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情報センサー2021年新年号 新年特別対談

パラダイムシフトを迎えた日本社会と、加速するイノベーション

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ウェルネット株式会社
代表取締役社長
宮澤一洋(写真右)
EY新日本有限責任監査法人 理事長
公認会計士
片倉正美(写真左)
2021年の新年特別対談は、当法人のContinuous Auditing(継続的監査手法)をパイロット導入してくださっているウェルネット(株)の宮澤一洋代表取締役社長をゲストにお迎えし、適用企業側の視点を交えた継続的監査手法の取り組みの紹介、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進における日本企業の課題や必要とされるイノベーションについて、当法人理事長の片倉正美とそれぞれの思いを率直に語り合っていただきました。

Ⅰ DX推進の機運が高まった今こそ、日本企業全体を巻き込むイノベーションを

AIの活用で、新たな監査とインサイトを提供
片倉
本日はDX推進やイノベーションをテーマとして掲げていますが、これ以上ないゲストをお迎えできました。御社は金融業界においてこれまで数々のイノベーションを成し遂げてこられたと認識しております。まず初めに読者への紹介も兼ねて、御社のご紹介をいただいてもよろしいでしょうか。
宮澤
弊社は決済処理サービス、認証サービスを事業内容としています。16人ほどのベンチャー企業として紙のコンビニ決済システムを手掛けたことに始まり、リアルタイムでのオンライン決済システム、特に航空3社が導入したクレジットカードなしでもチケットが購入できる決済システムを新たに構築したことが大きなイノベーションになりました。QRコードで認証と決済を結び付けるサービスをリリースした後は、スマートフォンの急速な普及拡大に伴って認証・決済サービスは一気に拡大しましたが、コンビニ決済についてはやり方次第でまだまだ大きな可能性を秘めているので、現在も新たな取り組みを進めています。
私たちは朝起きてから寝るまでの間、常になんらかの不便や不満、不安を感じています。それらを漠然とした思いで終わらせるのではなく、解決方法を模索し続け、自分たちのビジネスで解決できるか糸口を探ることで感度が磨かれていくと思います。そして、もしチャンスがあると思えば、速やかに行動するスピード感も必要です。私たちが開発してきたサービスの数々は、日常生活の中で多くの人が体感する想いから生まれており、それをもとに自社がプラットフォームとして開発し、提供しています。
片倉
ありがとうございます。まさに御社の企業理念である「あったら便利なしくみを作り続けることで社会の発展に貢献すること」が事業活動やイノベーションの根幹になっていることがよく分かります。受託開発をせずにプラットフォームを新規に構築し、社会に提供しておられることも、御社の大きな特徴であり、強みですよね。
一方、私ども「監査法人」は規制産業の特性からか、イノベーションとは遠い存在と思われがちですが、会計監査を取り巻く環境は社会構造の変化やクライアントのビジネスモデルの変革、DXの推進などを契機にイノベーションの必要性が日に日に増してきています。このようなダイナミックな環境変化を踏まえた社会の期待やクライアントニーズに応えるために、当法人が目指す次代の監査・保証サービスの姿が「Assurance 4.0」であり、最先端のテクノロジーを駆使したデータ活用を推進することで従来にはなかった正確性やスピード感を伴った監査とインサイトの提供を目指しています。そしてその核の一つが、AIと全量データを活用した、リアルタイムなリスク識別の追求を目指す継続的監査手法です。継続的監査手法は、クライアントのビジネス形態、会計システムの構成、データの保有状況などに応じて適用する企業ごとのカスタマイズが必要とはなりますが、ポイントは、クライアントの会計システムとの常時接続を行うとともに、特定の勘定科目についてデータの取り込みから一部の実施すべき監査手続の完了までを一切ヒトの手を介さずに自動化し、年間を通じて適時に検証を完了させることができる点だと思っています。
継続的監査手法への取り組みを通じて
宮澤
従来は過去に焦点を当てた監査だったと思いますが、継続的監査手法は未来志向で組み立てられていることが特筆すべき点だと思っています。経営者は先を見ている人種ですから、監査基準等の要求により仕方がないと理解しながらも、一方で過去の数値の検証に企業側、監査人側ともに膨大な時間とリソースを取られてしまうことを非常にもったいないと思ってしまいます。
システム監視で異常なプロセスが発生するとパトライトがまわって人がチェックするように、最終的には予兆を監視できるような監査が理想ではないかと私は考えています。今は蓄積したデータを過去にさかのぼってチェックしていますが、リアルタイムで監視し、問題が起こる手前の段階でアラートが出て対応できれば企業側の生産性は飛躍的に高まります。継続的監査手法はまさにこのあったらいいなという経営者の想いを実現できる可能性のある取り組みであるとともに、日本経済の未来を考えるうえでも意義のあるイノベーションと感じたため、パイロットのお話を伺ったときはぜひともやらせてほしいと即答させていただきました。
片倉
ありがとうございます。御社にパイロットとなることをご同意いただき、一歩も二歩も進んだことに心から感謝しております。継続的監査手法の適用においては、事業のオペレーション、記帳などが高度に自動化されている事業との親和性が相対的に高いですが、御社においては取引の上流から会計仕訳の起票をはじめ、取引事業者への入金などに至る業務が相当程度自動化されていたこともパイロット適用としてうまくいった一つの大きなポイントであると考えています。継続的監査手法を実際に適用した企業側としての率直な感想や課題なども教えていただけますでしょうか。
