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OECD金融取引に関する移転価格ガイダンスによる事業会社への影響

2020年11月2日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2020年11月号 JBS

ロンドン駐在員 公認会計士 工藤保浩

2008年、当法人に入所。事業会社への出向を経て、15年にEY税理士法人へ転籍し、組織再編や連結納税関連等のアドバイザリー業務に従事。19年よりEYロンドン事務所に駐在。組織再編に関する税務アドバイザリーや税務コンプライアンス業務等、税務を中心としたサービスを日系企業へ提供している。


EYアムステルダム事務所 Asia Business Center 佐々木 悠

2015年、EY税理士法人に入所。20年3月よりEYアムステルダム事務所に転籍。日系企業を中心に移転価格の税務アドバイザリー業務に従事している。また、EY税理士法人在籍中には、日系大手金融機関に出向し、国際税務を担当。

Ⅰ  はじめに

Covid-19のパンデミックにより、過去数カ月にわたり多くの企業が流動性を確保するために親会社をはじめとするグループ会社や金融機関から借入れを行い、また社債を追加的に発行しました。こうした活動はグループ内における金融取引の移転価格に影響を及ぼします。2020年2月1日に、経済協力開発機構(OECD)は、金融取引に関する移転価格ガイダンスを含む最終報告書(以下、FTTPガイダンス)を公表しました。
当FTTPガイダンスは、初めてOECDが金融取引に関する移転価格のガイダンスを公表するものであり、OECD多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関するガイドライン(以下、OECDガイドライン)の新しいチャプター10を構成しています。
オランダ、英国を含む欧州におけるOECD加盟国の多くはOECDガイドラインに準拠しており、本FTTPガイダンスは金融取引の移転価格を検討する上で非常に重要なものになります。FTTPガイダンスは、①OECDガイドライン・セクションD.1におけるガイダンスとの関係(取引の正確な描写等)、②関連者間ローン取引、キャッシュプーリングおよびヘッジ取引を含む財務機能、③保証取引、④キャプティブ保険取引および、⑤リスクフリー収益率とリスク調整後収益率(OECDガイドライン・チャプター1を改定するもの)の五つのセクションで構成されています。以下、一般的な金融取引である関連者間ローンについて説明します。

Ⅱ 関連者間ローン取引

1. 概要

多くの多国籍企業は、グループ内の資金需要に対応するために関連者間ローン取引を実施しています。関連者間ローン取引は、タームローン、ブリッジローン、リボルビングローン、アップストリーム・ローン等を含み、その形態は多岐にわたります。
関連者間ローン取引において適用される金利は、独立企業間原則に則して設定される必要があり、独立企業間の金利は、借手の信用格付けやローンの取引条件等に基づいて決定されます(<表1>参照)。

表1 金利設定に影響を与える項目例

2. 移転価格分析

本FTTPガイダンスに基づき、移転価格分析は、主に描写分析と価格分析から構成されます。

(1) 描写分析

描写分析は、取引のビジネス上の目的、商業的合理性および取引条件等を分析するもので、OECDによる正確な描写とは、法的形態に依存するものではなく、取引の経済実態により確立されるものになります。従って、関連者間取引は第三者の取引慣行に沿うような形で構成され、かつ価格設定される必要があります。また、関連者間ローン取引においては、借手と貸手の両者の観点から検討する必要があります。

(2) 価格分析

関連者間ローン取引に関する価格分析には、通常、信用格付け分析、金利のベンチマーク分析および国によっては借入(返済)能力分析が用いられます。

① 信用格付け分析

信用格付けとは、企業の金融債務の返済能力を正式に評価したものです。債券市場への参加履歴がある企業の信用格付けの多くは、一般に公開されています。
<暗示的な支援の分析>
グループ内において、関連者は、お互いにその信用の質を影響し合っています。例えば、脆弱(ぜいじゃく)な会社は、大規模は多国籍企業グループに所属していることで、信用の質を上げることができます。分析には、信用格付機関が公表している格付け手法等が参照されます。また、FTTPガイダンスは、信用格付け分析においては、暗示的な支援を必ず考慮する必要があるとしています。

② 金利のベンチマーク分析

独立企業間の金利は、一般に公開された金利データを用いてベンチマークすることが可能です。例えば、同等の信用格付や取引条件である、第三者の借手のローンもしくは社債のデータを参照することが考えられます。ただし、借手が、第三者の貸手から比較可能なローン(内部CUP)を取得している場合、その金利を参照することが優先されます。さらに、資金調達コストを考慮して金利を決定することも可能です。どの手法においても借手と貸手の両者の立場を考慮して分析することが重要となります。

Ⅲ オランダにおける金融取引に関する移転価格

オランダには、税法や一般規制に加え、オランダ政府(Dutch Ministry of Finance)により公表されている通達が存在します。本通達は、金融取引も適用対象としており、移転価格、独立企業間原則が適用されます。OECDガイドラインに関する通達は、信用格付、関連者間ローン取引、債務保証取引および(再)保険取引を対象としています。また、オランダ税務当局は、原則的にOECDガイドラインに準拠しており、本FTTPガイダンスは、オランダ国内法の変更なしに適用されることが考えられます。
オランダの裁判における慣行および通達に基づくと、第三者の貸手が、同様の条件と状況下において、グループ内の借手に同様のローンを提供しない場合、グループ内の貸手は、第三者が許容しないリスクを負担していると判断されます。また、グループ内の貸手は、株主もしくは関連会社の立場として、当該関連者への出資を目的としてリスクを負担していると見なされます。この場合、当該ローンはnon-businesslikeローンと分類されます。例えば、仮にオランダに所在する借手が関連者間ローンのbusinesslikeの性質を十分に証明できなかった場合、オランダ税務当局より低い水準の金利を適用するように要求される可能性があります。

Ⅳ 英国におけるFTTPガイドラインへの対応

英国では、法人税法の枠組みの中で移転価格税制・過少資本税制の制度が規定されており、過去にOECDから公表されたガイダンスも英国国内法において承認・適用されているため、本FTTPガイドラインも同様の対応が想定されます。
また英国国内法では、グループ内の国内取引についても移転価格税制が適用され、独立企業間原則に基づき取引条件を決定し、文書化を行う必要があります。

Ⅴ おわりに

多くの国において、本FTTPガイダンスは速やかに適用され、場合によっては、遡及(そきゅう)的に適用される可能性があります。本FTTPガイダンスは、各国の税務当局の金融取引の移転価格に対する論拠やスキルを強化するものであり、今後税務調査において金融取引が確認されるケースが増えることが予想されます。こうした税務リスクに備えるためにも社内の財務習慣や移転価格ポリシーの確認、および金融取引の移転価格文書化が推奨されます。

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