情報センサー

変貌する「アクチュアリー」が活躍するフィールド

2020年11月2日 PDF
カテゴリー EY Consulting

情報センサー2020年11月号 EY Advisory

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Consulting
野村 準

国内大手保険会社の主計部門を経て、2018年にEYに参画しアクチュアリーチームに所属。同社 マネージャー。一貫して保険会社のプロジェクトに従事している。経験したプロジェクトは、監査、EV(企業価値)のレビュー、IFRS17ベースの試算、Prophetを用いたモデル開発、VBAを用いた支払システムの包括的検証等多数。日本アクチュアリー会 正会員。

Ⅰ  アクチュアリーとは

皆さまはアクチュアリーという職業をご存知でしょうか。金融関係のお仕事をされている方であれば名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれません。
アクチュアリーとは、一言で言うと「確率・統計学等の数理的な手法を用いて、不確実な将来の分析を通して予測を行う数理業務の専門職」で「リスク計算の専門家」、プロフェッショナルです。
このアクチュアリーという専門職の資格を取得するには、公益社団法人 日本アクチュアリー会の実施する資格試験7科目に合格して、正会員になる必要があります。理論上最短2年で全科目に合格することができる試験ですが、実際には平均で8年を要するといわれています。ちなみに2020年3月時点で、約1,800人が正会員資格を保有しています。

Ⅱ アクチュアリーの活躍する領域

アクチュアリーが活躍する領域として、まず保険業界が挙げられます。保険業界は保険事業を通して、不慮の事故等から生活の安定を守ることを目的とした業界です。ちなみにこの保険業界が現時点でアクチュアリーが最も多く所属している業界となります。
次に、信託銀行や銀行などの企業年金業界が挙げられます。こちらは企業の退職金制度や退職年金制度の運営を通して、従業員の老後の生活の安定をもたらすことを目的とした業界です。
また、上記の業界に属する会社に対して、高度なアクチュアリーサービスを提供するコンサルティング業界があります。BIG4を始めとする監査法人においても保険会社の監査においては、アクチュアリーが負債サイドの監査をサポートすることになります。

Ⅲ アクチュアリーの業務

アクチュアリーが行っている業務について、幾つか例を挙げます。
例えば、保険会社の販売する保険商品の保険料の決定という仕事があります。これは名前の通り、保険会社が保険商品を開発する際に、その保険商品の保険料を決定するという仕事になります。実はこの保険商品の保険料の決定には高度な将来予測の技術を要します。
通常、財・サービスの価格の決定には原価が重要なファクターとなりますが、それは保険商品においても同様です。それでは保険商品における原価とは一体何なのでしょうか。
保険商品の場合、通常の財・サービスにおける原価に相当するものは、その保険に加入している契約者の群団から発生する保険金と保険サービスを提供するために発生した事業費の合計額になります。このことから保険料の決定について重要な論点が導かれます。それは通常の事業法人における財・サービスの原価は原則商品の販売前に決まりますが、保険商品の場合は商品の販売後に決まるということです。このように事後的に原価が決まるので、保険料の水準と販売後の費用(保険金と事業費)の発生状況次第では、最悪の場合赤字が出てしまうこともあります。特に保険期間が長期にわたる場合、将来の費用(保険金と事業費)の予想は難しいため、適切な値付けを行うことは保険事業を行う上では非常に重要だと言えます。そこでアクチュアリーが確率統計手法を駆使して、将来の収入・支出を予測することになります。
アクチュアリーの他の仕事としては、保険に係る債務の見積りやリスク管理があります。それらの仕事についても将来に関しての分析と予測に基づいて、保険会社が将来にわたって全うする責務に備えて、現在負債として積み立てておくべき金額を見積もって、「責任準備金」や「支払備金」として負債計上します。保険会社のバランスシートの負債サイドの90%以上が責任準備金および支払備金であり、それを評価するアクチュアリーは重要な責務を担っています。

Ⅳ アクチュアリーの進出する新しい業務

最近では従来の枠を超えて、アクチュアリーが活躍の幅を広げています。そのうちの幾つかを紹介します。

1. ERM(全社的リスク管理)

近年ではITの発達とグローバル化を背景に、リスクの性質が複雑化しています。またリスクには多くの種類があり、それぞれのリスクが複雑に絡みあっていることも珍しくはありません。そのため、会社を取り巻くリスクを全般的に可視化し、それらを統合して管理することが重要になってきます。実は、アクチュアリーの世界ではこのような分野がすでに確立しており、それをERM(全社的リスク管理)といいます。
従来、アクチュアリーはリスクの管理を得意としてきました。それは保険会社がリスクを引き受けてビジネスを行うという業態上からの要請によるところが大きいわけですが、リスクにさらされているのは何も保険業界に限りません。特に、銀行業界、商社業界、エネルギー業界、といった業界は保険業界と同じぐらい多くのリスクにさらされながらビジネスを行っています。
近年ではアクチュアリーが銀行業界やエネルギー業界等にてERM(全社的リスク管理)の責任者として活躍するケースも増えてきています。

2. データアナリティクス

データアナリティクスとは、大量のデータを統計学・機械学習の手法を用いて分析することによってモデリングを行い、ビジネス上のソリューションを提供することです。
最近、巷(ちまた)ではデータサイエンティストという職業が知名度を得ていますが、データを使ってビジネス上のソリューションを提供する、というのはアクチュアリーが大昔から行ってきたことです。ある意味、アクチュアリーはデータサイエンティスト的な要素を備えているともいえるでしょう。
保険業界でのプラクティスを活かして、伝統的な保険・企業年金業界にとどまらず、果てには金融業界を超えてさまざまな業界でデータアナリティクスのサービスをアクチュアリーが提供するという機会が増えてきています。

Ⅴ おわりに

アクチュアリーの活躍するフィールドは拡大しており、欧米では保険、企業年金といった伝統的なアクチュアリー業務以外のサービス機会が進展しています。それに呼応して、海外と同様に日本のEYのアクチュアリー部門も昨今強化していますので、会社経営に数理的統計的なアプローチを考えられているお客さまにはぜひお問い合わせいただきたいと思います。

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