、20年末までに新しい国際課税ルールについて合意に達するための作業が進められています。

Ⅱ BEPS1.0とBEPS2.0

15年10月のOECDによるBEPS行動の最終報告では、①OECDモデル租税条約における物理的な拠点や人的サービスの提供に基づいた課税根拠②独立企業原則による利益配分③分離企業アプローチによる課税④過度な租税回避に関する濫用防止規定など、従来の国際課税の枠組みの中での対応が図られました。一方、今回の経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する解決案では、デジタル経済やBEPSにおいて残された課題について、従来の枠組みを超えて①新たな課税根拠を定義し、②独立企業原則に必ずしも基づかない定式的アプローチを定め、③企業単位ではなく企業グループ全体で捉え、④最低レベルの課税を課す、ことが検討されています(<図1>参照)。まさに国際課税の枠組みについて次世代の変革を伴う、BEPS2.0と呼ぶにふさわしい内容となっています。

図1 BEPS1.0とBEPS2.0の違い

BEPS2.0は二つの柱から構成されています。

  • 第1の柱:経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する、各国間の課税権の配分について、新たな課税根拠と利益配分ルールに関する統合的アプローチ
  • 第2の柱:BEPSにおいて残された課題である軽課税国への利益移転に対抗するためのグローバルな税源浸食防止措置、Global Anti-Base Erosion(GloBE)の提案

Ⅲ 第1の柱の対象となる事業

第1の柱はいわゆる『デジタル課税』といわれ、多くの企業にとっては、「自らはデジタルビジネスに携わっていないことから、デジタル課税は関係ない」と認識されていることと思います。当初はいわゆるデジタルビジネスを対象範囲として検討が開始されましたが、デジタルビジネスを多く抱える米国の意向も踏まえ、グローバルに多数の消費者に提供されている物品及びサービスも対象事業の範囲とすることが検討され、場合によっては日系企業の数百社が対象に含まれるとも推定されています。
現時点までの検討では、対象範囲とされる事業は二つのカテゴリーに整理されています。一つ目のカテゴリーには、グローバルに多数の顧客またはユーザーに対して、標準化及び自動化されたデジタルサービスAutomated Digital Services(ADS)を提供することで収入を生み出すような次の事業が挙げられています。

  • オンライン検索エンジン
  • ソーシャル・メディア・プラットフォーム
  • デジタル・マーケットプレイスを含むオンライン仲介業のプラットフォーム
  • デジタルコンテンツのストリーミング
  • オンラインゲーム
  • クラウド・コンピューティング・サービス
  • オンライン広告サービス

オンラインを通じて提供される人的な判断を伴うプロフェッショナルサービス(弁護士・監査・設計・コンサルティングなど)はADSの対象範囲に含まれません(近未来にこれらのサービスがAIにより提供されることになれば、ADSの範囲に含まれる判断となることでしょう)。
二つ目のカテゴリーは、一般消費者向けの物品やサービスの提供から収入を生み出す消費者向けビジネスConsumer Fencing Business(CFB)です。

  • ソフトウエア・家電・携帯電話を含むパーソナルコンピューター製品
  • 衣服・トイレタリー・化粧品を含む高級ブランド品
  • ブランド食材・飲食物
  • レストラン・ホテルを含むライセンス供与などのフランチャイズモデル
  • 自動車

CFBには、再販業者や仲介者を介した間接販売も対象となり、商標登録された消費財のライセンス権から収入を得る事業や、消費者ブランドと商業ノウハウに関するライセンスを通じて収入を得る事業も対象となります。完成品に組み込まれている中間製品や構成品事業は対象外とされていますが、それを含むことが消費者にブランドとして認知されている場合は適用対象となります。例えば、パーソナルコンピューター製品に含まれるプロセッサなどは対象となると考えられます。
天然資源・コモディティ・農産物・森林資源などは適用対象外とされています。コーヒー畑で収穫された焙煎(ばいせん)前のコーヒー豆は対象外ですが、焙煎され商標ラベルの貼られた容器に詰められたコーヒー豆は対象と考えられます。
銀行・証券・保険などの金融機関は対象外となります。リテールバンキングや保険など消費者向けのビジネスラインであっても、プルデンシャル規制や許認可要件の影響を考慮し、CFBから除外すべきと考えられています。ただし、デジタルピアツーピア融資プラットフォームなどFinTech金融サービスについては検討する必要があるとしています。また、ファンドやリースなど、銀行・証券・保険以外の金融機関が対象外となるのかについても今後の確認を要します。
製薬は多くの国において広告宣伝や顧客情報へのアクセスが規制されており、医師の処方によることから、CFBには当てはまらないのではないか、との議論がなされています。
国際輸送における船舶及び航空機の運航にかかる利益に対しては、租税条約において以前から本国における独占的な課税権が認められていることから、対象外とされています。

Ⅳ おわりに

前編では、BEPS1.0とBEPS2.0の違い、BEPS2.0の第1の柱における対象となる事業の範囲について説明しました。後編では、引き続き第1の柱における新たな課税根拠と利益配分ルール、及び第2の柱について、解説する予定です。

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