宮澤
適用に当たっては担当の会計士と本当にいろいろな議論を行いました。これまでの監査におけるコミュニケーションよりも深い対話を通じて経営管理の向上に繋がるさまざまな再整理や気づきを得ることができたと感じています。互いのシステムを常時接続させてデータ取得を自動化することがゴールではありませんので、システム上におけるより望ましいデータの持ち方について現状とあるべき姿に向けたギャップの特定や、取引実態と会計データの流れについてより見える化を行うなど、データの自動取得後における自動化検証プログラムの構築に向けてなにが望ましい形であるかについても意義のある議論ができたと思っています。経営者としてこれは単に監査の議論ではなく、経営そしてガバナンスとしても適時のリスク識別や異常検知に繋がるような効果のより高い仕組みを創ることを意識しています。その過程でシステム開発の投資も一部行いましたが、企業としての未来に向けた意味のある投資と捉えています。経営者にとって会計をはじめとする幅広い知見に基づく客観的な意見をもらえることは監査法人と付き合う大きなメリットと思っていますので、このようなディスカッションや提案は大きな魅力であり、監査法人には客観的な視野を持つアドバイザーとしてサポートしてもらいたいと世の中の経営者も望んでいるのではないかと思っています。いわゆる作業は徹底的な効率化、自動化、ロボット化を行い、生み出した人間のリソースを本来果たすべき創造的な業務に力を入れることが重要だと思っています。例えば経営に対する知的クラウドサービスを提供できるような方向性を見出していただくと、企業側としてはさらにありがたいのではないでしょうか。
片倉
片倉正美氏
「IT化によって、創造的かつ人間性のある監査がより強く求められていると感じます」
おっしゃる通りで、IT化が進めば進むほど人間回帰、つまりは人として考え、動くことの大事さをより強く実感しています。
AIの進化によってなくなる仕事の一つに会計士が挙げられることがありますが、むしろ逆だと思っています。IT化によって会計士が従来行っていた一種のルーティン業務が著しく軽減し、その分、会計士でなければできない業務に注力できるようになるのです。現状では、会計期間末の翌月にお伺いし、お借りした会議室で黙々とPC作業をするのが一般的な会計士の姿でしょう。しかし、私がこの業界に入った頃などはPCの台数が限られていたこともありますが、企業側と多くのディスカッションを行い、数値だけでなくいろいろな情報を吸い上げた上で提案を行っていたものです。会計の専門知識を有する第三者でありながら内情も熟知した稀有(けう)な存在として経営陣とディスカッションを重ね、「この会計士に相談をすればなにかヒントをもらえる」と頼りにしていただく。それがクライアントにとっての付加価値であり、会計士という仕事のやりがいや面白さであるはずです。
私どもの進めているAssurance4.0はまさにこの発想が織り込まれており、監査の担い手とともに監査の進め方の抜本的な変革を行うことで、監査の品質は維持したまま監査プロフェッショナルの業務時間を大幅に削減していきます。その時間を活用して会計監査を通じて識別したクライアントのさまざまな課題について、品質を軸とした新たな価値の提供を進めていきたいと考えています。われわれの深い洞察とクライアントとの深い対話を通じてより価値のある気づきや提案を行っていく継続的監査手法の導入を機に、会計士業界があらためてそういった点を見直す大きなきっかけとなることを確信しています。
さらなる進化へ向けて
宮澤
宮澤一洋氏
「過去の見直しではなく、未来への指針を提供してくれる継続的監査は経営者にとって非常に魅力的です」
継続的監査手法への取り組みの成果は、先ほど申し上げたように一定の成果が出ていますが、この程度にとどまらないのではないかと思っています。まだ途に就いたばかりなので、これからも継続的に課題を発見し、トライ&エラーの過程も含めてさらに深い議論をさせていただくことで適用企業側としてもより大きなメリットが得られるのではないかと期待しています。新しい試み、ましてやイノベーションには予想外の事象が起こることは当然です。これを失敗と捉えず、さらに上に行くための解決すべき課題と捉えて乗り越えていかなければイノベーションの波には乗れません。想定外の事象を起こり得るものとしてビジョンに織り込んでいくという感覚を組織のトップが有しているかどうかが、変化の著しいこれからの社会において非常に重要ではないでしょうか。さらにイノベーションの効果を高めるためには、継続的監査手法であれば個別企業に特化した開発を行うのではなく、プラットフォーマーとしてより汎用(はんよう)性を高め、より広く社会に通用する仕組みを構築いただくことが日本の社会にとっても非常に有益ではないかと感じています。
片倉
貴重なアドバイスを頂きありがとうございます。おっしゃる通り、企業のそれぞれが異なるシステムを使い、データに対する考え方も違うためカスタマイズを求めがちですが、まずは汎用性を持たせる方向で進化させていくことが大きなチャレンジだと認識しています。その視点は私どもが目指している方向とも同じであり、大変参考になります。今後としては、自動取得したデータを私どもがすでに開発しEYグローバルでも導入がなされているAIを使った異常検知プログラムであるEY Helix General Ledger Anomaly Detector (Helix GLAD)とも接続させることにより適時の異常検知、リスク識別機能をさらに向上させる検討を進めています。また、フォアキャストアナリティクスの領域での研究と開発も進めており、将来を予測して異常点を予兆検知していくことができれば、リスクを未然に回避するなど、継続的監査手法を通じて経営者側、ガバナンス側ともにより大きな付加価値を提供できるようになると考えています。クライアント側のDXと併せて継続的監査手法のパイロットを増やしながら、いろいろな未来に広がる選択肢を提供していけたらと考えています。

