刊行物
情報センサー2021年2月号 IFRS実務講座

IFRS財団評議員会
サステナビリティ報告に関する協議文書を公表

IFRSデスク 公認会計士 北出旭彦
当法人入所後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカル・コンサルテーション、執筆活動などに従事している。

Ⅰ はじめに

IFRS財団評議員会(以下、評議員会)は2020年9月、「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー(以下、協議文書)」を公表しました。本協議文書は、利害関係者にとって重要性が増加しているサステナビリティ報告に関して、その複雑性を低減し比較可能性を改善するためのサステナビリティ基準の開発におけるIFRS財団の役割を広く協議するために公表されました。本稿では、本協議文書の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 背景

評議員会は投資家や企業、規制当局など、サステナビリティ報告に関与する多岐にわたる利害関係者と対話を通じて、サステナビリティ報告が利害関係者にとって重要度が増加していることを認識しました。また、対話の中では、財務報告基準と同等の一貫性及び比較可能性を保持したサステナビリティ報告基準の開発を要望する声が多く挙げられていました。
サステナビリティ報告に関する基準は現在でも存在するものの、基準設定主体やそもそもの基準の焦点の相違などから、多数の基準が乱立している状況にあります。例えば、非財務的な基準開発に焦点を当てたもの、非財務情報の枠組みに焦点を当てたもの、気候関連の開示に焦点を当てたもの等、多数存在しています。また、リスクが企業そのものに与える影響、もしくは、企業が環境に与える影響のいずれに焦点を当てるかによっても報告内容は変わることとなります。このような状況において、報告主体である企業は非効率が強いられているとともに、利用者は比較可能性が阻害されている状況にあります。また、最も切迫している気候関連の開示に関して、グローバルで一貫性のある開示の導入が遅れることが資本市場の低炭素経済への円滑な移行に対しての阻害要因になるとされています。従って、このような現状を打破することが喫緊の課題として考えられています。
IFRS財団は、すでに財務報告の領域において、専門性、透明性及び説明責任に焦点を当てたデュー・プロセスにより財務報告基準を開発してきました。IFRS財団の基準開発における既存の実績と専門知識、及び世界中の規制当局や政府との関係が、サステナビリティ報告の基準開発に有用であり、IFRS財団がその役割を担うべきであるとの要望が挙げられていました。今回の協議文書の公表は、そのような要望に応えるものであると考えられます。

Ⅲ 概要

1. 新たな審議会の設置

評議員会は、基準設定への第一歩として、評議員会の承認のもと、IFRS財団の傘下にグローバルなサステナビリティ基準を開発するための新しいサステナビリティ基準審議会(Sustainability Standards Board、以下SSB)を創設することを提案しています。その上で、最初に喫緊の課題である気候関連リスクに焦点を当てたサステナビリティ報告基準を開発していくことを想定しています。また、評議員会は、将来的には気候関連以外の分野にも焦点を当てることで、SSBの活動範囲を拡大する可能性を視野に入れています。
SSBをIFRS財団の傘下に設置することで、IFRS財団の既存のガバナンス構造を利用することが可能であり、これにより、既存の基準開発プロセスやデュー・プロセス及びIFRS財団のネットワークを利用することが可能となります。また、財務報告と一体性があり関連したサステナビリティ報告基準を開発するという目的と、主要な利害関係者に有用であるとするIASBの使命を同時に達成することができるとしています。

2. SSBと関係諸機関との連携

協議文書では、評議員会の構想の実現及び有効な運用のために、サステナビリティ報告に関する既存の知識、すなわち、利害関係者及び関係機関との連携が重要であることが強調されています。IFRS財団は基準開発における確立された専門性を有しており、既存の関係機関は新しいSSBに有用な知識を提供できると述べています。また、規制当局、投資家及び作成者を含む利害関係者等からのグローバルなサポートが必要不可欠であるとともに、関係機関が実施した既存の作業及び蓄積された知識を基礎とすることが重要であると述べています。

3. マテリアリティの概念

協議文書では、マテリアリティ(重要性)の概念についても言及しています。財務報告基準であるIFRSは財務上の重要性の概念に基づいており、情報が省略された場合に、財務諸表利用者の意思決定に影響を与えるかどうかに焦点を当てていることを示唆しています。
サステナビリティ報告に関するマテリアリティをどのように捉えるかについては、利害関係者によって意見が分かれており、一部の利害関係者は、SSBは報告企業に影響を与え得る限りにおいて関連性のある情報を提供することに重点を置き、投資家や他の利害関係者の意思決定を支援することに努めるべきであると考えています。他方、一部の利害関係者は"ダブル・マテリアリティ"の原則を参照して基準を開発し、報告企業がより幅広い環境に与える影響も報告すべきであると考えています。評議員会は、"ダブル・マテリアリティ"の原則を踏まえつつも、その複雑性が基準開発を遅延させる懸念を考慮して、まずは、利用者の意思決定に関連性の高いサステナビリティ情報に焦点を当てて検討を行い、その後その範囲を広げていくことを提案しています。

4. 保証の必要性

グローバルで一貫したサステナビリティ報告の実務を達成するために、サステナビリティ情報の外部からの保証の必要性についても言及しています。サステナビリティ報告基準を開発し標準化がなされたとしても、情報の信頼性にばらつきが生じることは避けられないとし、究極的には、サスティナビリ情報についての保証の枠組みが財務報告の保証の枠組みと同様になることが望ましいと述べています。

Ⅳ おわりに

今回の協議文書を通じて公表された評議員会の提案は、報告主体及び利用者双方にとって重要性が増しつつあるサステナビリティ報告の複雑性を排除し、明瞭性・利用可能性を高める結果に繋がると考えます。また、財務報告に関する基準設定主体であるIFRS財団が、非財務情報であるサステナビリティ報告基準の開発に関与することで、両者を関連させて一体となった基準の開発がなされることが期待されます。持続的でよりよい社会の構築のために、今後のIFRS財団の動向に注目していきたいと思います。
評議員会は本協議文書に関して各方面からのコメントを募集しています。コメント提出期限は20年12月31日であり、その後、フィードバックを受けて新たに議論を実施する予定です。