2020年度上半期のIPOは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大きな影響により、件数、調達額とも減少傾向が続きました。全体的に見ると、2020年2Q(4-6月)には、すべてのリージョンでIPOの件数が前年同期比で減少しており、AmericasとEMEIAでは調達額も前年同期比減となりました。
世界全体のIPOは、4月と5月に急激に落ち込みました。この時期行われたIPOの件数は97件で、調達額は132億米ドルでしたが、これは2019年の同月と比較して、それぞれ48%と67%の減少でした。その結果、2020年上半期のリージョンにおけるIPOは前年同期と比べて減速しました。また、2020年現時点でのIPO件数は419件、調達額は合計695億米ドルで、2019年の同じ時期と比較するとそれぞれ、19%と8%の落ち込みとなりました。2Q後半の6月には多くのIPOが行われたとはいえ、2020年度現時点までのAmericasとEMEIAの証券取引所におけるIPOは停滞状態にありました。
一方、Asia-PacificにおけるIPOは増加しました。2020年現時点までにAmericasでは、81件のIPOが行われ、調達額は245億米ドルでしたが、これは2019年の同じ時期と比較すると、どちらも30%の減少でした。EMEIAでは2020年現時点までに68件のIPOが行われ、調達額は101億米ドルでしたが、前年同期比でそれぞれ50%と44%の減少でした。2020年現時点までにAsia-Pacificでは前年同期比2%増となる270件のIPOが行われ、調達額は前年同期比56%増の349億米ドルとなりました。セクター別では、テクノロジーで87件のIPOが172億米ドルを、製造業で83件のIPOが96億米ドルを、ヘルスケアで76件のIPOが159億米ドルをそれぞれ調達しました。本分析結果を含むより詳細な情報は、EYが6月29日に発表した『Global IPO trends: Q2 2020』(EYが四半期ごとに発表している報告書)をご覧ください。
EYグローバルIPOリーダーのPaul Goは次のように述べています。
「世界の多くの国で(コロナ危機によって)経済活動が抑制されたため、2020年4月、5月のIPOは減少しましたが、6月には大きな好転がありました。コロナ危機のもとでも、うまく対応できるセクターに属し、そのようなビジネスモデルを有し、なおかつ、緊急時に備えている企業は、激動の資本市場にあっても、2020年の残りの期間でIPOのチャンスの時期を正しく見極めることができるでしょう。」
AmericasにおけるIPOは鈍化
Americasの2020年上半期のIPOは、依然としてその大半が米国の証券取引所で行われ、AmericasのIPO件数の79%(64件)、調達額の91%(224億米ドル)を占めました。その中には5社のユニコーン企業のIPOが含まれていました。ヘルスケアとテクノロジーは、米国で2020年現時点までに行われたIPOの件数の55%と25%を占め、IPOを最も活発に行ったセクターとなりました。ヘルスケアセクターでは、35件のIPOが合計102億米ドルを調達し、調達額ではAmericas全体の46%を占めて、他セクターを引き離しました。
メキシコの証券取引所では、1件の評価額が11億米ドルに上るIPOが行われ、これは2020年2Qにおける世界で8番目に大きなIPO案件となりました。
EY AmericasのIPOリーダーのJackie Kelleyは次のように述べています。
「株価が好転し、資本市場の投資家心理が改善してきている中で、IPO市場にも回復の兆しが見えてきています。2020年上半期のIPOの3分の1近くが、6月に行われました。2020年度下半期または2021年初頭に株式上場することを検討している企業が多くあるため、IPOを目指す企業は引き続き増加しています。」
Asia-PacificのIPOは安定した状況が継続
2020年現時点までのAsia-PacificのIPOは、前年の同時期と比べて件数が2%、調達額が56%の増加となりました。2020年2Qには件数が前年同期比で18%減少となったものの、調達額は28%上昇しました。件数で世界トップ5の証券取引所のうちの4つ、調達額では世界トップ5のうち3つが、Asia-Pacificの証券取引所でした。2020年現時点までの段階で、調達額の世界の第1位はナスダック(NASDAQ)で、その後に上海証券取引所と香港証券取引所が続いています。件数では、上海証券取引所、香港証券取引所、ナスダックの市場が世界の先頭を走っていました。中華圏におけるIPOを見ると、2020年現時点までで、件数(179件)が29%、調達額(309億米ドル)が72%の前年同期比増となりました。
日本の2020年現時点までのIPOは前年同期と比べて、件数(34件)が17%、調達額(6億2,500万米ドル)が53%の減少となりました。オーストラリアとニュージーランドでも、2020年現時点までのIPOは前年同期と比べて、件数が41%、調達額が82%の減少となりました。
EYのAsia-Pacific IPOリーダーのRingo Choiは次のように述べています。
「アジア太平洋地域はコロナ危機の影響を受けたものの、IPOのレベルはこれまで通りで安定していました。そして、いくつかのマーケットでは、投資家の需要が堅調なまま推移してきました。マーケットの高い流動性を維持するというコンセンサスがさらに高まっている中で、2020年下半期のIPOは、引き続き好調なことが予想されます」
EMEIAでもIPO減速
力強いスタートを切った2020年は、新型コロナウイルスの影響により、3月から5月にかけてIPOが大きく減速したことから、欧州における現時点までの件数が前年同期比で47%減の42件、調達額が48%減の78億米ドルという結果となりました。中東・北アフリカ(MENA)では、現時点までの件数が11%減の8件、調達額が43%減の9億米ドルとなりました。インドの証券取引所では2020年年初から16件のIPOが行われ、14億米ドルが調達されました。これは、件数で61%減、調達額で9%減という結果でした。また、マラウイの証券取引所では調達額2,900万米ドル、バングラデシュの証券取引所では、700万米ドルのIPOがそれぞれ1件行われました。
EY EMEIAの IPOリーダーであるMartin Steinbachは次のように述べています。
「コロナ危機の中、私たちは新しくリモートによるIPO環境を体験してきました。この環境では、オンライン投資家会議の開催、リアルタイムのフィードバック取得、機関投資家向け会社説明会の開催期間の短縮が可能なことから、短期的なマーケットリスクを抑えることができます。ボラティリティが低下傾向にあり、主要インデックスが反発していることから、EMEIA各国のマーケットは、2020年後半にIPOが活況を取り戻すに十分なほど順応性と回復力があり、IPOに対して前向きです。この傾向は特にテクノロジー、製薬、ライフサイエンスのセクターで顕著です。」
2020年後半の予想:IPO回復の見込み
新型コロナウイルスの流行とそれが世界経済活動に与えるマイナスの影響を考慮すると、短期から中期にかけて、世界各国の政府は失業率の増加を抑えるため、引き続き対策を講じ、景気刺激策を打ち出していくでしょう。同時に中央銀行は金融システムに対して一層の資金供給を行うでしょう。この二つの動きは、2020年下半期の株式市場にとっても、IPOの動きにとっても好材料となります。