Ⅱ DX推進の鍵は、共有を軸とする効率化と長期的視点

管理部門のクリエイティブ化を推進
片倉
ここまで継続的監査手法についてお話を伺ってきましたが、ここからは少し大きな話題にシフトしていきたいと思います。新型コロナウイルス感染症などの影響もあり市場環境は大きく変化する中で、DX推進の機運もいままで以上に高まってきていますが、一方で多くの日本企業が同一企業内において多種多様なシステムやデータの持ち方をしていることがDX推進に当たっての大きな障壁の一つであるともいわれています。特にコーポレート機能のDXを実現していくにはどうすれば良いと思われますか。
宮澤
今あるものを土台として生かすことを前提に上へ上へと無理に組み上げようとしても想定する形にはなりません。それどころか膨大なコストがかかる可能性もある。かといってデータや数字だけを示して新しい提案をしても受け入れられにくい。そこで現在のことだけをスポット的に考えるのではなく、5年先、10年先のビジョンも具体的に示しながら、そのために今、選ぶべき最良の策を提案することが大切でしょう。
極論をいえば、企業会計は自製でなく外注でもいいのではないでしょうか。企業会計を専門としてまとめて提供する会社があり、そこが作成者側の機能としてアラートを出す仕組みを持っていれば、日本の間接部門の生産性は飛躍的に向上するはずです。政府の意向や法律の改正を含めたクラウドサービスがきちんと提供されていて、このサービスを利用している限り、決算を間違えることは絶対にない。その上で監査法人がコンサルテーションや詳細な説明、提案などの付加価値を提供してくれたら、多くの経営者は安心して前に進めるのではないかと思います。
片倉
私どもも、既存システムにアドオンして、クライアントに膨大なコストと手間がかかることは避けたいので、システム改定のタイミングで将来的な可能性を俯瞰(ふかん)しながら提案を行っています。一方で、デジタル庁は政府のIT化に集中する予定と聞いていますが、会計システムのデータの持ち方についても最低限のプロトコルが日本国として定まれば、会計に関してはかなりツールに反映させやすくなるのではないかと感じています。現在は監査法人ごとにツールを有していますが、データの形式は統一しておく方が効率的です。日本企業全体の効率化という側面で考えると、監査法人間の垣根を越えた横断的な仕組みを整備することを第一に優先すべきではないかと思っています。
宮澤
素晴らしいお考えです。DXの推進にはそうした利他的な視点が不可欠です。管理会計は各企業がそれぞれのやり方を採用し、監査法人にはクリエイティブな面での伴走者、相棒のようなかたちで経営のコーチングをする存在にシフトしていただきたいですね。
会社の管理部門も日々の処理に追われ、会社の方針をどう対応していくのか、クリエイティブな部分にまで手がまわっていません。だからこそ、このタイミングで抜本的な改革ができれば日本企業全体が創造的になっていく。管理部門こそ、クリエイティブな発想を持つ必要があると感じています。
片倉
確かに、クリエイティブな管理部門というのは従来になかった考え方であり、非常に斬新ですね。
宮澤
むしろDXによって創造性を高められる最たる部門ではないでしょうか。もちろん、仕組み自体が間違っているとミスが継続的に発生して膨大なほころびとなってしまうため、監視システムやアルゴリズムは、会計や監査のクラウドサービスに必要不可欠であることが大前提です。
片倉
