情報センサー

みなし配当に係る株式の発行法人の実務対応

情報センサー2021年2月号 押さえておきたい会計・税務・法律

EY新日本有限責任監査法 公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

ある上場会社が資本剰余金を原資とする配当を行う際、証券保管振替機構への交付金銭等情報通知が遅延したことを起因として、株主に対する配当につき、証券会社等を通じて誤って源泉徴収を行ったという事例が2019年にありました。18年にも同様の事例が生じています。
剰余金の配当については、利益剰余金と資本剰余金のいずれを原資とすることも可能ですが、税務上は、利益剰余金を原資とする場合はその全額が配当として取り扱われるのに対し、資本剰余金を原資とする場合はみなし配当が生ずる事由に該当するためその全額が配当となるわけではなく、いずれの剰余金を原資とするかによって取扱いが異なってきます。
本稿では、みなし配当が生ずる事由の概要と、その場合における株式の発行法人側の取扱いについて解説します。

Ⅱ みなし配当が生ずる場合および株式の発行法人の取扱い

みなし配当は、法人が株主等に対し、次の事由により金銭その他の資産を交付した場合において、その金銭の額および金銭以外の資産の価額が、その法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式等に対応する部分の金額を超えるときに、その超える部分の金額として株主側に発生します(所法25①、法法24①)。

所法25①、法法24①

【具体例1】A株式会社がA株式(自己株式)10株を株主Bから相対取引により1株当たり10,000円で購入した場合(A社の発行済株式総数100株、取得直前の資本金等の額300,000円)

具体例1

ここで、みなし配当が生ずる事由に該当しても、交付する金銭の額等が資本金等の額のうちその交付の基因となった株式等に対応する部分の金額を超えない場合にはみなし配当は生じません。前記【具体例1】の場合、A社の購入価格が一株当たり3,000円以下であればみなし配当は生じません。例えば、A社の購入価格が1株当たり2,500円であった場合には次のようになります。

具体例1_a

ここでは、株式会社を前提として、上記1.~5.について基本的な事項を確認し、特に組織再編と異なり手続が容易であるために誤りやすい4. 5.については具体例を交えて説明します。

1. 合併

合併とは、会社法の規定に従い、合併契約、株主総会での承認等の手続を経て、合併により消滅する会社の権利義務の全部を一の会社に承継させることをいい、同法では吸収合併と新設合併について規定されています。
一方、税務上は吸収合併と新設合併の区別はなく、適格合併(合併に際して株主等に原則として合併法人の株式以外の資産が交付されないもののうち、一定の要件を満たすものをいう)に該当しない場合のみみなし配当課税の対象となります。この場合、源泉税に充てるため、合併にあわせて被合併法人が最後事業年度の利益剰余金の配当を金銭で行うなどの方法による金銭の交付を検討します。

2. 分割型分割

分割とは、会社法の規定に従い、分割契約、株主総会での承認等の手続を経て、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させることをいい、同法では吸収分割と新設分割について規定されています。
一方、税務上は吸収分割と新設分割の区別はなく、分割法人(分割によりその有する資産または負債の移転をした法人をいう)が分割承継法人(分割により分割法人から資産または負債の移転を受けた法人をいう)から交付を受ける分割対価資産(分割により交付される分割承継法人株式その他の資産をいう)の全てがその分割の日に分割法人の株主等に交付されるものを分割型分割、交付されないものを分社型分割と区別しています(法法2十二の九、十)。会社法の手続では分割承継会社の株式は分割会社に交付されるため、そのままでは税務上の分社型分割に該当しますが、分割会社はその交付を受けた分割承継会社の株式を剰余金の配当として株主に交付することができることとされており(会社法758八ロ、763①十二ロ)、分割の日にこの交付を行う場合に税務上の分割型分割に該当することとなります。
次に、みなし配当については、分社型分割においては、株主等に金銭等が交付されないため生じません。分割型分割においては、適格分割(分割対価資産として原則として分割承継法人の株式以外の資産が交付されないもののうち、一定の要件を満たすものをいう)に該当しない場合のみみなし配当課税の対象となります。従って、適格分割に該当しない分割型分割の場合には、合併と同様、みなし配当に対する源泉税に充てるため金銭の交付を検討します。

3. 株式分配

会社法では、剰余金の配当を金銭以外の資産により行う現物配当が認められており(会社法454①④)、これは税務上の現物分配に該当します(法法2十二の五の二)。
株式分配とは、現物分配のうち、完全子法人(現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式等の全部を保有されていた法人をいう)の発行済株式等の全部が移転するもの(その移転を受ける者がその現物分配の直前において現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみであるものを除く)をいいます(法法2十二の十五の二)。
株式分配においては、適格株式分配(完全子法人株式のみが移転する株式分配のうち、完全子法人と現物分配法人とが独立して事業を行うための株式分配として一定の要件を満たすものをいう)に該当しない場合のみみなし配当課税の対象となります(<図1>参照)。

図1 株式分配

4. 資本の払戻しまたは解散による残余財産の分配

(1) 資本の払戻し

前述のとおり、会社法では、剰余金の配当につき、資本剰余金または利益剰余金のいずれを原資にすることも認められており、このうち資本剰余金を原資とする配当は税務上の資本の払戻しに該当します。
金銭で資本の払戻しを行う法人の税務上の取扱いは次のようになります。

