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情報センサー2021年2月号 JBS

イングランドにおける継続企業の前提に関する実務上の検討事項

ロンドン駐在員 公認会計士 神澤友里
2007年に入所後、IFRS適用企業を含む上場企業の会計監査、および外資系企業の日本法人の会計監査(IFRS、米国会計基準)に従事。19年7月よりEYロンドン事務所に駐在。現地法定監査業務に加え、英国に進出している日系企業の会計、監査、税務、M&Aアドバイザリー等の幅広い業務をサポートしている。

Ⅰ はじめに

昨今のイングランド内での会計不祥事およびBrexitによる経済環境の先行き不透明な状況に加え、2020年3月からのCOVID-19のパンデミックが生じたため、イングランド当局であるFRC(Financial Reporting Council)からの要請により、現在、イングランド法定監査において継続企業の前提※1に関して従来よりも慎重な検討が行われています。そのため、2019年度の法定監査の意見提出が昨年度よりも遅延したケースが散見されました。
また、従来イングランド子会社の対応だけで完了していた継続企業の前提に関する経営者評価に関して、評価の結果、親会社からのサポートレター(企業の事業継続のため子会社に対し財務支援を約束する書面)が必要となり、親会社側で追加対応が必要となった事例も生じました。
進行期において、イングランドでは20年3月以降複数回のロックダウンが実施されたことにより(20年12月現在)、多くのイングランド企業の業績に影響が出ています。そのため、前年度の法定監査では検討課題とならなかった継続企業の前提の検討の中で、当年度は監査上において疑義ありと判断されるリスクを多数のイングランド企業が抱えています。
またイングランドの監査基準で継続企業の前提を取り扱う改定後ISA(UK)570 Going Concern※2が19年12月15日以降開始の事業年度から適用されることも考慮し、進行期におけるイングランド企業の継続企業の前提に関してあらためて慎重な検討が必要です。

Ⅱ イングランドの継続企業の前提について

1. 現状

イングランドでも、財務諸表は継続企業を前提として作成する必要があります。日本での実務に加えて経営者は自社の継続企業の前提に関する評価を文書で作成して財務諸表でその結果を記載し※3、監査人に提出することが求められます。また評価対象期間は、日本の実務の「期末日の翌日から1年間」ではなく、「財務諸表承認日から12カ月」です。評価の結果、自社の資金力だけでは継続企業の前提に疑義がある場合、親会社等からのサポートレターの入手が必要となる場合があります。また、継続企業の前提の検討に関して、当局の要請もあり多くの監査法人で所内追加審査が必要とされるなど、以前より慎重な検討が要請されるため時間を要しています。

2. 現地監査での論点

多くの企業で論点が生じるのは、通常翌年度分の予算しか作成していないこともあり、「財務諸表承認日から12カ月」の検討に照らして不足する期間に関して追加の予算検討が必要となる点です(<図1>参照)。従来は資金力があり継続企業の前提に課題がなかった企業でも、ロックダウン等の影響による業績悪化のため初めてサポートレターを入手する場合もあり、親会社等への早期のコミュニケーションに留意が必要となります。加えて、親会社がサポートレターを発行する場合、親会社側での経営者評価も子会社と同期間を対象とする必要があります。日本企業でも継続企業の前提に関する経営者評価は監査上必要ですが、業績が良い会社の場合はイングランドの監査基準が求める詳細な検討がされていない可能性があります。例えば、予算を作成し今後1年間は黒字であり、現在の財政状態では流動資産が流動負債を上回っている等のため、継続企業の前提に課題はないと判断していたとしても、ストレステスト(将来の不確実性を検討するために将来キャッシュ・フローが下方に乖離(かいり)する可能性による影響検討)を実施してない企業も散見されます。

(下の図をクリックすると拡大します)

なお、サポートレターを親会社から入手しているにもかかわらず、親会社の継続企業の前提の経営者評価および監査法人の検討が不十分な場合、親会社側での追加検討が要請される可能性もあります。十分な追加検討が実施されず、最悪の場合はイングランド法定監査上、無限定適正意見が出ない可能性がある点について、留意が必要です。

【イングランド監査での継続企業の前提に関する主な論点(例示)】
  • 経営者評価期間が適切ではない
  • 予算が最新の状況を反映していない
  • 経営者の予算が前期と同水準となっているが根拠が不明瞭
  • ストレステストを実施していない
  • 借入枠があるため将来キャッシュ・フローは十分と結論づけているが、借入契約上の財務制限条項に抵触する可能性について検討していない
  • サポートレターを入手しているが、条件付きでのサポートとなっている

3. 20年度における対応

19年度はCOVID-19のパンデミックを考慮し、FRCは非公開会社(Ltd:Private Limited Company)の法定監査期限を本来の期末日を9カ月から延長し、最大で12カ月としました(PLC:Public Limited Companyの場合は、延長の結果、期末日から9カ月が期限)。20年度期限については現時点では法定監査期限の延長容認の公表がされていないことから、本来の期限が適用される可能性がある点にもご留意ください。
また新たに適用される改定後のISA(UK)570は、監査人に経営者評価に対して以前より批判的な検討を行うこと、また入手した将来予測に関する全ての情報に対して個別に検討結果を文書化することを要請しています。そのため、経営者側の評価で検討漏れがある場合など、監査人との協議に時間を要する可能性があります。また過去の経営者評価において、企業が予算を検討する際に過年度実績を根拠に継続企業の前提に関して課題なしとしていた場合など、従来の予算検討方法を大きく見直す必要が生じる可能性もあります。

Ⅲ おわりに

世界的な影響が生じているCOVID-19の企業の事業活動への影響は、地域、業種によって異なりますが、前述の通り、イングランドにおいては継続企業の前提に関する検討はより慎重に行う必要が生じています。今後のCOVID-19の収束時期が見通せない難しい状況ですが、現地監査人との協議、必要に応じて親会社としても在イングランド子会社と連携して早期に継続企業の前提に関する検討を進めることで、イングランド法定監査意見の遅延を未然に防ぐようご留意いただければ幸いです。