現在はテクノロジーを使って監査の質を高める取り組みを行っていますが、データアナリティクスで異常点を検出するといったノウハウは、監査法人が監査手法として保有するほか、企業側で内部統制の一環として持っていてもいいかもしれません。その上で、企業側が持っているAIのアルゴリズムが誤っていないか、バイアスがかかっていないかといったことを監査法人が第三者として見ていくことができれば、デジタル時代の保証、まったく新しい分野の保証という新たな展開へと広がっていくのではないかと考えています。
社会全体のDX推進のために
宮澤
弊社は航空大手が別々に作っていたシステムをクラウドサービスにし、共用できるようにしました。もともと決済は両社にとってコアビジネスではありませんし、共用できればはるかに効率的です。同じことが会計や監査にも適用されるべきであり、企業が別々にやっていることを監査法人が共有システムとして効率的に運用することで企業は自社のコアにリソースを集中することが可能になる。社会全体のDX推進のためにもそういう流れを進めていただくといいのではないでしょうか。
片倉
日本では共用システムの効率的な運用という発想が出てきたばかりですが、海外ではかなり前からそのような流れになっており、将来的には世界的なスタンダードになっていくと思います。私どもとしても取り組みを加速していきたいと考えております。

Ⅲ 強い意志でイノベーションを推進することが、豊かな社会の発展を牽引していく

片倉
クリエイティブな管理部門という表現、非常に印象的ですが、やはりDX推進に向けて解決すべき課題が多く、なかなか思うように進められていない現状に直面している企業も多いのではないかと思います。特に、大規模な企業ほど難しい側面もあるかと思いますが、アドバイスなどご教示いただけないでしょうか。
宮澤
極論かもしれませんが、トライしてみることが重要だと思います。私どもが事業を立ち上げられたのは、何も知らないが故に思い切ってスタートさせることができたからです。もちろん、相応のリスクは伴いますが、会計をはじめとするさまざまな管理業務を標準化、自動化させることは経営の競争力を高める上で必須ではないかと思います。その中で監査の自動化も少なくとも大きな潮流だと思っていますので、自動化によって課題が浮き彫りになり、ディスカッションを重ねる中で改革が行われ、イノベーションが生まれるもとになることを考えると、チャレンジする価値は十二分にあると思います。
片倉
私どもも継続的監査手法に言及し始めた当初は、周囲から夢物語だと言われました。しかし、まずはやってみなければ変わらないという強い意志を持って計画を推し進めたところ、御社のように賛同してくださるクライアントに恵まれ、短期間で着実に前進できました。本当にありがたく、大きな一歩だと思っています。これからも課題を一つずつ解決しながら前に進んでいきたいと思います。
宮澤
世の中の経営者は、監査法人やそのトップである理事長がこのような斬新な発想を持っていることに気づいていない方も多いのではないでしょうか。本日お話をして、監査法人は社会において重要なポジションであり、その監査法人がこれほど斬新な視点と取り組みで監査業界のDXを進めていることは日本社会のDX進展の必ずや後押しとなり、将来はいい方向に進んでいけるのではないかと確信しました。監査という分野においてイノベーションを起こすやりがいや面白さを再認識でき、またさまざまな未来志向でのお話ができて非常にわくわくしました。
片倉
こちらこそ。さらに自信をもって継続的監査手法を推し進めていく勇気をいただきました。お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。