- 新型コロナウイルス感染症という懸念材料がありながらも、2020年第1四半期(以下、Q1)はIPO件数、調達額ともに前年同期比で増加
- 2020年最も活況を呈したのが製造業セクターで、IPO件数が45件で調達額は合計63億米ドル
- IPOはQ2を通して停滞が続くことが予想され、2020年下半期に回復が期待される
IPO市場は、2019年Q4からの勢いに乗って2020年の年頭は活発でした。しかし、世界に拡大した新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の影響によって、IPOのチャンスへの期待、および2020年上半期における活性化の望みにブレーキがかかりました。2020年Q1(2020年の現時点)に世界で行われたIPOは235件で、調達額は合計で285億米ドルでした。株式市場は予想されたほど上昇相場ではなかったものの、2020年Q1のIPO市場は前年同期比で件数が11%、調達額が89%の上昇となりました。(但し、2019年Q1のIPO市場は相対的に低い値でした)
2020年Q1は、1月と2月に多くのIPO活動が行われたのち、3月には新規上場がほぼ無くなるという、両極的な結果となりました。この時期、Asia-Pacificエリアでは160件のIPOが168億米ドルを調達、Americasでは40件のIPOが82億米ドルを調達するなど、2019年Q1と比較して件数、調達額ともに増加しました。一方、 EMEIA では35件の IPOが行われ、35億米ドルが調達されましたが、件数は減少となりました。2020年Q1に最も活況を呈したセクターは製造業で、45件のIPOが63億米ドルを調達しました。現時点までの累計件数では、テクノロジー(40件)、ヘルスケア(30件)のIPO市場も活況でした。本分析結果を含むより詳細な情報は、EYが3月25日に発表した『Global IPO trends: Q1 2020』(EYが四半期ごとに発表している報告書)をご覧ください。
EYのグローバルIPOリーダーのPaul Goは次のように述べています。
「世界のIPO市場は、2019年Q4からの強い追い風に乗って、2020年の1月と2月は好調なスタートを切りました。しかし、COVID-19感染拡大という、想定外かつこれまで経験したことのない事態が、世界の株式市場に大きな打撃を与え、他のグローバルなマーケット要因と相まって、2008年の世界金融危機以来となる大きな市場の混乱を再び引き起こしています。今回のマーケットの非常に高いボラティリティは、すべてのIPOのタイミングおよび企業価値算定の両面における、不確実性を非常に高くしています。」
Asia-PacificのIPO活動は年初来の勢いを維持
Asia-Pacificでは、2020年Q1に160件のIPOが行われ、合計168億米ドルを調達し、前年同期比で件数は28%、調達額は110%の増加となりました。2020年Q1の全世界のIPO件数の68%、調達額の59%をAsia-Pacificが占めています。
グレーターチャイナ(中華圏)では、中国本土の証券取引所での活動と比較して、香港の証券取引所のIPO活動がよりマイナスの影響を受けました。両者を合わせたグレーターチャイナにおける2020年Q1のIPOは、件数が90件で、調達額が132億米ドルでした。前年同期比で、件数が34%、調達額が104%の増加となりました。
日本の証券取引所は、2020年Q1を通して引き続き強さをみせ、IPO件数は28件、調達額は5億9,200万米ドルでした。前年同期比で、件数が22%の増加となった一方で、調達額は21%の減少となりました。
EYのAsia-Pacific IPOリーダーのRingo Choiは次のように述べています。
「COVID-19感染拡大は、IPOに短期的には影響を与えています。しかし、各国政府が対策を講じ、景気刺激策を打ち出していく中で、2020年の各国のIPO市場は、Q2以降ある程度回復していくこととでしょう。」
EMEIAのIPO件数は減少したものの、調達額は増加
EMEIAにおける2019年Q1のIPO活動は、件数が35件で調達額が合計35億米ドルと、前年同期比較で件数では31%減少しましたが、調達額では133%の急伸となりました。この要因の一つが、インドの金融機関、SBIカード&ペイメントサービスのIPOで、調達額は14億米ドルに上りました。EMEIAは前期に引き続き、2020年Q1の調達額で世界トップ10の証券取引所に3つの証券取引所がランクインしました。また、IPOの件数で世界トップ10の証券取引所の中で、EMEIAでは1つの証券取引所がランクインしました。
EY EMEIAのIPOリーダー、Martin Steinbachは次のように述べています。
「EMEIAではかねてから第1四半期のIPO活動は緩やかな傾向にありますが、今回のCOVID-19感染拡大が、資本市場の投資家心理に影響を与えています。これはEMEIAが、地理上、他のエリアよりも国境をまたぐサプライチェーンへの影響を受けやすいためです。株式市場の記録的に高いボラティリティの影響も受けて、IPOが先延ばしにされたため、2020年Q1のIPO活動は鈍化しました。企業にとって、IPOの適切なタイミングを見極めるのはこれまで以上に難しくなり、今後のさらなる成長に向けた資金へのアクセスを可能にする適切でリスクを抑えたIPO戦略を模索していくことになるでしょう。経済的な影響を何としてでも緩和する態勢にある各国の中央銀行と政府の動きにより、IPO活動は2020年下半期に活発化すると私たちは期待しています。」
2020年の見通し:当面の間、投資マインドの冷え込みがマーケットに影響
COVID-19感染症がもたらす世界経済活動への負の影響を考えると、2020年2QにIPO市場が急速に回復する可能性は低いと思われます。しかし、Q3は一般的に1年のうちIPO活動が低調な時期ではありますが、マーケットが回復を試みること、また世界中のIPO候補企業が次のIPOのチャンスの時期を待ち構えていることから、Q3にIPOが活性化する可能性があります。