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令和3年度税制改正大綱

2021年2月1日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2021年2月号 Tax update

EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門委員会 専門委員(2004年~2020年)。

Ⅰ はじめに

令和2年12月10日に、令和3年度与党税制改正大綱が公表されました。以下、大綱で明らかにされた主要な改正・見直し項目の概要を説明します。なお、今後の国会における改正法案審議の過程において、一部項目の修正・削除・追加などが行われる可能性があることにご留意ください。

Ⅱ 法人課税

1. 研究開発税制の見直し

売上が一定程度減少したにもかかわらず、研究開発投資を増加させた企業について、税額控除上限が法人税額の25%から30%に引き上げられます(制度全体の上限は45%から50%になります)。2年間の時限措置です。また、ソフトウェア分野における研究開発を支援するため、自社利用ソフトウェアの取得価額を構成する費用について、本税制の対象に追加されます。

2. DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制の創設

国から認定を受けた事業計画に基づき、クラウド型システム等の導入により事業変革デジタル設備投資を行った場合に、取得価額の30%の特別償却あるいは3%(グループ外の事業者とデータ連携をする場合は5%)の税額控除の選択適用ができる税制が創設されます(2年間の時限措置)。対象となる設備投資額の上限は300億円です。

3. カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設

国から認定を受けた事業計画に基づき、脱炭素につながる設備投資を行った場合に、当該設備の取得価額の50%の特別償却あるいは5%(一定の要件を満たせば10%)の税額控除の選択適用ができる税制が創設されます(3年間の時限措置)。ただし、税額控除における控除税額は、DX投資促進税制の控除税額との合計で当期の法人税額の20%が上限とされます。本制度の対象となる設備投資額の上限は500億円です。

4. 繰越欠損金の控除上限の特例

コロナ禍の2年間にわたって生じた欠損金について、認定を受けた事業計画に従って行われたDXやカーボンニュートラル等、事業再構築・再編に係る投資の金額に応じて、所得の金額から最大100%までの控除を可能とする臨時措置が講じられます(時限措置)。

5. 株式対価M&Aを促進するための措置の創設

法人が、会社法の株式交付制度によって、その有する株式を譲渡し、株式交付親会社の株式(自社株式)の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べる措置が創設されます。自社株式にあわせて金銭等を交付する場合も、対価の80%以上が自社株式の価額である場合には、自社株式に対応する部分の譲渡損益の繰り延べが認められます。

6. 賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し

大企業向けの当該税制の要件を見直し、新規雇用者の給与等支給額及び教育訓練費の増加に着目した税制とします。

7. 中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設

経営資源の集約化によって生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業が、中小企業の株式取得後に事後的なリスクに備えるため、買収額の一定割合を準備金として積み立てたときは、一時に損金算入を認める措置が講じられます。損金算入から5年経過した後から、5年間にわたり均等で益金算入することになります。

8. その他

  • 中小企業者に係る軽減税率(15%)の特例が2年間延長されます。
  • 大企業に対して、研究開発税制その他生産性の向上に関連する税額控除の規定を適用できないこととする措置について、見直しを行った上で、適用期限が3年間延長されます。

Ⅲ 納税環境整備

1. 電子帳簿等保存制度の見直し

国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続きが抜本的に見直されます。事前承認制度が廃止されます。現行の厳格な要件を充足する電子帳簿以外の電子帳簿についても、一定の要件を満たす場合には、電子帳簿として電子データのまま保存することが可能となります。スキャナ保存制度については、手続・要件が大幅に緩和されるとともに、電子データの改ざん等の不正行為を抑止するための担保措置が講じられます。

2. 税務関係書類における押印義務の見直し

現行において実印による押印や印鑑証明書の添付を求めているものを除き、押印義務が廃止されます。

Ⅳ 所得課税・資産課税・その他

1. 住宅関連税制

住宅ローン減税の控除を受けられる期間を10年から13年に延ばす特例措置が2年間延長されます。対象となる住宅の面積要件も緩和されます。子や孫への住宅資金の贈与にかかる贈与税についても、現在の非課税上限枠(1,500万円)が令和3年12月まで保たれます。

2. 固定資産税

令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地(商業地や住宅地など全ての土地)について前年度の税額に据え置く特別な措置が講じられます。税額が減少する土地については、少ない税額が適用されます。

3. 国際金融都市に向けた税制上の措置

投資運用業を主業とする非上場会社等の役員に対する業績連動給与について、一定の要件のもと、法人税法上で損金算入が可能となります。また、就労等のために一定の在留資格を持って日本に居住する外国人に係る相続等について、その居住期間にかかわらず、国外財産を相続税等の課税対象としないこととされます。ファンドマネージャーの報酬(組合利益の分配)について、一定の場合には、所得税法上の分離課税の対象となることの明確化が行われます。

4. 外国子会社配当に係る外国源泉税の取扱いの見直し

外国子会社配当に係る外国源泉税の損金算入と外国税額控除の適用について、外国子会社合算税制における二重課税調整対象金額に着目して、取扱いが見直されます。

5. その他

  • 短期の退職金について、退職所得課税における2分の1課税(平準化措置)が見直されます。
  • 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について、見直しを行った上で、適用期限が2年延長されます。

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