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IFRS第16号「リース」が物流業に与える影響

2021年2月1日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2021年2月号 業種別シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 物流業セクター 公認会計士 倉橋義典

当法人入所後、主に自動車メーカーの監査業務に従事した後、2016年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務などを担当。19年から物流会社の監査業務に従事している。

Ⅰ はじめに

国際財務報告基準(以下、IFRS)第16号「リース」が2019年1月1日以後開始する事業年度から適用され、3月決算の会社では20年3月期から適用となっています。日本の会計基準においては、IFRSに基づき作成された在外子会社等の財務諸表について一部の調整を加えた上で連結することが認められていますが、リースについては必須の調整項目ではないため、IFRSを任意適用する企業のみならず、多くの企業で影響が生じています。本稿では、IFRS第16号が物流業に与える影響のうち、3点について説明します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 物流業における主な論点

1. リース期間の判定

従来は、ファイナンス・リースと判断される一部のリース取引のみ資産計上が求められていましたが、IFRS第16号の適用により、原則として全ての借手のリースがオンバランスされることとなり、業種によっては多大な影響が出ています。物流業は、倉庫等の不動産や、輸送手段としての船舶や飛行機など比較的支払リース料が多額となるリース取引が多く、一般的に財務諸表上の影響が大きい業種といわれています。例えば、物流会社のDHLグループでは、180億ユーロあった有形固定資産が、IFRS第16号の適用により91億ユーロ増加し、271億ユーロとなりました。
IFRS第16号では、リース期間における支払リース料を割り引くことで資産・負債の計上額を測定します。リース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実と見込まれる延長オプション及び解約オプションの期間を加えて決定することになりますが、実務上、延長オプション及び解約オプションの行使見込みに関する判断は困難を伴うことが少なくありません。特に、物流業では前記のとおりリース料が多額となる取引が多く、リース期間も長期になりやすいため、その判定が財務諸表に与える影響も大きくなります。<表1>は、オプションの行使見込みの判断において考慮すべき要因の例です。例えば、医薬品や精密機械など、温度や湿度など特別な状態での商品の保管・運搬が必要な場合、リース資産に設備改良が施されることがあり、そのようなリース資産はリース期間がより長期に及ぶと判断される可能性が高まります。また、会社の物流網の根幹となる配送センターなどは、その立地や機能に営業上の重要性がある場合が多いため、延長オプションを行使すると判断される可能性が一般的には高まります。これらはあくまで考慮すべき要因の一つであり、実務上は、さまざまな要因を総合的に勘案し、借手に契約期間を延長する(または解約する)経済的なインセンティブがあるか否かを判断することになります。

表1 考慮すべき要因の例

2. 契約にリースが含まれるか否か

IFRS第16号では、リースを「特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部」と定義しています。これは、従前の基準と大きく考え方が異なるものではありませんが、使用権の「支配」の移転であることが明確化されたことにより、契約にリースが含まれるか否かの判断に変更が生じる可能性があります。物流業では、借手、貸手の双方の立場において、特定の資産を使用したサービス要素を含む契約が存在するため、当該判断が困難になる場合があります。
例えば、倉庫を使用した保管サービスを提供する契約がある場合、当該契約は保管サービスの提供なのか、倉庫(の一部)のリースなのかの判断が必要となります。また、海上輸送においては、船舶を利用した運送契約の他に傭船(ようせん)契約があり、当該契約は定期傭船契約や裸傭船契約など契約に付随する権利義務に応じて幾つかの形態に分かれます。これらも、輸送サービスの提供なのか、船のリースが含まれるのかの判断が必要となります。
これらの判断に際して、考慮すべきポイントの一例は<表2>のとおりです。ただし、これらはあくまで例示であり、その他の契約上の制限や要因も考慮した上で、最終的な判断を行う必要があります。また、<表2>は契約にリースが含まれるか否かの判断の際の要点のみを抜粋したものであり、実際に判定する際には、IFRS第16号のB31項のフローチャートをご参照ください。

表2 契約にリースが含まれるか否かを判断する際の一例

3. IAS第40号「投資不動産」との関係性

投資不動産に該当する資産を保有する場合には、自己使用不動産と区別して会計処理及び開示を行う必要があります。従来、オペレーティング・リースとして保有する資産については、その用途が投資不動産の要件を満たす場合には、条件付きで投資不動産として認識することを選択できましたが、IFRS第16号においては、全ての借手のリースについて使用権資産が認識され、その用途が投資不動産の要件を満たす場合には、投資不動産として認識することが必要となります。物流業では、その特性から各地に多くの不動産を有し、事業の一つとして不動産賃貸業を営む会社があり、また契約内容によっては倉庫が投資不動産に該当する場合もあります。IFRS第16号の適用で投資不動産の対象範囲が広がったことに伴い、不動産のサブリースを行っている場合には、当該資産の公正価値の開示が必要になる可能性があります。リース資産の公正価値については、その算出が一般的に困難となることが想定され、専門家の利用が必要となるケースも多いため注意が必要です。

Ⅲ おわりに

物流業は、他の業種に比べてIFRSを任意適用している企業が少なく、多くの企業が日本基準を適用しています。IFRSを適用している在外子会社等を有しない場合には、IFRSは関係のないものと捉えられがちですが、日本基準においても新たに開発される基準の多くはIFRSと整合したものとなっています。リースに関しても、現在、企業会計基準審議会が、全てのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に向けて検討を行っています。IFRS第16号の考え方を理解することは、近い将来行われるリース会計基準の改訂にいち早く対応し、財務諸表や内部統制に与える影響を早期に検討することの一助になると考えられます。

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