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情報センサー2020年7月号 パブリックセクター

ポスト・スマートシティ
第1回 サステナブルシティ 新しい地域経営の在り方

インフラストラクチャー・アドバイザリーグループ 酒見和裕
大手ゼネコン、シンクタンクを経て、現職。政府・自治体、民間企業等向けに国内外のスマートシティ事業や交通・スポーツ・公共施設マネジメントなどに関するコンサルティングを担当。インフラ分野のコンセッション事業等に多数従事している。一級建築士。当法人 マネージャー。

Ⅰ はじめに

今般の新型コロナ禍は、われわれの想像を超える影響を社会にもたらしています。出入国制限、緊急事態宣言に伴う施設利用、移動制限や大幅な経済活動の停滞等は戦後例のない象徴的な出来事です。この未曾有(みぞう)の災害は、かつてのペストやスペイン風邪の大流行が、西洋社会の社会構造の変容※1を招いたのと同様に大きな転換になります。新しい生活様式は、移動やコミュニケーションの在り方、公共に求められる機能・役割等の都市/まちに対する価値観の変容をもたらすとの前提に立って考えねばなりません。
わが国のスマートシティ市場は、今後5年以内に1兆円に達するとも言われてきましたが※2、実際の生活の中で、スマートシティを体感するような事がこれまでどれほどあったでしょうか。
本稿では、「なぜ日本でスマートシティの社会実装が進んでいないように感じられるのか」「With/Afterコロナ時代の持続可能な都市/まちの在り方とは」という視点から、これまでのスマートシティの取り組みを踏まえた、「ポスト・スマートシティ」の持続可能な地域経営の在り方についてお伝えします。

Ⅱ わが国のスマートシティの現在地

1. 日本のスマートシティ施策

わが国では急激な人口減少・少子高齢化が進む中、社会保障費の増大、既存インフラの老朽化等の多重的課題に対し、全省庁挙げてスマートシティの実現に取り組んできました。スマートシティについて明確な定義はありませんが、都市/まちの課題に対する技術的ソリューション、およびそれによる新しい都市の姿とされてきました。具体的には、京都議定書以降のエネルギー・エコ技術型、近年のデジタル技術型が中心となりつつある要素技術の開発、育成、実証事業が各省庁縦割りの状態で進められてきました。
そこでこのような個別最適の施策を統合していくため、平成31年度以降、「府省連携したスマートシティ関連事業の推進に関する基本的な方針」(以下、基本的方針)を関係本部・省庁連携に基づき推進するとされています。具体的には、地域の実情に合わせた持続可能なビジョン、組織・体制を構築するローカライズと、相互運用性確保、拡張性確保といった共通化の双方の視点が記載されています※3(<表1>参照)。


表1 令和2年度 スマートシティ関連事業の推進に関する基本的な方針(内閣府)

スマートシティリファレンスアーキテクチャのホワイトペーパー(以下、ホワイトペーパー)では、「デジタル化された持続可能な地域経営」※4や「データが円滑かつ自由に流通し、サービスの再利用や横展開」のように、IoTやデータベース等の新しいインフラ領域をどう形成していくか、既存インフラとどう接続するかがうたわれています。

2. 日本のスマートシティの課題

世界レベルの日本企業の先進技術は諸外国のスマートシティで採用されつつある中、なぜ日本で社会実装が進まないのでしょうか。個別領域での取り組み、小規模な実証事業で終わってしまうのはなぜなのでしょうか。これには三つの要因が考えられます。
一つ目は、企業目線のプロダクトアウトの事業推進があります。技術志向の政府からの支援施策と合わせて、個別最適化技術の補助金採択、成長促進につながってきました。わが国の官僚組織の、省庁間の明確な役割分担「縦割り」の下での個別最適、領域ごとの成果が求められる状況も遠因にあると考えられます。
また、補助金が実証実験や初期投資のみに限定されることで、持続可能な運用を逆に阻害してきたのかもしれません。住民目線や継続性に関する視点の不在は、補助金のために新規事業、実証実験を行うといった主客転倒を招いてきた可能性もあります。
二つ目は、わが国と諸外国の都市/まちの状況のギャップです。スマートシティは、諸外国では都市部の人口増加、発展に対する成長促進策として考えられていますが、わが国は、都市部への集中、郊外住宅地の発展を経て、全面的な停滞または衰退局面を迎えています。その結果、人口減少・需要減という市場規模の縮小、社会保障費の増大、既存インフラの老朽化対策等による自治体財政の悪化等も一つの背景となっています。
既存インフラの老朽化は、すでに待ったなしの状況が続いており、大阪府北部地震の際に破裂した水道管は耐用年数40年を10年以上超過したものでした※5
最後に、スマートシティ推進上のガバナンスの問題があります。ガバナンスの語源は、古代ギリシア語の、舵を取る、舵取りであり、「潮目を読んで風の方向を判断し、舵を操作するレバーにずっと手をかけたまま、何も考えずに(機械的に)櫂をひたすら操る奴隷たちに指図して、動力と機敏さを船の操舵装置に伝える男性」です。まさにスマートシティ推進には舵取り役がどう在るべきかという課題があります。さらに、多様なステークホルダーが存在する中で、主要なプレーヤーとなる自治体がどのように推進に関与するか、公共調達の仕組みや公共性の担保をどうするかという問題があります※6


