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情報センサー2020年8月・9月合併号 会計情報レポート

収益認識基準(表示・開示)に関する実務上の論点

品質管理本部 会計監理部 公認会計士 松下 洋
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。

Ⅰ はじめに

本稿では、2020年3月31日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から公表された改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、本改正会計基準)及び改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、本改正適用指針)等について、前号(本誌2020年7月号)に解説した概要を踏まえた実務上の論点を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 本改正会計基準等の適用における実務上の論点

1. 表示

(1) 顧客との契約から生じる収益の表示科目等

改正会計基準等では、顧客との契約から生じる収益を適切な科目をもって損益計算書に表示することとされました。これまでの実務慣行等を踏まえると、財の販売から生じる収益を「売上高」、サービスの提供から生じる収益を「役務収益」、代理人として獲得する収益を「手数料収益」などすることが考えられますが、表示科目を決定するための具体的な指針は示さないこととされています(本改正会計基準155項)。このため、実務上は、各企業において、実態に応じた適切な表示科目を検討しておくことが必要になると考えられます。また、顧客との契約から生じる収益については、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、注記を行うこととされています(本改正会計基準78-2項、本改正適用指針104-2項)。ここで、本改正会計基準における顧客との契約から生じる収益には、本改正会計基準等の適用対象外となる企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、リース会計基準)の範囲に含まれる取引等(本改正会計基準3項(1)~(7))は含まれません(本改正会計基準156項)。従って、これらの取引と顧客との契約から生じる収益の区別について論点になることが考えられます。
例えば、不動産賃貸業等で、従来、リース会計基準の対象となる不動産賃貸と本改正会計基準の対象となる物件の管理サービスを同時提供し、請求書についても合算で発行しているような場合等には、本改正会計基準の対象となる取引とリース会計基準の対象となる取引を区別して把握することが必要になる場合があると考えられます。

(2) 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い

本改正会計基準では、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合には、損益計算書上、金融要素の影響を区分して表示することとされました(本改正会計基準78-3項)。実務上は、販売から支払までの期間が通常の販売取引に比べて長く設定されている場合や前受取引等においても、重要な金融要素が含まれている場合等が考えられます。このような場合には、損益計算書上の区分表示が必要となりますが、他の受取利息又は支払利息と合算して表示することは認められると考えられます。なお、その場合であっても追加的な注記は求められていないと考えられます(本改正会計基準157項)

(3) 契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権に関する取扱い

契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示するかそれぞれの残高を注記することが求められています(本改正会計基準第79項、本改正適用指針第104-3項)。
実務上、検討が必要となる論点としては、契約資産と顧客との契約から生じた債権の区別や、契約負債と金融負債の区別等が挙げられます。
例えば、工事契約等一定期間にわたり収益が認識される取引において、履行義務の充足と関連しない中間金の支払いが行われるような場合があります。
ここで、契約資産と顧客との契約から生じた債権は、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のものであるか否かにより区分されます(改正会計基準10項、12項)。このため、このような場合には、すでに提供した財又はサービスに対応する中間金のうち、請求済未入金の部分は、顧客との契約から生じた債権となる一方で、いまだ充足されていない履行義務に対応するものは、契約負債として区分して集計することが求められる場合が考えられます。従来、これらを区分して管理していない場合には、集計、管理するために、システム対応等も含めた体制の確保が求められる場合があるため留意が必要です。

2. 注記事項

(1) 重要な会計方針の注記

本改正会計基準において、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の項目を注記するとされています(本改正会計基準第80-2項、第80-3項)。

  1. 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
  2. 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
  3. 上記①及び②以外に重要な会計方針に含まれると判断した内容

従来の実務においては、収益認識に関する会計方針の注記は、代替的な基準がある場合の収益の認識基準(企業会計原則注解(注2))など、限定的なものに留まっていたものと考えられますので、多くの企業において追加的な開示が必要になるものと考えられます。特に複数の事業がある場合には開示対象とする履行義務の内容や、履行義務を充足する通常の時点の開示対象や内容については慎重な検討が必要になるものと考えられます。

