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OECDの新国際課税ルール案 後編

2020年5月29日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2020年6月号 Tax update

EY税理士法人 大堀秀樹

2015年から、EY税理士法人にて、日系企業100社以上にBEPS対応を踏まえたグローバル税務ポジションに関する数量分析を提供し、BEPS2.0時代に向けたグローバル税務戦略とガバナンスについてアドバイスをしている。EY入所前は、日系ICT企業において国際税務関係の業務に従事していた。

Ⅰ 第1の柱における統合的アプローチ

統合的アプローチは、前編で説明した標準化及び自動化されたデジタルサービスAutomated Digital Services(ADS)と一般消費者向けの物品やサービスの提供から収入を生み出す消費者向けビジネスConsumer-facing Business(CFB)に関するグローバル企業の事業活動に関して、消費者のいる国(市場国)において、企業の物理的な拠点の有無にかかわらずに、消費者のアクセスやデータにより生み出された価値を新たな課税の根とする考え方です。このアプローチでは、グローバル企業の利益をAmount A/B/Cに区分し、<図1>のように利益を配分するルールを提案しています。

図1 利益配分ルール

Amount Aは新たな課税根拠により、グローバル企業のある一定の率(例えば10%)を超過した利益を市場国に配分し、Amount BとAmount Cは従来の移転価格の利益配分ルールに基づいて配分されます。よって、Amount Bはマーケティング・販売機能にかかるベースライン活動に対し一定の利益を配分し、Amount CはAmount Bを超える利益につき配分します。以前から一部の新興国がマーケティング・販売への利益配分を主張しており、Amount Cについて係争の増加が想定されるため、強力な紛争解決措置の導入が求められています。
Amount BとAmount Cの利益配分ルールは既存の移転価格に基づくため、ADSもしくはCFBに該当しない企業にも適用される可能性があります。また、最近の米国の移転価格税制の執行や相互協議において重視されているマーケット・インタンジブルや利益分割法とも軌を一にするものです。
また、適用対象事業の収入額、利益率や利益額について、次のAmount Aについての課税判定プロセスにあるように一定の閾値(しきいち)が設けられます。

  • 収入テスト:連結ベースの収入が1,000億円以上
  • 事業活動テスト:ADSもしくはCFB
  • デミニマステスト(収入):適用対象事業の収入が一定の額以上
  • 事業ライン利益性テスト:適用対象の事業ラインの利益率が一定の%を超過
  • デミニマステスト(残余利益):Amount Aに配分される残余利益が一定の額を超過
  • ネクサステスト:市場国に配分されるAmount Aがネクサスを構成する一定の要件を満たす

多くの日本企業では、主に日本において研究開発をしていた歴史的経緯から、特許や商標等のように法的に所有権が明確なものを除いて、無形資産について十分な整理が図られていません。また、海外企業を買収した際には、無形資産を集約せずに保有する傾向がみられます。ADSもしくはCFBに該当しない事業活動を行う日本企業も含め、グローバルな無形資産戦略の再整理が重要になると考えられます。
一方、紛争解決の手段としては、国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)という、現在OECDによりパイロット版が試験導入されている多国間の相互協議を可能とする枠組みが構築されると想定されます。この枠組みにおいては、申請企業の親会社を所轄する税務当局が世界各国の税務当局と調整を行うことから、日本企業にとっては、本邦税務当局のリーダーシップも期待されます。

Ⅱ 第2の柱におけるGloBE提案

第2の柱ではグローバル企業の所得への課税に対して、グローバルレベルでのミニマム税率を定義することにより、グローバルな税源浸食を防止する提案(GloBE提案)がなされています。GloBE提案は次の四つのルールから構成されています。

① 所得合算(Income inclusion)ルール
軽課税国に所在する子会社等に帰属する所得について、親会社の所在する国において、最低税率まで課税するGloBE提案の根幹となるルールです。

② スウィッチオーバー(Switch-over)ルール
国外所得免除方式を採用する国が、軽課税国に所在する外国支店の所得について、外国税額控除方式に切り替えて課税するルール。Brexit対応として、オランダに欧州統括会社を移管する際に本支店形式に再編している日本企業においては、オランダ税制は海外支店の所得免除をしているため、注意が必要です。

③ 軽課税支払(Undertaxed payments)ルール
関連企業への使用料等の支払いに際し、受領者側の国で使用料等の所得に十分な課税がなされなかった場合、支払者側の国で損金算入の否認等により課税するルールです。

④ 課税対象(Subject to tax)ルール
受領者側で十分な課税がなされなかった場合、所得に関する租税条約の特典が否認されるルールです。

GloBE提案は、第1の柱である統合アプローチと比べ合意に時間がかかると考えられています。しかし、BEPSにおいて残された課題である軽課税国への利益移転への対応策として、米国税制改正(GILTI及びBEAT課税)やオランダ税制改正(Conditional WHT)にも共通する税制であることから、多国間の合意に至らない場合にも、各国が個別に導入する可能性も十分に想定されています。そのため、企業グループの税務ポジションによっては、二重課税が生じるリスクも考えられます。

Ⅲ おわりに

BEPSにおける国別報告書(CbCR)は、企業グループの透明性の観点から財務会計による税務情報の報告を求めているに過ぎず、直接の課税処分はなされませんでした。BEPS2.0は企業グループのグローバルな課税ベースを想定しており、本社税務部門はグローバルな税務ポジションを把握した上での税務戦略とリスクマネジメントを求められることになります。
グローバルにADSやCFBの対象となる事業を展開するグローバル企業の多くは、デジタル経済において高収益なモデルを構築しているが故に、新たな課税根拠と利益配分ルールについて議論となっています。日本企業については新たな課税の有無以前に、同様の事業でありながら、グローバル企業と比較し収益性が劣る面があり、デジタル経済における事業モデルの再検証の契機となることが望まれます。

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