スマートシティの社会実装に向けた課題

Ⅲ スマートシティからサステナブルシティへ

1. ポスト・スマートシティ時代のサステナブルシティ

先進事例形成が進まない中、ITという新しいインフラの導入に向けた取り組み以前に、既存の社会インフラ(交通、上下水道、公共施設等)の老朽化は進み、崩壊の危機に面しています。われわれは、IT関連産業の育成や、海外輸出視点に偏重しすぎた「スマートシティ」からの転換が必要と考えています。
われわれは、従来のスマートシティから都市/まちの全体最適視点での取り組みへ移行したポスト・スマートシティ時代の、持続可能な都市/まちの在り方をサステナブルシティと呼んでいます(<図1>参照)。サステナブルシティは、未来に残したい持続可能な都市/まちです。今までなかったIoT/領域横断プラットフォームといった新しいインフラだけでなく、既存インフラ、公共サービス全体を含めて都市/まちを全体最適化し、持続可能な地域経営を行っていく姿です※7

(下の図をクリックすると拡大します)

サステナブルシティは今般のコロナ禍のような100年に一度の災害や、バブル崩壊、阪神大震災、リーマンショック、東日本大震災等の10年に一度の変化・災害にも対応できる"しなやかな"都市/まちでもあります。全ての想定し得る事態への事前対策を行うのではなく、コロナ時代の新生活様式での都市/まちに求めるものへの変化に対応しつつ、有事の際の柔軟な対応、対策が立てられる仕組みを内包するものです。

2. サステナブルシティ実現に向けた取り組み

サステナブルシティの実現に向けては、課題オリエンテッドの取り組みを、ハイスピード、ローコスト、ハイパフォーマンスソリューションで進めること、ソリューションを機能させるためのガバナンスがポイントだと考えます。
都市/まちの真の課題はIT化だけでしょうか。既存インフラの老朽化や社会福祉等も含めた地域の課題を明らかにし、その解決に取り組むことが重要です。
都市/まちのビジョンを中長期で持つことは重要ですが、それと並行してソリューションの導入についてはスピードアップが必要と考えます。ソリューションの海外輸出の文脈でも、実証が済み社会実装されていることは、諸外国との競争の中でさらに重要となります。
多様なステークホルダーの間の利害調整を迅速に行うには、新しくパワフルなガバナンスが必要です。スピードアップのための迅速な意思決定と公共性、透明性を担保した調達手続き、官民の役割分担等、われわれの考える在るべきガバナンスについては、次章で説明します。

3. サステナブルシティを支えるパブリックガバナンス

(1) ガバナンスを構成する要素

サステナブルシティを支えるガバナンスとはどういうものでしょうか。われわれは、<図1>の六つの要素(「規範指針」「インセンティブ/ペナルティ」「司令塔の設計/運用」「調達/PPP※8」「評価指標(KPI/KGI※9)」「モニタリング/レポーティング」)が必要であると考えています。
行動規範・指針やリスク管理方針、データ利用制限等の規範・指針を定めることが考えられます。また、公共資金導入に関するルール、料金・事業内容の規制やペナルティに関する事項等、インセンティブ・ペナルティの設計も必要です。
都市/まちの将来像を見据え、全体最適を推進する司令塔の設計/運用をどうするかという問題もあります。協議会方式、地域プラットフォームや官民出資会社等の組織形態や行政主導、民間主導で進めることも考えられます。ステークホルダー間の利害調整と意思決定フローの明確化が必要となるでしょう。公共資金導入を図ることを考えると、調達・PPPの在り方についても設計が必要です。公平公正な調達方法で最適な事業者を選定していく仕組みが求められます。
都市/まちの住民を含めた多様なステークホルダーが関与するため、明確な評価指標(KPI/KGI)の設定も必要です。定量的な評価指標、定性的指標の評価基準、随時の情報取得と評価等が求められます。また事業の状況を定期/随時に開示し、対外発表するモニタリング/レポーティングの在り方も検討しなければならないでしょう。
全ての構成要素を一度に全て決定し、進めることはできません。また、災害、気候変動、社会構造の変化や技術革新が起きる度に、最適な都市/まちの姿はアップデートされていきます。パブリックガバナンスは、既存のインフラやデジタルインフラ(IoT、ITプラットフォーム)とサービスの革新の中で、自律的に秩序を構成する仕組みといえます。