 資本の払戻し

【具体例2】C株式会社が資本剰余金の配当(1株当たり60円)を行った場合
(C社の発行済株式総数200株、前期末の資産の帳簿価額1,500,000円、負債の帳簿価額800,000円、資本金等の額200,000円)

具体例2

ここで、利益積立金額の減少額8,400円は株主側におけるみなし配当の合計額となり、各株主はその持株数に応じてみなし配当課税が行われるため、払戻法人側ではみなし配当に対する源泉徴収が必要となります。

(参考)有償減資の場合

いわゆる有償減資は、会社法上、資本金の額の減少(会社法447)により資本金の額をその他資本剰余金に振り替えた上で、これを原資として剰余金の配当(会社法454)を行うという手続を採ることから、資本の払戻しに含まれます。
【具体例3】D株式会社が資本金10,000円を減少させてその他資本剰余金に振り替え、その資本剰余金を配当した場合
(D社の発行済株式総数200株、前期末の資産の帳簿価額1,500,000円、負債の帳簿価額800,000円、資本金等の額200,000円)

(参考)有償減資の場合

(2) 解散による残余財産の分配

会社が解散して残余財産を分配する場合についても、株式等の発行法人が株主等に金銭等を交付することから、みなし配当が生ずる事由に該当します。
残余財産が確定してその全部を金銭で分配する場合には、資本金等の額と利益積立金額の全部を払い戻します。清算業務に時間がかかっているなどの理由により一部分配を行う場合には、資本金等の額を資本の払戻しと同様の計算式により減少させますが、払戻割合については「資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額」を「残余財産の一部分配により交付した金銭の額」に置き換えて計算します。

5. 自己株式の取得(金融商品取引所の開設する市場における購入による取得等の一定の取得を除きます)

(1) 市場における購入による取得等の一定の取得に該当しない場合

会社法では、単元未満株式の買取りの請求などの一定の事由に該当する場合(会社法155)の他、株主との合意により、株主総会の決議により自己株式を取得することが認められており(会社法156)、株式等の発行法人が株主等に金銭等を交付することから、みなし配当が生ずる事由に該当します。
金銭で自己株式の取得を行う法人の税務上の取扱いは次のようになります。

5. 自己株式の取得

【具体例4】E株式会社が自己株式10株の取得(1株当たり4,000円)を行った場合
(E社の発行済株式総数200株、前期末の資産の帳簿価額1,500,000円、負債の帳簿価額800,000円、資本金等の額200,000円)

具体例4

ここで、利益積立金額の減少額30,000円は株主側におけるみなし配当の合計額となり、株式を譲渡した各株主にはその譲渡株数に応じてみなし配当課税が行われるため、取得法人側ではみなし配当に対する源泉徴収が必要となります。

(2) 市場における購入による取得等の一定の取得に該当する場合

上場会社が自己株式を市場において購入したような場合には、みなし配当が生ずる事由に該当しませんが、公開買付による取得は市場における購入ではなく、みなし配当課税が生ずる事由に該当します。

Ⅲ みなし配当が生ずる場合の通知義務

1. 源泉徴収義務者および源泉徴収税率

剰余金の配当等を支払う内国法人は、源泉徴収義務者として所得税等を源泉徴収し、翌月10日までに納付しなければなりません。ただし、上場株式等の配当等については支払の取扱者(証券会社、銀行等の口座管理機関をいう)が源泉徴収義務者となります。剰余金の配当に係る源泉徴収税率は次のとおりです(所法181、182、212、213、措法9の3、9の3の2、地法71の27~31、復興財源法28)。

 源泉徴収義務者および源泉徴収税率

なお、みなし配当は、交付金銭等の全体に対してではなく、みなし配当部分に対して源泉徴収が行われます。例えば、前記【具体例2】の場合、配当金額12,000円ではなく、そのうちのみなし配当部分8,400円が源泉徴収の対象となります。

2. 通知義務

みなし配当が生ずる支払をする者は、その支払を受ける者に対し、その支払を受ける者ごとに、交付金銭の額、みなし配当の額、源泉徴収税額等を通知することとされています(所法225、所規92)。
ただし、上場株式等の配当等については、支払をする者ではなく支払の取扱者が通知します(措令4の6の2㉔)ので、みなし配当が生ずる支払をする法人は、支払の取扱者に対してみなし配当の生ずる事由、一株当たりのみなし配当額その他源泉徴収の参考となる事項を通知しなければなりません(措令4の6の2㊳等)。例えば資本剰余金の配当の場合、日本証券業協会および全国株懇連合会により定められた「会社が株主に交付する金銭等に係る情報提供に関する事務取扱要領」に基づき、株式の発行者が証券保管振替機構を通じて口座管理機関に対して通知します。
従って、この通知を怠ると、支払の取扱者はみなし配当であることが分かりませんから、冒頭ご紹介した交付金銭の全額を源泉徴収の対象としてしまうといった誤りの原因となります。

(注)文中、法令条文等は、以下の通り略して表記しています。
   所法:所得税法
   所規:所得税法施行規則
   所令:所得税法施行令
   法法:法人税法
   法令:法人税法施行令
   措法:租税特別措置法
   措令:租税特別措置法施行令
   地法:地方税法
   復興財源法:復興財源確保法

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