(2) 収益認識に関する注記

① 収益の分解表示

当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報を注記することとされています(本改正会計基準第80-11項、本改正適用指針第106-3項)。
区分の方法としては、財又はサービスの種類、地理的区分又はサービスの移転時点が例示されていますが、セグメント情報の開示を行っている企業は、報告セグメントについて開示する売上高との関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報となっているか検討する必要があります。また、前号での解説のとおり、決算発表資料等で提供されているより詳細な収益の分解に関する情報を、その開示目的に照らしてどのように開示すべきかを検討する必要があります。<表1>に示した適用指針における開示例は、収益の合計23,000百万円を、主たる地域市場、主要な財又はサービスのライン、収益認識の時期により分解した情報をセグメントごとに開示しています。これらの例示はチェックリスト又は網羅的なリストとして利用されることは意図されていないことから(本改正適用指針190項)、各企業の判断において分解する区分を決定する必要がある点には留意が必要です。

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検討の結果、従来収集していなかった情報が必要となる場合、企業内の各部門や子会社から収集できる体制を整備する必要があることも考えられるため、早期にどのような分解情報を開示するのかについて検討しておくことが望ましいと考えられます。

② 収益を理解するための基礎となる情報

基礎となる情報については、詳細な例示項目が<表2>のとおり、改正会計基準に示されています。どのような注記をするかについては、開示目的、すなわち、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報であるかに照らして判断することになりますが、いずれも会計処理の検討と合わせて検討すべき事項であると考えられます。例えば、重要な支払条件に関する情報の注記検討の過程で、変動対価に該当する支払条件が判明する場合など会計処理についても新たな論点が生じることもあり得ますので、早期に検討しておくことが望まれます。

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③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

詳細な注記事項については、前号の解説をご参照ください。本稿では、特に実務上の論点と開示例について、解説します。

ⅰ) 契約資産及び契約負債の残高等

この中で、当期中の契約資産及び契約負債の残高に重要な変動がある場合には、その内容の注記が求められており(本改正会計基準80-20項(3))、必ずしも定量的情報が求められているわけではありませんが、変動の例示として、本改正適用指針106-8項に以下が示されています。これらを踏まえて残高の変動が重要であるかの判断基準を設定しておく等が実務上の課題として考えられます。

  • 企業結合による変動
  • 進捗(ちょく)度の見積りの変更、取引価格の見積りの見直し又は契約変更等による収益に対する累積的な影響に基づく修正のうち、対応する契約資産又は契約負債に影響を与えるもの
  • 対価に対する権利が無条件となるまでの通常の期間の変化
  • 履行義務が充足されるまでの通常の期間の変化

ⅱ) 残存履行義務に配分した取引価格

当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額及びその金額をいつ収益として認識すると見込んでいるかについて、定量的情報(<設例1><設例2>)のような開示例が用意されています。

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また、定性的情報(<設例3>)を使用した方法により注記することも考えられます。ただし、履行義務が当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合等、一定の場合には注記しないことが認められています。

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残存履行義務に配分した取引価格は、以前から非財務情報において「生産・受注及び販売の実績」に開示されている受注残高等の開示と類似していると考えられますが、本改正会計基準等の定めに従って算定される必要がある点は、実務上の論点となることが考えられます。
例えば、取引慣行として口頭による内示や発注が行われる業界においては、本改正会計基準等の適用において契約の識別時点の判断によって会計処理だけではなく、注記の金額も影響を受ける場合があり得るため、情報収集プロセスについて検討することが重要になります。

Ⅲ 財務諸表規則等の改正

2020年6月12日に、金融庁から「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」が公布され、本改正会計基準等への対応が図られています。主な改正内容は、<表3>のとおりです。

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Ⅳ おわりに

本改正会計基準においては、前述のとおり、表示科目の検討だけではなく、注記事項の拡充に伴い連結子会社からの情報収集を含め、開示プロセスの検討が求められることになると考えられます。
すでに会計処理に関する検討はある程度進んでいる企業が多いとは考えられますが、開示の検討を通じて新たな論点が判明するようなこともあり得ます。従って、可能な限りは早い段階で、開示に関する要求事項を把握するとともに、開示に関する方針決定、トライアルを通じて原則適用までに対応すべき事項を明確にしておくことが重要です。


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