(2) ステークホルダーそれぞれに求められる役割

ここまでポスト・スマートシティ時代のサステナブルシティの在り方について整理をしてきました。このような新しい取り組みに対し、政府、民間、自治体にはどのような役割と姿勢が必要となってくるでしょうか。
政府の支援については、現在行われている個別最適型の事業構造から、都市/まちの全体最適目線への転換が必要と考えられます。2019年にはスマートシティ官民連携プラットフォームが設置され、各省庁も参加していますが、類似事業でバラマキ型支援を省庁別に実施している状況は続いています。省庁間の垣根を越えた取り組みのさらなる融合が望まれます。
民間企業には、中長期的な目線での、地域へのコミットメントが求められます。もちろん私企業としての利益追求が必要なことはありますが、この縮退が進む日本において過度な競争より、協働を進めていくべき時代が到来しています。競争領域と協調領域が明確化していく中で、真の協調が求められています。
また、特に地域密着型の企業の衰退は地域全体の衰退に直結します。地域を支え、公共を支援する役割、都市/まちの全体最適に向けた司令塔や、司令塔を補佐する役回りにもなることが望まれます。
自治体においては、人材不足・ノウハウ不足解消に向けた人材育成等の取り組みを進めつつ、その中でも何とか地域ビジョンを取りまとめ、推進する役割があります。中長期的なビジョンをもって公共利益を最優先で考え続けられる主体としての動きが必要となります。
そのためには、既存インフラを含めた現状把握と50年、100年単位のマネジメント方針と財政維持シナリオは必要ですし、既存インフラの老朽化対策も道半ばである中、新たなインフラも含めた持続可能な仕組みづくり、官民の新たな契約の在り方も求められます。

Ⅳ おわりに

ここまで見てきたようなサステナブルシティの実現に向けた取り組みには、既得権益者の説得や利害関係者の調整、住民の機運醸成等、多くの障害が想定されます。これら困難を乗り切った先に、長期目線の都市/まちの生き抜く術が見えてくると考えています。
今回のコロナ禍で、適切な行政サービスを"当たり前"に受けられることの重要性を認識した市民、国民も多いことでしょう。住民が住み続けたい、住みたい都市/まちであるために、適切なパブリックガバナンスに支えられたサステナブルシティが今後の目指すべき都市/まちの姿と考えます。
本シリーズでは、ポスト・スマートシティ時代におけるサステナブルシティについて、その在るべき姿を、さまざまな視点からお伝えしていきます。


  • ※1大幅な人口減少や賃金上昇による農奴に依存した荘園制の崩壊、ペストの脅威を防ぐことができなかった教会の権威失墜等が起き、新しい価値観の創造へと繋がったといわれている。www.nishinippon.co.jp/item/n/592363/
  • ※2(株)野村総合研究所「2025年度までのICT・メディア市場の規模とトレンドを展望」
    www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2019/cc/1127_1
  • ※3経済産業省「令和2年度の政府スマートシティ関連事業における共通方針について」
    www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20200324smartcity-1.pdf
  • ※4スマートシティリファレンスアーキテクチャのホワイトペーパー
    www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20200318siparchitecture.html
  • ※5水道料金の値上げ率は全体平均で36%にもなるとの研究結果もある。
    www.ey.com/ja_jp/news/2018/03/ey-japan-press-release-2018-03-29
  • ※6基本的方針でも、「住民参画や産学官連携等をすすめ、運営に必要な組織の整備等を一体的に実施し、持続可能な取組となるよう考慮すること」との記載がある。
  • ※7ホワイトペーパーでは、「スマートシティリファレンスアーキテクチャの全体像」(P6)として、データベース等からなる「都市OS」とそれをマネジメントする「都市マネジメント」の両輪で推進すると整理されている。サステナブルシティでは、既存の物理インフラ、公的サービスを含めた全体最適を志向する。
  • ※8Public Private Partnership:官民連携。ここでは、公共と民間が一体的に事業を進めるものの総体を指し、PFIや指定管理者制度、リビングラボ等多様な方式が含まれる。広義に捉えると、公共の行う調達行為全般がPPPと考えることもできる。
  • ※9Key Performance Indicator:重要業務評価指標、Key Goal Indicator:重要目標達成指標。前者が後者の達成に向けた指標。