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情報センサー2021年新年号 会計情報レポート

改正開示府令に基づく開示事例の分析 後編

会計監理部 公認会計士 前田和哉
監査事業部において、国際財務報告基準(IFRS)適用企業の会計監査業務に従事するとともに、品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示制度に関する相談業務などに従事。2018年から2020年の間、金融庁企画市場局企業開示課に在籍し、開示府令改正、記述情報の開示の好事例集の収集や財務諸表等規則の改定の業務に従事。

Ⅰ はじめに

2020年3月期以降の有価証券報告書において開示される記述情報※1及び「コーポレートガバナンス等の状況」に記載される「監査の状況」のうちの一部の項目については、18年6月の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下、DWG報告)における提言を踏まえて19年1月に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、改正開示府令)が原則適用となり、改正後の規定に基づく開示が行われています。
後編では、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」と「監査の状況」について、改正開示府令や「記述情報の開示に関する原則」※2の内容をあらためて確認するとともに、今後の有価証券報告書の作成に当たり、参考になると考えられる当該改正等を反映した開示例について紹介します。なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

1. 改正開示府令の内容

DWG報告において、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下、MD&A)に関する開示は、経営者の視点による分析が不十分であり、事業セグメントの分析・開示については、コーポレートガバナンス改革の観点から求められている事業ポートフォリオの効率化、ひいては資本効率の向上の観点から重要との指摘がなされていました。そこで、改正開示府令では、有価証券報告書のMD&Aにおいて、経営方針・経営戦略の記載内容等と関連付けた経営成績等の分析内容の記載や、キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載については、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向の経営者の認識を含めた記載などを具体的に、かつ、分かりやすく記載することとされました。
加えて、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載することとされました。 (<表1>参照)


表1 MD&Aの改正のポイント

2. 記述情報原則の内容

記述情報の開示に関する原則では、MD&Aに関する開示を「MD&Aに共通する事項」「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報」「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」の三つに区分し、それぞれの開示の考え方や望ましい開示に向けた取組みが示されています。
まず、「MD&Aに共通する事項」では、MD&Aは、経営方針・経営戦略等に従って事業を営んだ結果である当期の経営成績等の状況について、経営者の視点による振り返りを行い、経営成績等の増減要因等についての分析・検討内容を説明するものであるとされ、当該開示により投資家は、企業が策定した経営方針・経営戦略等の適切性を確認することや、経営者が認識している足許の傾向を踏まえ、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となるとされています。
次に、「キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報」では、経営方針・経営戦略等を遂行するに当たって必要な資金需要や、それを賄う資金調達方法、さらには株主還元を含め、経営者としての認識を適切に説明することが重要であるとされ、当該開示によって投資家は、企業の経営方針・経営戦略等の実現可能性、成長投資、手許資金、株主還元のバランスに関する経営者の考え方や企業の資本コストに関する経営者の考え方を理解することも可能となるとされています。
そして、「重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定」では、見積りと実績との差異などにより、企業の業績に予期せぬ影響を与える可能性があるため、経営者の関与の下、充実した開示が行われることが重要とされています。
企業はこのような考え方と望ましい開示に向けた取組みを念頭に置き、開示内容を検討する必要があると考えられます(<表2>参照)。


表2 MD&Aの開示における望ましい開示に向けた取組み

3. 開示例

以下では、改正開示府令の下で記載が求められているMD&Aの記載事項として、記述情報の開示に関する原則を踏まえ、実務上参考になると思われる事例を紹介します。
A社の開示では、経営指標・管理指標として採用しているROAについて、ROAの構成要素である収益性と効率性に分解し、それぞれをセグメントごとに比較分析した内容を記載しています(<図1>参照)。このような開示は、経営戦略等に関連付けられた経営指標の達成状況について、セグメントごとに深度ある分析の開示と考えられます。

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B社の開示では、CFOメッセージとして、事業投資などの資金需要やそれに対する資金調達方法、株主還元の方針を記載しています(<図2>参照)。このような開示は、経営戦略に基づく事業投資とその具体的な資金調達方法や株主還元方針について、経営者の考えが具体的に記載されている開示と考えられます。

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また、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について、C社の開示では、営業権及びその他の無形固定資産の減損について、減損の要否の判断をどのような仮定に基づいて判断しているか、その仮定が変動した場合の影響について記載をしています(<図3>参照)。このような開示は、会計上の見積りによって、企業の業績に予期せぬ影響を与えるリスクを低減させる開示と考えられます。

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Ⅲ 監査の状況

1. 改正開示府令の内容

DWG報告では、有価証券報告書におけるガバナンス情報を充実・整理してガバナンス情報の総覧性を高める必要があるとの指摘や取締役会や委員会等の具体的な活動状況の記載を求めるべきとの指摘、会計監査の信頼性確保に向けて、諸外国において求められている開示と同様の開示を求めるべきとの指摘がなされました。
そこで、改正開示府令では、監査役会等の開催頻度や主な検討事項、会計監査人の継続監査期間等について記載が求められています(<表3>参照)。


表3 「監査の状況」の主な改正のポイント

なお、「監査の状況」を含むガバナンス情報の開示についての考え方や望ましい開示に向けた取組みについては、記述情報の開示に関する原則に示されてはいません。

2. 開示例

以下では、改正開示府令の下で記載が求められている「監査の状況」の記載事項のうち、「監査役会等の活動状況」と「会計監査人の継続監査期間」について、実務上参考になると思われる事例を紹介します。
まず、「監査役会等の活動状況」について、D社の開示では、監査役会での主な議論の内容や監査役会の開催回数と監査役の出席回数に加え、1回あたりの所要時間や議題を決議事項・報告事項・審議協議事項に区分し分かりやすく記載しています(<図4>参照)。このような開示は、監査役会等での議論の内容に加え、監査役会等の権限の範囲やその機能の有効性についての理解が深まる開示と考えられます。

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次に、「会計監査人の継続監査期間」について、E社の開示では、監査法人の組織再編以前の監査期間も含めて記載しています。また、継続監査期間の調査が困難であったことと、継続監査期間が記載年数を超える可能性があることを記載しています(<図5>参照)。

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継続監査期間の算定については、継続監査期間が長期に亘る場合や監査法人または企業において組織再編が行われている場合等、その算定が困難となる場合があると考えられます。この点について、19年1月31日に金融庁が公表した「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 36」に考え方が示されており、継続監査期間の算定に当たっては、基本的には、可能な範囲で遡(さかのぼ)って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記することが考えられるとされています。
継続監査期間の開示においては、このパブリックコメントに対する金融庁の考え方を踏まえて検討することが重要と考えられます。

Ⅳ おわりに

改正開示府令の適用に合わせて、「記述情報の開示に関する原則」に加えて「記述情報の開示の好事例集」が金融庁より公表されています。「記述情報の開示の好事例集」には、改正開示府令が目指している開示例が収録されています。「記述情報の開示の好事例集」も確認することで、有価証券報告書における記述情報やガバナンス情報の記載内容についての理解がさらに促進されると考えられます。
今後の有価証券報告書の開示の充実に向けて、本稿がその一助となれば幸いです。


  • ※1本稿において記述情報とは、有価証券報告書に記載される「経営方針、経営戦略及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に関する記載をいう。
  • ※2有価証券報告書の記述情報の開示の考え方、望ましい開示に向けた取組み方を整理することを目的としたプリンシプルベースのガイダンスとして19年3月に金融庁より公表。

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