刊行物
情報センサー2021年2月号 Trend watcher

VAR分析の利用事例

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Strategy

バリュエーション、モデリング&エコノミクス 米国公認会計士 三森亮平
国内大手事業会社等の財務・経理部門を経て、2008年EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画。主に事業・株式価値算定、ハイブリッド証券・オプション性金融商品の価値算定業務、エコノミック・アドバイザリー業務を担当。日本証券アナリスト協会検定会員。

バリュエーション、モデリング&エコノミクス 井上雄介
国内シンクタンク研究員・大学非常勤講師を経て、2019年より現職。専門領域はマクロ経済政策・日本経済論・計量経済学。19年より早稲田大学産業経営研究所招聘研究員。

Ⅰ はじめに

本稿では、前回(本誌2020年11月号)取り上げたVAR分析(Vector Auto-regression:ベクトル自己回帰分析、以下VAR分析)について、実際の利用事例を紹介します。VAR分析は、ある時間軸に沿って集められたデータを基に、各値のラグ変数(変換間に生じる影響が同時的に発生せず、次期に遅れて影響を示す変数)を基に定式化されるアプローチです。同分析を採用する利点の一つに、将来予測が可能である点が挙げられます。時系列データ群を利用して同分析を行うことで、当該データ群の周期性および因果関係に基づいたモデルが設計できます。広く横断的に利用されるVAR分析において、経済領域に関する具体例を挙げれば、将来予測の中でも価格予測が代表的といえるでしょう。そこで実際にVAR分析による予測モデルの推計およびその結果について説明します。

Ⅱ VAR分析の理論

今回例示するのは、原油価格の予測モデルです。特に、ニューヨーク州マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されているWTI(West Texas Intermediate)の価格を対象とします。
VAR分析を行うに際して、対象とする変数に影響を与えると想定されるものを選択し、モデルに組み込む必要があります。WTI価格に影響を与える原油価格の関係データとして、原油産出量がまず挙げられるでしょう。産出量の増減は、先物価格市場を通じて、裁定的に取引価格の需給バランスへと変動を与えるため、価格に対する影響は大きいものと推察されます。WTI価格の裁定取引を考える上では、地理的関係性も考慮する必要があるため、米国原油生産量を使用します。またVAR分析を利用するという見地から、将来価格として推計するWTI価格自身の履歴情報も当然含まれます。利用するデータの推移は、<図1>および<図2>の通りです。

(下の図をクリックすると拡大します)

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以上の原油関係のデータを前提に、経済変動要因を加味した上で、米国原油生産量、WTI価格自身の各履歴情報からWTI価格を推計します。本稿では簡易的に、ラグ次数(n)を2とする多変量VAR(2)分析モデルを想定しています。
なお時間単位は月次となっています。分析期間は、06年2月から20年8月までとし、当該期間における時系列データ群を使用しています。

Ⅲ 検証結果

実際に上記の推計結果を示せば、<図3>の通りになります。

(下の図をクリックすると拡大します)

予測値の期間は、20年8月までの過去実績値をもとに、同年9月以降翌21年8月までの一カ年となります。実際には、本モデルで使用した変数以外の価格変動要因が当然に含まれるため、その推移を正確に予測することは困難です。一方で、その価格推移の傾向が上昇傾向にあるのか、または下降傾向にあるのかといった判定に対して、確率的な予測が可能となります。図示した信頼区間の領域をより特定していくためには、更に影響力の強い変数を内生化していくことが求められます。

Ⅳ おわりに

VAR分析モデルは、本事例によって説明したように、その性質上、将来予測が可能です。こうしたアプローチの精度は設定するモデルの変数選択、履歴情報の適用期間といった各種要因に強く依存します。こうした前提を適切に理解した上で、VAR分析を採用すれば、各種ニーズに応じたアプローチを提供できることが期待されるでしょう。


情報センサー 2021年2月号
VAR分析の利用事例 (PDF:442KB)