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欧州の金融規制に与える新型コロナウイルス感染症の影響について

2020年6月30日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2020年7月号 JBS

アムステルダム駐在員 公認会計士 山神秀一郎

2010年、当法人に入所。銀行業、資産運用業をはじめとする金融機関の会計監査、関連保証業務に従事。20年2月よりEYアムステルダム事務所に駐在。現地金融機関の会計監査と共に、規制対応・リスク管理といった幅広いアドバイザリー業務を提供。

Ⅰ  はじめに

英国が欧州連合(EU)離脱を決定した国民投票を皮切りに、3年7カ月の議論を経て、2020年1月31日にEUを正式に離脱しました。20年末までは移行期間となり、EUとの間で通商交渉が進められています。
一方、この歴史的なイベントに並行して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界に広まり、各国政府は渡航制限や外出自粛、ソーシャル・ディスタンスの確保を呼びかけています。このパンデミックにより、企業は通常の企業活動が一部制限され、世界経済にも深刻な影響を及ぼしています。
かかる状況下で、08年の世界金融危機以降、長年規制強化に向かっていた国際的規制機関や監督当局が続々と声明・ガイダンスを公表しています。ビジネスの継続性や従業員保護の観点から企業・個人への支援策を打ち出す傍ら、オペレーション・リスクやサービスの持続可能性、財務リスクへの影響を注視し、この社会的な救済体制に反する企業活動を厳しく取り締まる姿勢を見せています。本稿では、執筆時点(20年5月上旬)において、各機関から出されている規制関連のアナウンスのうち、欧州の監督当局による発表を中心に紹介します(<図1>参照)。

図1 欧州の中央銀行・銀行関連当局によるCOVID-19関連の対応措置

Ⅱ 概要

1. European Central Bank(ECB)※1

ECBは20年3月12日、資本及び流動性に関する規制を緩和することを発表し、最低所要水準に上乗せで備えることを求めていた、資本・流動性確保のためのバッファーを一時的に取り崩すことを許容しています。20年3月27日には、配当金支払及び自己株式の買戻しを少なくとも20年10月まで自粛するよう、勧告を出しています。また20年4月22日、ユーロ圏内の銀行がECBから資金供給を受ける際の担保要件を緩和しました。担保資産の最低格付要件を通常の債券はBBB-、資産担保証券はA-としていたところ、20年4月7日時点でその要件を満たし、その後COVID-19の影響により格下げとなっても、通常の債券はBB、資産担保証券はBB+にとどまる限り、引き続き担保として受け入れる措置を21年9月まで継続することを発表しています。

2. European Banking Authority(EBA)※2

EBAは貸出金の分類におけるデフォルト、条件緩和、会計上の取り扱いについて、柔軟な対応を求める声明を20年3月25日に出しました。その後、追加のガイダンスを公表し、20年6月30日までに適用される貸出金の支払猶予措置(法的・民間主導含む)が、直ちに条件緩和と見なすトリガーとはならないことを明確化しました。他方では、既存ルールに従い、長期的な財政難に直面している債務者の把握・評価の重要性を強調しています。

3. European Securities and Markets Authority(ESMA)※3

ESMAは、IFRS第9号「金融商品」の適用に関する声明を20年3月25日に出しています。その中では、COVID-19関連の支援策導入した際の条件変更に関する会計処理、信用リスクの著しい増大の評価、予想信用損失の見積り等の考え方や取り扱いを提示しています。

4. European Insurance and Occupational Pensions Authority(EIOPA)※4

EIOPAはCOVID-19の影響を低減するため、20年3月17日に声明を出し、その中でEIOPAから業界への情報提供依頼と協議を、市場影響の評価及びモニターするために必要なものへ短期的に制限することに触れています。加えて、最低資本要件を上回る水準で求められているソルベンシー資本要件について、例えばソルベンシーⅡ指令の第138条で予測されるような例外的な事態が生じた場合においては、柔軟な対応が認められるとしています。4月2日には、(再)保険会社に対して、株主への報酬を目的とした裁量的な配当金支払及び自己株式買戻しの一時的な停止を求める声明を出しています。

5. その他

Basel Committee on Banking Supervision(BCBS)※5の上位機関であるGroup of Central Bank Governors and Heads of Supervision(GHOS)は、バーゼルⅢの最終化※6を1年延期することを20年3月27日に発表しています。その中で、見直し後のマーケット・リスクの枠組みやPillar3ディスクロージャー要件の適用実施も1年延期するとしています。次に、BCBSはInternational Organization of Securities Commissions(IOSCO)※7と共同で、非清算店頭デリバティブ取引に係る証拠金規制の最終化を1年延期することを20年4月3日に発表しました。
EU指令によるクロスボーダー・アレンジメントの義務的開示制度※8についても、European Commission(EC)※9は報告及び情報交換の開始日を3カ月延期し、COVID-19の状況によってはさらに最大3カ月の延期を行う可能性を示唆する提案を20年5月8日に発表しています。

Ⅲ おわりに

COVID-19の感染拡大を受け、各機関より既存ルールの一部変更や適用時期の延期が発表されていますが、スケジュール通りに新ルール適用が予定されているもの、従前よりも厳しい情報提供を求めるものもあります。刻一刻と状況が変化しているため、企業においては、各機関より出されるアナウンスを注視するとともに、対応に向けて準備を整えることが求められます。本稿では各アナウンスの概括的な記載にとどめているため、アナウンスの詳細及び関連規制の内容については、ジャパン・ビジネス・サービスまでお問い合わせください。

※1 ECBはユーロ通貨圏である19カ国の統一的な金融政策を担う中央銀行で、ユーロ圏内の銀行に対して直接的・間接的な監督権限を持つ。

※2・3・4EBA・ESMA・EIOPAは、EUの専門機関として欧州監督機構を構成し、それぞれ銀行、証券市場、保険・企業年金の分野でEU全体に適用される規制やガイドラインを制定すると共に、EU加盟各国の金融当局と連携しながら域内の金融機関を監督する権限を持つ。

※5 BCBSは銀行を対象とした国際的なルールを議論する場として、G10諸国の中央銀行総裁会議により設立された機関で、GHOSを上位機関とし、日本を含む28の国・地域の銀行監督当局及び中央銀行により構成されている。

※6 10年に合意されたバーゼルⅢから、リスク・アセットの過度なバラツキを軽減するためにリスク計測手法等の見直しを17年12月7日に行ったもの。27年の完全実施を見込み、22年1月より段階的な実施を予定していた。

※7 IOSCOは、世界各国・地域の証券監督当局や証券取引所等により構成される機関で、証券監督に関する原則やガイドライン等を策定する。

※8 18年5月25日に採択されたEU指令(DAC6)により、仲介者・納税者に対し、EUが潜在的に租税回避に積極的であると見なす、一定のクロスボーダー・アレンジメントを報告することを義務付ける制度。

※9 ECは、27人の委員による合議制で運営されているEUの政策執行機関であり、EU理事会と欧州議会への法案提出や政策の遂行・運営、EU法遵守のモニタリング、年間予算の策定等を行う。

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