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Going Public -パブリックブロックチェーンのエンタープライズ 用途での活用に向けたEYの取り組み-

2020年12月1日 PDF
カテゴリー EY Consulting

情報センサー2020年12月号 EY Advisory

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)
Digital & Emerging Technology 松尾康男

外資系コンサルティング会社、欧州ソフトウェア企業を経て2019年より現職。ブロックチェーン、IoT、AIなど先端テクノロジーを活用して、企業や自治体などでのデジタルトランスフォーメーションを支援している。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) アソシエートパートナー。

Ⅰ  はじめに

菅新内閣の発足に伴い、過去数十年手付かずだった行政手続きのデジタル化が、河野行政改革担当大臣などの強力なリーダーシップのもと進展を見せようとしています。また新型コロナウイルス感染症が世界経済に大きな影響を及ぼす中、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)やリモートワークなど新たなワークスタイルへの変革も急速に進んでいます。
本稿では、企業や自治体等のDX推進において、パブリックブロックチェーンを活用するメリットについて、EYの考えを紹介します。

Ⅱ ERPの限界

Facebookが計画を発表した暗号資産「Libra」をきっかけに、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の発行に向けた機運が各国で高まってきています。実際に、中国では2020年10月より5万人を対象に150万ドル相当のデジタル通貨を発行し使用する公開テストが開始されています。一方、エンタープライズ領域でのブロックチェーンの活用は、さまざまな業界においてPoC(Proof of Concept:概念実証)、実証実験、パイロットといった類いは多いものの、商用サービスでの活用はまだまだ限定的なものとなっています。
お客さまへブロックチェーンソリューションのご紹介をしていると、わざわざ分散型台帳やスマートコントラクトといった技術を使わなくても、従来型のデータベースやERP、EDIなどでカバーできるのではといった意見をよくいただきます。
企業内での業務処理については、確かに"適切に"ERPを導入すれば効率化が図れますが(日本企業の多くは適切に導入できていないのが実態)、サプライチェーンなど多くの業務プロセスは企業内に閉じることはなく、複数企業や消費者をつないで成り立っています。このようなプロセス全体を通してみると、多くのシステムや紙の伝票などが混在しているのが実情です。EYは、パブリックブロックチェーンは、ERPが企業内で実現したことを、複数企業のエコシステムの中において実現するものと定義しています。

We believe public blockchains will do for business ecosystems what ERP did within the enterprise. (Paul Brody, Ernst & Young, Global Blockchain Leader)

Ⅲ Going Public ~EYのブロックチェーンプラットフォーム戦略

EYが提供しているブロックチェーンソリューションは、従来ERPがカバーできていなかった企業間(B2B)でのプロセスをつなぐだけではなく、分散型台帳によりデータの改ざんを防ぎ、さまざまな資産をトークン化しスマートコントラクトにより自動処理することにより、企業がDXを推進するための新たなソリューションを提供します(<図1>網掛け部分をEYが提供)。

図1 EYブロックチェーンソリューション全体図

ブロックチェーンプラットフォームには、あらかじめ参加を認められた企業のみが参加するプライベート(もしくはコンソーシアム)型と、Bitcoinやイーサリアムに代表されるパブリック型が存在しています。エンタープライズ用途の多くでは、情報セキュリティなどへの懸念からプライベート型が使われているケースが大半です。
EYは、イーサリアム関連のソフトウェア企業ConsensysおよびMicrosoftと共同で、パブリックブロックチェーンであるイーサリアムをエンタープライズ用途で活用することを目指すオープンソースソフトウェア"Baseline Protocol※1"の中心的役割を担っています。
パブリックブロックチェーン利用に当たって最大の懸念となるのは、B2BもしくはB2Cでやり取りされるトランザクションへのプライバシー確保です。EYは、ゼロ知識証明技術(ZKP:Zero Knowledge Proof)を利用しトランザクションの匿名化を図るNightfallという技術を開発し、Baseline Protocolのコンポーネントとして提供しています。イメージとしては、自宅からインターネット経由で会社のシステム環境へアクセスする際に、VPN(Virtual Private Network:仮想専用線)で接続することで、データ通信のセキュリティを確保するのに近いかもしれません。
パブリックブロックチェーンの利用においては、企業が必要とする処理スピードを満たすことができるかが次なる課題となりますが、第3世代に当たる最新の"Nightfall"には、複数の証明をバッチ処理するツールなどが追加されており、一度に最大20件のトランザクションをゼロ知識証明で処理することができるほか、トランザクション1件当たりの処理コストをおよそ0.05米ドルに削減することが可能です。
とはいえ、パブリックブロックチェーンへの懸念が依然として高いことを考慮して、EYでは、POCや実証実験の段階ではイーサリアムベースのプライベート環境(Quorum)を利用し、その後パブリックブロックチェーン上のイーサリアムへ機能を移行するという、相互運用性(インターオペラビリティ)を重視した導入アプローチを推奨しています。

Ⅳ Baseline Protocolの適用事例

20年3月に最初のバージョンがリリースされて以降、Baseline Protocolの利用が拡がってきています。北米最大のコカコーラボトラー業者のパートナー組織「Coke One North America(CONA)」は、Provide社及びUnibright社と共同で、19年よりプライベートブロックチェーン(Hyperledger Fabric)を利用し、12社のボトラー間でのサプライチェーンの透明性を高める取り組みを進めてきました。プロジェクトの参加社を缶やボトルを供給する原材料ベンダーなど外部のサプライヤーにまで拡大する「Coca-Cola Bottling Harbor」の立ち上げに当たり、CONAはBaseline Protocolを利用することを決定し、現在開発を進めています。これによって、サプライチェーンの効率化のみならず、さまざまなDeFi(Decentralized Finance)※2サービスや資産運用方法で参加者のキャッシュ・フローを改善する効果にも期待が寄せられています。
EY自身も、自社がこれまで開発してきたブロックチェーンソリューションをパブリックブロックチェーン上でも稼働させる取り組みを進めており、その第1弾として、20年9月末に企業がプライベートで安全かつエンドツーエンドの調達活動を可能にする「EY OpsChain Network Procurement」をリリースしています。

Ⅴ おわりに

EYは、国内でも日本酒の流通プロセスの透明化と品質確保に向けたSAKE Blockchainや、カナダトロント市などで利用されている予算統制管理ソリューションPublic Finance Managerのローカライズなどの取り組みを進めてきています。パブリックブロックチェーンが、企業や自治体でのDXを加速させるよう、引き続き取り組みを強化していきたいと考えています。

※1 https://docs.baseline-protocol.org/

※2 DeFi(分散型金融)とは、ブロックチェーン上でプログラムの形式で実装された金融サービスを指す。取引に人が介在しないため、圧倒的に安いコストでトークン化された資産に対する融資といったサービスが実現可能。

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